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【書籍化決定】羅刹の銀河 ~取り返しのつかないタイミングで冒頭で死ぬキャラになったので本当に好き放題したら英雄になった~  作者: 藤原ゴンザレス


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第百五十四話

 会議室の中には、この施設の偉い人がいた。

 みんな軍服だ。

 礼装じゃないけど制服だ。

 一人だけ夏のコンビニ前でウンコ座りしてパン食ってそうなサンダル芋ジャージのガキなので浮きまくってる。

 その中で序列一位はトマスだろう。

 堂々の上座である。

 俺は皇族の配偶者だけど職位は大尉でまだ10代なので下座の席に座ろうとした。


「レオ、なんでそこに座るんだ? 俺の横に来なよ。義理とは言え兄弟じゃないか」


 やめれ。

 偉い人の笑顔が凍ってるからやめれ。

 命令系統を混乱させるのやめれ。

 俺は基地の偉い人にアイコンタクトと身振り手振りする。


【ああ言ってるんすけど】


【い・さ・め・ろ】


【無理】


【もういい! 好きにしろ!】


 トマスの横に座る。

 こういうとき嫁ちゃんだと楽だ。

 後宮と軍で育ったから命令系統の説明しなくていいし、横に座れって言うときはなにか考えがあるときだ。

 俺は口を挟まず従えばいいし、イレギュラーが発生したらフォローすればいい。

 圧倒的に楽だ。

 でもトマスの場合は単に人がいいだけだ。

 善意しかない。

 いやいい人なのよ! トマス義兄さんって!

 でも軍のことはミリ理解してない。

 善意だから余計困るよね。

 トマスの横に座って資料をペラめくり。

 基地襲撃はぼかして【カミシロ大尉の提案による抜き打ち夜間演習】って書かれてる。

【基地は知ってたよ】と言いたいようだ。

 腹を空かせた訓練中の部隊による芋泥棒とは口が裂けても言えないわな。

 一生ものの恥だもんね。はっはっは!

 俺が資料をペラペラめくってると、基地の司令官が親の仇を見つけたような顔でにらんでた。


【余計な事言うなよ! ぶち殺すぞ!!!】


 血走った目がそう語っていた。

 俺は黙る。

 はっはっは! あとで司令官の金で食い物買ってもらおうっと。


「この資料によると演習中に未確認生物の襲撃があったんだね」


 次のページは俺たちが発見した謎の爪痕の写真。

 指の本数が多いことが書かれていた。

 その後は解剖結果。

 生物学的にゾークか否かを判別する方法はない。

 だってカニだったり、触手だったり、人間型だっりと種の垣根を越えてる。

 遺伝子もゾークすべてに共通する部分がない。

 そもそもゾークって言う種がないとも言える状態だ。

 人間型なんて人間と繁殖できるもんな。つまり人間だ。

 かと思えば侍従長やアレクシア60歳みたいに化け物にもなるわけだ。

 つまり規則性や共通性がないのである。

 今回の不可視の化け物も同じだ。

 前にも不可視のゾークに遭遇してるけど、それとは違う獣型だ。

 なんで透過するのか? そのメカニズムはわからない。

 人類だってAIで表面に透過画像を作って擬似的透明を可能にする装備はある。

 どうしたって漏れる赤外線やら、熱やら、音やらですぐにバレるけどね。

 人類側の技術とは違うものらしい。

 それはこれから何年もかけて解明するのだろう。


「それで、この化け物はなんなのだ?」


 トマスが聞いた。

 資料に書いてないんだよね。

 なんだろう?


「わかりません」


「どういうことだ?」


「データベース上のどの生き物とも一致しません。あえて言えば熊に似てますが、熊の一種と言うにはあまりにも違いすぎる……あえて言えば人と熊の中間の生き物とのことです」


 うわーお!

 地獄みたいな話がまた出てきたよ!

 俺の周囲から一歩出たところが地獄なの、本当にやめて欲しい。


「それは何者かの手によるものということかな?」


「それも含めて不明です」


 そりゃね。

 まだ半日だもんね。

 わからねえわな。


「なるほどわかった」


 トマスがそう言うと司令官がビクッとした。

 トマスの圧を感じたのだろう。

 やめろよー、義兄さん。

 公務員は偉い人のそういう態度に弱いんだからさー。

 こういうとき嫁ちゃんは俺のアホアホ発言引き出して場を和ませるのに……。


「相手がなんであろうが同じだ。兵を配置して拠点を守る。義弟よ、力を貸してくれるかな?」


「御意のままに」


 あとは【どこに何人配置する】とかの実務の話だ。

 俺は言われたとおり任務を遂行すればいい。

 だけど基地の司令官としては俺たちを排除したい。

 別に出世とか思惑があるわけじゃない。

 俺たちやトマスをどう扱っていいかわからないだけだ。

 トマスは自分より上位だから好きにさせるとして、俺は自身のコントロール下でなにもさせないことを選択したわけである。

 俺も意味もなく出しゃばって暴れる気はない。

 みんなが安全だったらそれでいいのよ。

 小一時間ほど話し合いをして終了。

 司令官は俺がでしゃばらなかったのを不思議に思ったようだった。

 そのおかげで、たいへん機嫌がよくなった司令官は食料の差し入れを約束してくれた。

 よく勘違いされるけど、俺は脳筋だけど話し合いできるタイプよ。

 別東に帰ったらマットと毛布が支給された。

 長期戦になりそうだから寝袋じゃなくてこっちにしてくれたようだ。

 やはりあの司令官……長く軍にいるだけあって細かいところに気が利くタイプだ。

 雑魚寝ルームにみんなで寝床を作る。

 女子の部屋も置いて行く。

 小麦粉や冷凍の野菜や魚なんかの食料をフォークリフトで運ぶ。

 使っていいって。

 でも米がない。

 明日には配給されるって。

 なので夕飯はケビンたちがお好み焼きを作ってくれた。

 強奪した携帯食料も一緒に食べる。

 缶詰じゃないフリーズドライのやつだ。

 インスタント味噌汁にキューブ型の素を入れてお湯を注ぐ。

 ついでに雑炊の素にもお湯を注ぐ。

 しばらく待つとご飯ができる。量が少ない……。


「はいよ。お待ち!」


 ニーナさんがお好み焼きを持ってきてくれた。

 女神……。

 腹減りまくったので食べようと思った……そのときだった。


「やあ、レオ」


 トマスが来た。

 護衛が後ろに控えてる。

 私的な用事なのか公的な会見なのかわからないよ!!!

 俺は芋ジャージのまま敬礼する。

 みんなもマネして立ち上がって敬礼。


「あはは。私的な用事だよ。みんな楽にして」


 トマスに言われてみんな座って食事。

 いつもより10倍おすましして食べてる。

 特に女子。


「義兄さんも食べます」


「お、いいね」


「殿下!」


 護衛が声を上げるがトマスは笑って制す。


「ここに刺客がいたら、とっくに殺されてる。彼らはそれだけの猛者だよ。さ、君も一緒に食べよう」


 ニーナさんがお好み焼きを持ってきてくれた。

 ニーナさん……できる女!!!


「レオ、君はどう思う? あ、これ美味しいね!」


「侍従長関連じゃなきゃいいなって思います。庶民の食べものですよ」


「へえ、ヴェロニカも普段こういうの食べてるのか」


「一緒にいるときは同じもの食べてますね」


 そういや船の食事は普通に食べてる。

 そういう意味じゃ嫁ちゃんって庶民感覚持ってる希有な皇族なのね……。

 うーん、嫁ちゃんが恋しい。


「レオ、君も料理作るんだろう?」


「調理係のときは作りますね」


「なぜ俺が遠征失敗したのかわかったような気がするよ。君は全力で守る。安心してくれ」


 なぜかトマスは笑っていた。

 あ、フラグとかじゃないんで。

 ただちょっと様子が変わったなと。

 なんだか前よりも印象が柔らかくなったなと。

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― 新着の感想 ―
まあ軍人じゃないのが将軍やってたら、そりゃ勝てないよね。
>この資料によると演習中に未確認生物の襲撃があったんだね ええ、そうです カワゴンとかいうヤツらしいです
思うに 麻呂やその先代の時代にもまともな感性の皇族はいたのだろうか?
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