第百五十六話
500年前と比べてこの世界の文明は退化した。
少なくとも軍事に関しては劣化している。
私、妖精さんことルナの生きてた時代は威力至上主義だった。
超能力ブースター、レールガン、リニアブレイザー、大質量兵器などなど。
たしかに私の時代には覇権を争う銀河共和国が存在した。
コロニー落とし上等。
少年兵に捕虜に爆弾を仕掛けるなどの非道な戦術の数々。
焦った帝国も人体改造してのスーパーソルジャーに使い捨ての超能力者、超能力者の解剖や人体実験も頻繁に行われていた。
人類が野蛮さを捨てきれなかった時代だろう。
そう、その頃は共和国が存在……したはずなんだけどなあ……。
なぜか記録が抹消されている。
500年前の戦争も【戦争があったこと】は薄ら記録されてるが、【誰と戦争してたか】の記録は残ってない。
私の半身であるマザーAIにも記録が残ってない。
誰かが消したにしては執拗すぎる。
個人のしわざではない。
何代にも続いた事業かもしれない……。
それを象徴するようにパイロットの劣化も激しい。
小規模な戦闘しか体験したことのないパイロットの応答速度はエースパイロットでも私の時代の新兵程度だろう。
たしかに500年前は生まれたときから人型戦闘機の応答速度を上げる訓練をするような頭おかしい時代であったが……。
それにしても酷すぎる。
その点、レオくんは異常だ。
脳で考えたスピードと操縦がほぼ同じスピードという500年前の基準でも異常な速度を誇る。
【武道の技を人型戦闘機で再現って……本当に頭大丈夫か?】ってレベルである。
そしていま、レオくんの犠牲者がまた一人。
「ルナ様。もう一度お願いします!」
「あー、もう! クレアちゃん! 500年前の戦士と同じ応答速度出てるから! 合格なんだって!」
人型戦闘機のシミュレーターを何度も繰り返すのはクレアちゃんだ。
農業惑星出身で準男爵の長女。
両親は帝都の小さなスーパーマーケットの経営者。
帝都で二店舗か……。帝都の個人経営にしてはがんばってるな。
でも地方の物産を積極的に扱うため方々の貴族に気に入られて準男爵位を与えられたと。
貴族名鑑には載ってない。
クレアちゃん本人はレオくんと主席の座を争ってる優等生。
なんだけど……クレアちゃんって、私のクローンの長老の子孫だよね……。
なんで平民やってるの?
調べたら権力争いで負けそうになった瞬間、損切りとばかりに夜逃げしたのね。
判断が速くて偉い!
そんなクレアちゃんは悩んでた。
複座の射撃担当だったけど、自分の応答速度が原因でレオくんの足を引っ張っているんじゃないかって。
いやいやいやいや、レオくんと同じ速度で射撃できたら無敵すぎるから。
ツッコミどころ多数なれど、クレアちゃんは私を頼ったのである。
そこで私は500年前の戦士を育成するシミュレータープログラムを渡してしまったのだ。
我ながら、妹の子孫に甘いと思う。
ただクレアちゃんはメキメキと才能を発揮。
すでに人型戦闘機のマニュアル操作は完全に習得。
500年前の戦士と同じ水準まで応答速度を上昇させた。
理論上、現代のエースパイロットよりも上だから……。
それでも足りないとクレアちゃんは努力を重ねてる。
いやさー、レオくんがおかしいだけだから!
人型戦闘機で脱力からのワンインチパンチって、どう考えてもおかしいでしょ!!!
……それにしてもレオくんの周りで才能開花した子多すぎ。
男の子たちだって異常なほど強いし。
みんな仲間の足手まといにだけはなりたくなくて、戦車の免許やら人型じゃない方の戦闘機の免許取ってる。
女子も負けてない。
事務や調理、衛生などの裏方の資格取得者も多い。
でも戦闘面も負けてない。
スナイパーやら爆発物の取り扱いなどを取得している。
男女関係なく、もはや各々がワンマンアーミー状態である。
集団のとしての強さは、トマスちゃんの部隊なんて足元にも及ばない。
すでに帝国最強部隊じゃないかな。
強くならなければ生き残れなかったってのもあるんだろうけど。
そんなクレアちゃんはエースパーロットもどん引きするほどの訓練を己に課していた。
もう汗だくである。
なんだかんだで似てるのよね~。
クレアちゃんとレオくんって。
主に脳筋って意味で……。
そんな中、警報が鳴る。
【火災発生、火災発生、基地の兵士は各人持ち場に……それ以外は待機……】
クレアちゃんが飛び出した。
「ちょっと、どこ行くの!?」
「レオも出るはず!」
「あー、もう! 待って! いまスキャンするから!!!」
私は周囲をスキャンした。
警備用の人型重機がある!
戦闘機じゃないけど実弾のサブマシンガン装備だ。
「倉庫に人型重機! 乗って!」
「了解。ありがとうルナ様」
「【様】はいらないから!」
倉庫に入って端末から認証。
あらま、クレアちゃん、軍の内部データだともう少尉になってる。
「おめでとう! クレアちゃん。少尉になったよ。はい認証!」
倉庫の地下から自動で人型重機が運び出される。
クレアちゃんは人型重機に搭乗してシステムを起動する。
「システム起動」
人型重機の起動はスムーズだった。
勢いでやってるレオくんより上手だと思う。
「ルナ行くよ!」
「うぇーい」
さすが軍用。
ローラーダッシュが搭載されてる。
ローラーダッシュで現場に向かうとボンッと音がした。
ガス爆発?
「クレアちゃん! 火災発生!」
「了解」
そのときだった。
サーモカメラに一瞬だけ、温度の低いなにかが映った。
でも普通のカメラには映らない。
目には見えない!!!
やつだ!!!
「クレアちゃ……」
と言いかけたそのとき。
クレアはすでに発砲していた。
サブマシンガンだけどサイズが大きい。
ドンドンドンッと重く爆ぜる音がし、何者かの皮膚から血が飛んだ。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
何者かは吠えた。
その瞬間、クレアちゃんは異常な反応速度を出した。
レオくんと同じレベル。
クレアちゃんの機体が肘を落とした。
ベキベキベキっと音がする。
何者かの姿は見えない。
だけど落とした肘は効いていた。
何者かがたぶん体当たりをした。
思いっきり吹っ飛ばされた。
ドスンと機体が尻餅をついた。
クレアちゃんの戦闘服に内蔵されたエアバッグが膨らむ。
それでも頭が揺れたみたいだ。
黒目が激しく動いていた。
脳震盪を起こしたかもしれない。
「うおおおおおおおおおおお!」
クレアちゃんが吠えた。
すぐに起き上がってサブマシンガンを撃つ。
だけど見えない何者かはすでにそこにいなかった。
ズブッと音がした。
フレームに爪が突き刺さった。
次の瞬間、クレアちゃんは気合を入れた。
「おりゃあああああああああああッ!!!」
爪の先、頭部の毛をつかんだ。
そのまま思いっきり引き落として、顔めがけて飛びヒザ蹴り。
ぐちゃっと音がした。
胸が高鳴った。
レオくんと同じだ。
ほぼ同じ反応速度だ。
「ぎゃんぎゃんぎゃんッ!!!」
何者かが悲鳴を上げた。
全速力で逃げていく。
「眼鏡割れちゃった……」
クレアちゃんがつぶやいた。
いや鼻血、鼻血が!
とんでもない量の鼻血が出てるから!!!
後から男子たちが来るのが見えた。
「レオくん! こっち! クレアちゃんが負傷!!!」
「了解!!!」
私は……なにかとんでもない化け物を、クレアちゃんの中に眠っていたなにかを解き放ってしまったかもしれない……。




