第百五十三話
事件の後、基地の憲兵に無事逮捕された。
妖精さんが即レイモンドさんに通報。
誤解は解けたのである。
今は次の日。
時間はわからない。
たぶん午前中。
「よくわからなかったから、もう一度説明願う」
50代くらいの憲兵さんが頭を抱えてる。
たぶんこの基地の憲兵の偉い人だと思う。
「お腹すいたから芋泥棒&食料庫から食い物盗んだら、敵の攻撃に出くわした。敵は不可視で山にいる熊よりも大きい。木に残ってた爪の跡から指の本数が違うことがわかった。カツ丼頼んでいいっすか?」
朝食ってねえのよ。お腹すいた。
「すまん……突発的な頭痛と耳鳴りでまったく理解できない。もう一度……」
もう何度目だ?
一晩中ずっと同じ事を聞かれてる。
「いや聞こえてるし理解してるでしょ。もう一度言いましょうか? 芋泥棒……」
「あー! あー! あー!!! 聞ーこーえーなーい!!!」
「いやもう弁護士部門トップのレイモンドさんに報告しましたし」
「なんで余計なことするのぉッ!!! もみ消せないじゃない!!!」
「だって、たぶんゾークですよ。敵。ガス爆発とか、もみ消して更なる被害出たら軍事法廷ものですよ」
「あがががががが! 動悸がががががががが!」
あらま狭心症かな?
だめよ無理しちゃ。
するとドアがノックされ息を切らせた兵士が入ってきた。
「隊長! 士官学校生徒全員捕獲成功とのことです」
「うーん、一晩しか逃げられなかったか。残念」
丸い一日は粘ると思ったのに。
これは訓練の再考が必要だ。
「おかしいから! 特殊部隊までいるのに山狩りして一晩逃げられたのおかしいから!! っていうか基地を襲うように命令した隊長もおかしいから!」
「そりゃあーた。10代の食欲なめすぎですぜ。ところでメリッサとレンは?」
「寝てるよ」
一晩中尋問されてなくてよかった。
俺だけ絞られてるのか……。はっはっは!
「頭痛い……あのカミシロ大尉の正体が……どおりでやたら注意事項が多いわけだ……」
ブツブツ文句言ってる。
もー、もっと楽に生きようぜ。
今度は取調室のスピーカーから音が出る。
「ハッサン隊長。トマス殿下が到着されました。カミシロ大尉の引き渡しを要求されてます!」
「は?」
なんだろうこの斜め上の展開。
すぐにトマス義兄さんがやってきた。
「レオ、元気だったか?」
「寝てないんで頭ボケてますけど元気ッス! 義兄さんどうしたんですか?」
「ヴェロニカに頼まれたんだ」
「でも義兄さんが来なくても……」
「はっはっは! 妹の婿ががんばってるのに俺が前に出ないわけにいかないよ!」
なんだろうね?
俺って偉い人の評価が異常に高いんだよね。
目の前でイライラしてるハッサン憲兵隊長の評価とトマス義兄さんの評価の真ん中くらいが正解だと思うんだけどね。
「さあ、まずはご飯食べて仮眠を取りなさい。起きたら会議をしよう。俺は責任者と会ってくる。君、案内してくれ」
「は!」
トマスとここで別れる。
部屋を守ってた兵士が食堂に連れて行ってくれる。
昨晩盗みを働いた食堂だ。
捕まったみんなもいて先にご飯を食べていた。
「おーっす隊長! 先に頂いてるよ~」
メリッサが手招きしたのでメリッサの横に座る。
前の席にレンもいた。
レンは朝から焼肉を食べている。
メリッサはアジの干物と味噌汁、それに納豆だ。
いいね!
俺もメリッサと同じメニューにした。
つけ合わせのたくあんが美味である。ポリポリ。
「お、豆腐とわかめ。ありがたやありがたや……」
「お、レオ! 焼き芋うまかったぞ!」
朝食を食い終わったころ、男子が余計なことを言った。
俺食ってない。
「オレ、イモ、クイタカッタ……」
「野生化すんなって。ほら芋」
金属製のホイルに包んだ芋を渡してくれた。
ホイル巻いて焚火に突っ込んだのだろう。
少し焦げてるけど甘い。
うみゃい。
「う、う、う……芋ウマイ……」
普段の食事より数倍うまい。
これは勝利の味だろう。
なんだろう、目から汗が……。
「隊長泣くなって! ほら、お菓子もあげるから」
メリッサが幼児が食べるようなラムネをくれる。甘い。
「うまい……」
「旦那様、心の底からキャンプ嫌だったんですね……」
レンも苦笑いして棒に刺したチョコくれた。
「うん、お外嫌い」
うみゃい。
「それでさ、倒した謎の生物どうなったん?」
「トマス殿下と一緒に来た生物学者が解剖するみたいよ」
「基地の防衛は?」
「トマス殿下の近衛隊がいるから大丈夫だって。近くの村も外出禁止令出して兵を配置するってさ。それがさー、情報がメディアにもれちゃってさー、やつら入れないからドローン飛ばしまくっててさー」
まずい。
カワゴンの秘密が発覚してしまう。
俺が一人焦ってると、エプロンを着けたケビンと女子たちがガラガラとカートを押してきた。
「みんなー、クッキー焼けたよー。昨夜の食事お芋さんだけだったから足りないでしょ」
「うおおおおおおおおおおお!」
男子も女子も歓喜した。
腹ぺこどもがケビンたちに群がる。
女子力たっけーな。
俺はケビンにクッキー少し分けてもらって用意された部屋の床で、貸してもらった寝袋に入って寝る。
さすがに疲労がたまってたのか、すぐに落ちた。
起きたら夕方だった。
周りを見ると男子どもが床で雑魚寝してた。
やつらもさすがに疲れたようだ。
寝袋から出ると男子が起きてきた。
「お、隊長。起きたらシャワー浴びて会議室に来いってさ。シャワー室は廊下を進んでトイレの隣。俺は寝る」
「あざっーす」
そう言うと男子は寝てしまった。
汚いからシャワー浴びて来いって意味だな。
廊下に出ると兵士に呼び止められ歯磨きと石けんを渡される。
「あざっす」
礼を言ってトイレ行ってからシャワー室に。
おっとフェイスペイントそのままだった。
全身を洗浄すると着替えが置いてあった。
赤紫の芋ジャージ……。
たぶん嫌味ではないと思う。偶然に違いない。
芋ジャージに着替えて廊下に出ると洗濯室に軍服と靴を出すように言われ、サンダルを渡される。
サンダルに履き替えて汚れた衣服を出す。
聞いたら俺たちみんなシャワー&洗濯だって。
……汚いもんな。
完全に修学旅行の高校生にしか見えなくなったところで会議室へGO。
いいのかこんなんで……。




