第百五十九話
シミュレーターが完成した。
トラックが来たので設置しようと人型重機で運ぼうとしたら、トマスがいた。
にっこり。
一台カツアゲされた。
とりあえず二台設置。
「思いついたんですけど、対戦機能じゃなくて協力プレイ機能つけます?」
「なにそれ面白そう」
妖精さんの思いつきでアップデート。
するとトマスから通信が入った。
「これすごいよ!」
さっそくプレイしたか。
これ、面白いんだよねー。
理不尽すぎる死にゲーなところが特に。
「ども。あ、いま協力プレイできるようにアップデートしてるとこです」
「な! もっとくれないか?」
「あの場所と予算が……」
商業利用考えてないから、お高いのよ。
造形プリンターと組み立て機で作れるけど、一台億クレジットかな。
「20台頼む。そこに君らの使う分も足してくれ。費用は我が隊が持とう」
値段聞かないのぉー!?
真のセレブの恐ろしさを垣間見た。
そういや嫁ちゃんも基本的に値段聞かないな。
俺……セレブの世界でやっていけるのか?
「お、押忍。えーっと妖精さんお願いします」
「はーい」
とりあえず設置した二台はメリッサとクレアにテストしてもらった。
そしたら暇を持て余した男子どもがうずうずしてる。
わかるぞ。新作ゲームしたかったんだな。
さらに二日ほどして全台納入。
結局、25台ずつにした。
どこに置くんだよと思ったら、トマスの権力で体育館を明け渡してもらった。
司令官がブチ切れそうになってたので空気読んで日本酒を差し入れた。お高いやつ。俺の財布から。
完全予約販売で二年待ちのはずなんだけど、嫁ちゃんの紹介状出したらすぐ買えた。権力怖い。
司令官に差し入れ渡したら肩をぽんっと叩かれて「君も苦労してるんだな……」って言われた。
なんだろうか。少しだけお互いを理解できたような気がする。
ゲーセンと化した体育館。
一階はトマス隊、二階は俺たちにした。
拡張現実組ともクロスプレイ可能に調整した。
それにともない兵種ごとのシミュレーターを統合。
スタート後に選択できるようにした。
いまのところ200人での同時協力プレイが可能であろうと推測されている。
というわけで俺たちは勤務時間内に堂々とゲームができるようになった。
もちろん通常業務の雑用はちゃんとやるけどね。
さて10代の暇を持て余したアホどもに死にゲー渡すとどうなるか?
「三人を盾で守れ! オフェンスの要だ!」
俺とメリッサ、それにクレアを男子どもが守る。
「旦那様! 援護します!」
スナイパー班が援護にまわる。
目の前だけでも数百体はいるだろう。
恐ろしい数の人型戦闘機が全方面から同時に襲ってくる。
男子の盾が限界に達した瞬間、俺は飛び出す。
「ヨシ! ビームよけろ!!!」
好き勝手なことを言いながら男子どもも盾を捨てて銃撃する。
何人もがビーム回避に成功。
俺もビームをよけていく。
「オラァ!!!」
剣で一体を両断し、さらに敵を潰していく。
だけど数が多すぎる!
だんだん劣勢になっていく。
「あ!」
メリッサの機体にビームが命中した。
これに慣れてるクレアはまだ墜ちてない。
だけど俺はもう限界だった。
ミサイルに囲まれる。
あ、無理!
避けられない!
ぼーん。
「ぎにゃああああああああ!」
「レオがダウンした!」
「もう無理いいいいいいいッ!!!」
次々と仲間がやられていく。総崩れだった。
俺たちは数の暴力の前になす術もなかった。
ゾークとは勝手が違う。
力技でのゴリ押しが通じない。
ゾークはまだ力技でのゴリ押し通じるからな……。
もう三日くらいこの調子だ。
「反省会するぞ!!!」
球技大会のときの男子のテンションである。
失敗を糧にして強くなる。
体育会系特有の勝利への執念が垣間見える。
「いや、三日でここまで戦えるってあんたらおかしいから」
妖精さんはそう言うけど俺たちは納得しない。
戦えるだけじゃだめだ。
圧倒的にボコれなきゃだめだ。
「殺戮の夜の機体データ取り込んでボコボコにされるなんて……」
俺はつぶやいた。
通用するわけがない。
ある程度戦うとリニアブレイザーが出現する。
それも複数。
だけど毎回惜しいところまで行くのよ!
次やるとクリアできそうな気がするのに次はボコボコにされる。
「クソ! やはり全員がエースクラスじゃないとクリアできないか……」
「いやだからさー、人数に応じて難易度上げてるけど単純に一人プレイ×人数の敵出してるだけだから調整してないって何度も……」
妖精さんの声は俺たちには届かない。
「ミサイル持ってる相手に盾作戦は通用しないみたいだな。次は全員中距離武器を持っていくぞ!」
「おー!!!」
「だからさー!!!」
妖精さんがツッコミ疲れて画面の隅で頭を抱えた。
「あ、アホの集団すぎる……脳筋もここまでいくとおかしいでしょ……」
クレアはずっと苦笑いしてる。
「ほら、レオも男子もバトルジャンキーだから……」
クレアさん、それは違う。
レンやメリッサを見ればわかる。
「ぐるるるるるるるるる!」
やる気があふれまくるレン。
「あの攻撃が遅いのが原因だから……これを……こうして……」
ブツブツ一人反省会をするメリッサ。
バトルジャンキーは女子もである。
というか、ニーナさんまで笑顔で機体の装備をいじってる。
一歩引いてどん引きしてるケビンですら、スポッター役でレーダー車を使ってる。
みんな前線で戦いたがるからケビンの存在は助かる。
……うちの連中、バーサーカーすぎない?
「あ、館内掃除の時間だ……はーい、掃除班は持ち場に行くぞ~」
「……えー!」
男子どもが嫌そうに掃除に行く。
俺は今日は洗濯班。
ランドリーに行く。
って現実とゲームが逆転してきたな。
危ない危ない。
ちゃんと働かないと。
下に降りていくとトマスの部隊と鉢合わせた。
「おはようございます!!!」
昼だろうと夜だろうと「おはようございます!!!」である。
するとトマスが俺の前に立った。
え? なに?
なんで笑顔。
「一緒に訓練しよう」
わざとサーバー分けてるのに。
「先に任務遂行しても?」
俺には無限にアイロンをかける戦場が待ってるのさ。
あと雑魚寝ルームの汚い寝具のシーツとの戦い。
「もちろんだ! 諸君! レオ・カミシロの部隊が訓練に加わるぞ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
なんだろうか、この気合の入りよう。
妖精さん……なんかとんでもないものを作っちゃったんじゃ……。




