第十五話
「来てしまった……」
勝手知ったる実家惑星が見えていた。
俺たち学生の代表者も嫁の駆逐艦に乗っていた。
「偵察ドローン射出します」
沖田がドローンを撃った。
宇宙空間でドローンのミサイルが分解した。
中から飛行機型のドローンが出てきた。
公立の士官学校はほとんどが型落ちの機材だ。
なのにこういうドローンだけは最新型である。
「なあなあ、嫁ちゃん。うちの学校、どうしてドローンだけ最新型なんだろうな?」
「ああ、殉職した教官の中に納入業者から金をもらってたやつがいての」
「それ殉職? どさくさ紛れにしまつ……」
「カカカカカカ! さあ? どうだろうなあ? 風の便りでは業者ごと駆逐艦の主砲がぶち込まれたらしいの」
やだ怖い。
そりゃ有事の際に無能は間引き対象になっちゃうよねえ。
……次の犠牲者は俺か!?
「なんじゃー? 美しい妻に見惚れてるのかのぉ~?」
「銀河一美しい妻ちゃん」
「なんじゃ? 逆に嫌味になっとるぞ」
「俺、無能寄りだけど殺さないでね」
「自分の無能な部分を認められる人間を無能とは呼ばん。いいから! 婿殿は家族に通信でもせい!!!」
「へーい」
無線機を帝国無線規定の標準周波数に設定する。
パケットの暗号化はオフに設定。
暗号化でコケて通信できない未来は防いだはずだ。
銀河帝国時代でも親世代は機械音痴なものである。
「こちら帝国士官学校学生代表レオ・カミシロ。我が方の艦隊責任者はヴェロニカ皇女殿下。上陸許可を願う」
「レオか!? サムだ!」
兄のサムが出た。
実家の騎士団副団長代理補佐見習いというよくわからない役職に就いている。
要するにニートだ。
この状況に至った過程が目に見えるようだ。
サム兄は弱い。
主に頭が。
喧嘩はアホみたいに強いのだが……頭が残念だ。
戦争というものはどうやったって協力プレイ推奨だ。
だがサム兄はアホなのでそれができない。
ギャハーって突っ込んでいって返り討ちにされて邪魔だから後方に追いやられたのだろう。
……あれ?
俺の行動と変わらない。
戦闘民族気質ってもしかして遺伝?
「皇女殿下が補給を望んでおられる。すまないが上陸許可を」
「おーわかった! って言いたいとこだが無理だな」
「なんでよ?」
「防空システムがオフにできん」
「なんでよ?」
「生体認証持ってる親父が行方不明になった」
「アホなのかな!!!」
普通やらねえだろ。
息子に指揮権渡しとくとかさ、もうちょっとやりようがあるだろ!
「おいおいレオ、聞けよ。うちは首都星からも定期便が出てる惑星だ。帝国農協バンクだってある」
「都市銀行とショッピングモールはねえけどな」
「そんな海賊にすら狙われない距離の俺たちに戦闘経験があるとでも!!! ほらうちって、惑星最強の生物でも猪じゃん。避難訓練すらしたことねえぞ」
「あー、はいはい!!! 戦争の優先順位がわからなくて侯爵閣下が前線出ちゃったんですね!!!」
「そういうことだ! さっき出撃したデクスターの兄貴にも連絡つかねえしよ!」
デクスターは長男である。
最近まで兵役で首都星にいたはずだ。
帝国大学の院生で成績は優秀だ。
就職活動も難しくないだろう。
そんなデクスターだけが、院生の兵役一部免除措置を申請して軍ではなく警察で働いている。
昼間は学生をやって夜は警察で雑用をしてると聞いている。
(なお士官学校の学生である俺は卒業したら2年軍に勤めることになる。サムはアホの子すぎて士官学校落ちた。侯爵家ブーストが効果ないってどういうこと!?)
中央で就職してリモートで統治する予定。
俺とサム兄はデクスター兄貴のスペア&領地経営手伝いという地獄が予定されていた。
ま、俺は死んでリタイアする予定だったんだけどね!
事故でクローン措置もできなかったっぽいし。
そんな終わってる実家だが、本当に終焉を迎える寸前だったようだ。
親父は無能だし、デクスター兄貴は戦争なんて無理な気質だし、それでもサム兄よりはマシという……。
俺がやるしかないのか。
「婿殿。防空システムはどれほどのものじゃ?」
「先々代からアップデートしてないはずッス。世代的には光線兵器ですが旧型で出力も落ちてるんじゃないかな」
「わかった。駆逐艦惑星襲撃せよ! 防空システムを潰せ!」
「まさかの力技!!!」
「うるさいわい! さっさと避難させよ!」
「サム兄! 嫁ちゃんの駆逐艦が防空システムに攻撃しかける! 兵士を逃がせ!」
「皇女殿下ああああああああああッ! 全軍逃げろおおおおおおッ!!!」
サム兄の悲鳴が聞こえたが……すまん俺にはどうすることもできない。
嫁ちゃんの肉付きの悪い尻に敷かれる。
俺はそれを自ら望んでいるのだ!!!
残念だったな!!!
駆逐艦が大気圏に突入する。
もう知らん。
「カカカカカカ!!! やはり惑星侵略は楽しいのう!!!」
「楽しくねえ!!! 俺の実家! ねえ俺の実家だから!!!」
味方というか保護する対象への容赦のない砲撃が始まった。
ゾークよりも何倍も楽らしい。
「婿殿は専用機で降下せよ!」
「えー!」
「カニから民草を守るのじゃ!!!」
「あ、納得」
「レオ! 私も行く!」
クレアが走ってくる。
ジェスターは複座型。
砲手が必要だ。
「悪いな! 今回も頼むわ!」
「相棒でしょ!」
どんっとクレアに胸を叩かれた。
「お、おう」
そしてもう一人。
メリッサも来た。
「行くぜ隊長。今回は標準機だ。関節も折れねえぜ」
今回メリッサは練習機から標準機に乗り換えた。
ドロップアイテムマシマシ効果で材料から組み立てるのに成功したのだ。
あれからメリッサは俺を隊長と呼んでいる。
あの……俺は本来は実習船の艦長なんですが……。
決して戦闘ロボ乗りじゃないのよ。
「隊長、今回は隊長機に特殊な装備があるらしいぜ」
とうとう来たか。
カッコイイブレード的なものが!!!
剣が一番使いやすいしね。
「槍らしいぜ」
……いきなりトレンド外してきやがった。
まあいいか。
俺たちは専用機に乗ると降下ユニットをオーダーする。
ロボアームが降下ユニットを取り付けていく。
「降下ユニット取り付け完了。カタパルト開きます」
俺は半身の中腰になる。
こつは後ろ足をちゃんと曲げてつま先を真横に向けることっと。
「バーニア点火! 3・2・1、発射!」
カタパルトから射出される。
飛行型でもないのに無理矢理降下ユニットを取り付けたものだから、とんでもないGがかかる。
宇宙空間に放り出されると水泳の飛び込み競技のように惑星へ。
防空システムが俺を狙い撃ちにするが降下ユニットのシールドがはじく。
やっぱり出力落ちてたか。
うちは平和なだけが取り柄のド田舎だからな。
「レオ! 逆噴射します!」
クレアの声で足を下にして着陸姿勢になる。
下にはゾークの集団が見えた。
その日、ヴェロニカ殿下とその婿の覇道がはじまったのである。
その最初の犠牲者が婿の実家であることは笑い話として伝わっている。
自重しろ黒歴史。