第百五十八話
嫁ちゃんからメッセージが来た。
【ヘタレ】
だからさー!
本人の自覚が薄いのに【愛してるぜベイベ】とか言えるかよ!!!
俺が言ったらギャグにしかならんわ!
【妾はクレアのハーレム入りに賛成じゃ】
だからさー!
めんどうなので答えるのやめとこ。
「ヘタレのレオくんに朗報です」
妖精さんも攻撃的だ。
女子たちの俺への当たりが強い。
ぴえん!
「で、なによ」
「生命体が赤外線センサーに引っかかりました。で、こちらが赤外線カメラの映像からAIで作った3Dモデルです」
「ほほう」
凶悪な顔をした熊に見える。
口がやたら大きい。
狼と熊の中間くらいの顔だ。
手が異常なくらい大きい。
熊ってより獣型の怪獣に見える。
って、前に殺したやつと姿が違うじゃん!!!
こういうののお約束でカメラに気づいて壊……え?
「赤外線見えるの?」
「においかもしれませんけどね。解剖結果だとわからなかったようですが」
そんなすぐにわかるはずねえか。
年内にある程度の推測ができればいい方か。
ゾークの外骨格すら解明されてないもんね。
「罠は?」
基地と警察が罠を設置してたけどどうなったんだろう。
しかも最初から捕獲を考えてないやつ。
戦車や人型戦闘機に使う地雷だ。
センサー爆弾も設置したらしいけど。
最悪、森ごと焼いてもいいかなって考えてる証拠だ。
「かからなかったみたい」
「頭いいな」
やはり赤外線見えてるっぽいな。
人間よりも見える光の幅が広いんだと思う。
「基地司令官は森にナパーム爆撃することを提案したんだけど文化省やら環境省が猛反対してるんですって」
「なんで?」
「未調査の皇族の史跡があるみたいよ。環境省は【もう自然を壊さないでえええええええ】って感じみたいですよ」
「嫁ちゃんのコロニー落としがまずかったか……」
あれで帝都惑星の都市の半分が吹っ飛んだ。
人の避難は完了していたので人的被害は少ない。
犠牲者の大半はゾークに殺されたと推測されてる。
幸い舞い上がった土壌成分はドローンで除去できた。
日光の入らない氷河期は回避できたんだよね。
他の被害はシャレにならないけど。
史跡も自然環境も消滅。
特に破壊した自然の復旧は何億人もが従事する百年単位の事業だ。
俺が生きてる間は復旧は難しいかな思う。
あの武器を使ったのはしかたなかったのだが、次使うのは難しいだろう。
そのときは帝都惑星を放棄するときだ。
さらなる史跡や自然環境の破壊は役所が猛反対するわな。
まだ人的被害が出てない状況じゃ、彼らに正当性がある。
さすがにナパーム爆撃は許可されないだろう。
となると俺たちで倒すしかない。
「あ、クレアちゃん帰ってきたよ」
「了解」
みんなで出迎える。
クレアは元気だった。
診断結果はタンコブと超能力の使いすぎ。
頭を打ったので一晩経過観察となった。
みんなで入り口に行くと軍用車からクレアが出てきた。
とうとうトマスの近衛隊も基地の酷い一般車両に耐えられなくなったようだ。
「みんな、心配かけてごめん!」
「いいって、いいって。うちは死にかけるのが芸風だしさ」
「なー隊長。ほら行け! このモテ男!」
男子どもに尻を蹴られながら前に出る。
「お帰り」
「うんありがとう」
なんだか気恥ずかしい。
「荷物運ぼうか?」
「服だけだから」
軍の施設なので私服ってわけにもいかない。
軍服だ。
元の軍服は血まみれで救急が処置をするときに切り裂いたので廃棄。
いまクレアが着てるのは新品である。
俺もよく破損するから新品が多い。
仲間である。
クレアは士官学校のスポーツバッグを持っていた。
中身は下着だろうから持つのは遠慮する。
みんなでクレアを雑魚寝してる部屋まで送って終了。
女子はカーテンでパーソナルスペースを区切ってた。
あら天才!
野郎どもはノーガード戦法である。
「じゃあの~」
ここで別れて食堂へ。
報告書書かんと。
【クレア少尉退院】と。
もうみんなシステムだと少尉扱いなのね。
【報告者レオ・カミシロ大尉】っと。
へいへい、職務負傷の申請しとこっと。
秘技! 共済組合にも同じフォーマットで提出の術。
おしおし、とりあえず目の前の書類は終わり。
報告書を提出し終わるとメリッサとレンが来た。
「ねー! 隊長! 聞いた? クレアさー、妖精さんが作ったシミュレーターずうっとやってたんだって!」
「へぇー」
「ちょうだい♪」
「妖精さんメリッサが欲しいって」
「いいですよー。ただし、これ500年前のエースパイロット用なんで、すごく疲れますからね」
「うおおおおおおおおおおお! そういうの大好き!」
「レンもいる?」
レンはパイロットじゃないけど一応。
それにレンも人型戦闘機の免許は持ってるはずだ。
「スナイパー用ってあります?」
「ありますよ~。はい」
「ありがとうございます」
「って、なんじゃこりゃあああああああああッ!」
メリッサが悲鳴をあげた。
あ、普通に拡張現実から起動したな。
「いきなり囲まれてるんですけど! う、うわ! なにもできずにボコられる!!!」
「そうですよ~。だって応答速度訓練プログラムですから」
「え、これ、人間のスピードじゃないよ!」
「500年前のエース級はそれができたんです」
「妖精さん、物理デバイスでこれ作れる?」
「できますけどー。お高いですよ」
「嫁ちゃんに聞いてみる。【500年前のシミュレーターぽぴいの♪ お願い♪】っと」
「あーた、いつかヴェロニカちゃんに本気で殴られますよ」
でも嫁ちゃんはわかってるんだなー。これが。
【訓練に必要ならいいぞ。予算は気にするな】
だってさ。
「じゃあ5台作ります?」
「3台でいいかな? 置き場がない」
開いてる部屋に置けばいい。
それでも3台が限界だろう。
「はーい。3台発注っと……明日届きます」
「ありがとう」
さてここで俺たちは【暇なとき訓練できるじゃん】程度の認識だったわけだ。
だってゾークは出るけど毎晩襲撃してくるわけじゃない。
だからここで足止めされてる間に訓練できればいいじゃない。
それもすぐクリアできるようなのじゃなくて、無理ゲーレベルのだったらいい暇つぶしになるんじゃないか。
なんて思ってたわけだ。
それは大きな間違いだったと後で知ることになる。




