第百四十八話
前から思ってたんだ!
RPGとかの魔法で呪文を強くするよりも可燃性の物質ばら撒いた方がいいんじゃねえかって!
カロリーがあって燃えやすい、軽くて細かいかすぐ気化する物質をばら撒きゃ強い魔法と同じじゃねえかってさ!!!
粉砂糖ばら撒いたら長い詠唱せずともいいんじゃねえかって!
それこそガソリンでもなんでも!
つまりこういうことよ!!!
むせる!
「ヒャッハー!!!」
俺は爆発の中を突っ込んでいく。
ヒーローは爆発を背負うもんだろ!!!
なんてヤケになって言ったけど周囲は地獄の爆発。
もちろん俺も爆風の中!
宇宙海兵隊は地獄だぜー!!!
「この化け物……」
セリフを言い終わらぬうちに侍従長は爆風に飲み込まれた。
もうね!
これ本当に嫌なんだけど俺はなれていた。地獄に。
「うおおおおおおおおおおお!」
この戦闘服は宇宙仕様なのさ!
侍従長! お前の分はねえから!!!
俺は上段に剣を構えながら疾走する。
表面がこんがり焼け立ち尽くす侍従長が見えた。
焼けた複眼に映るのは剣を八相に構えて宇宙戦用戦闘服で疾走する。俺。
「そこまで……やるか……」
筋肉、爆発、バイオレンス、勝利。
これはコ●ンドーから変わらぬ世界の真理。
俺は全力で剣を振り下ろす。
侍従長はトゲで防御しようとした。
だけど甘い。
トゲごと腕が硬化した顔面の殻にめり込む。
超接近戦仕様サポート職。
もはやなに言ってるかわからねえがジェスターの真実だ。
賢者なんて飾りなのだよ!!!
ベキベキベキと侍従長の外骨格が悲鳴を上げた。
だけど俺は最後まで振り下ろす。
一撃必殺!?
残心!?
知らねえよ!!!
天を貫くが如く剣を振り上げ二撃目!
二撃目は外骨格を完全に破壊し、内側を破壊した。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
三撃……と思ったら羽交い締めにされた。
「隊長! ストップ!!!」
その声はメリッサだった。
フル装備の戦闘服で地獄が止んだところを走ってきたようだ。
「もういい! 隊長の手が折れちゃうから!」
あん?
なんかおかしいなと思ったら剣が折れてた。
折れた状態でぶん殴ってたようだ。
なーにがソニックブレイドじゃい!
軟弱な!!!
ソニックブレイドの残骸を投げ捨てた。
「素手でもてめえには勝てらあ!!!」
「隊長……もう終わってるよ」
あん?
侍従長の顔の外骨格が割れて中のおっさんが見えていた。
べろんと舌を出して気を失ってる。
完全にノックアウトしてた。
中が焼けることを期待してたけど、そんなにダメージが入ってなかった。
あれだけやってこの程度か。
やっぱゾークに生身で勝とうってのが間違いか。
鈍器の方が確実かもな。
「た、逮捕ぉーッ!!!」
警察が侍従長に群がった。
俺はヘルメットを脱いで地面に置いた。
あー……動けねえ。
そのままごろんと寝っ転がった。
宇宙戦用の戦闘服だから顔が真っ黒になることはなかった。
だけどシャツが絞れるくらいに汗だくだ。
だからさー、ジャンルがライダーとか戦隊だったら、こんな汚い描写にならねえわけでな。
ホント、炎と硝煙と油の世界は地獄だぜ……。
「スーツ解除と」
ロックを外してスーツを脱ぐ。
俺の開きのできあがり。
地上で使うと中がクソ熱いからシャツと短パンである。
メリッサもその場でスーツを脱いだ。
中は女子陸上選手のユニフォームみたいなやつだ。
「……きっつい」
「あはは! 隊長。今回怪我してないじゃん!」
「おーい大尉生きてるかー?」
アマダの野郎が来た。
とうとう大尉と書いてバカと読みやがったな、この野郎。
「生きてるぜー」
「炎に突っ込んでいくとか自殺願望でもあるのか?」
「ゾークはオーバーキルくらいじゃないと動くんだって」
「その結果に至る過程が怖えよ」
クソ! 気安くなってきやがったな!
「高校生がこれかよ。政府終わってんな」
「俺、士官学校ッス……」
「卒業したら高卒資格もらえるんだから同じだろが!」
とうとう扱いが同級生くらい雑になった。
大尉呼ばわりよりはいいわな。
「おい、レオ。いいか、聞け。手伝ってやる」
「へ?」
「お前がてっぺんに立つのを手伝ってやる!」
「いや俺はてっぺん目指してねえけど……」
「おいおい、言い訳してんじゃねぞ。皇女殿下の婿になって、その皇女殿下を皇帝にする男がよ。野望の一つもねえなんて言わせねえぞ。それをなし得たのがこの無茶な生き方か。俺はてめえの下について野望の果てを見せてもらうぜ」
ないでゴザル。
しいて言えばエロくらい。
野望の果てもクソも目の前のタスクを必死にこなしてただけでゴザル。
うーん、それを言っても理解してくれないと思う。
相手の価値観に合わせて……。
「大義があるのさ……そう、宇宙へい……」
「宇宙平和とかぬかしてんじゃねえぞ! 男に生まれたからには帝国のてっぺん目指したいよな!」
嫌でゴザル。
金に困らない程度の地位で、事実上嫁のヒモとしてだらだら過ごしながら、嫁たちとイチャコラしてたいだけの人生でゴザル。
「あはははははは! 隊長、男にまでモテてやんの! 殿下に言いつけるぞ~♪」
鬼か!
でもメリッサしか助けてくれそうな人がいない。
「た、助けてメリッサ!」
「だってさー、俺だって全宇宙の支配者目指してるのかなって思うときあるし。戦争上手すぎて」
「そ、それは違う! 勢いで生きてたらこんな感じに……」
「はいはい、殿下だって隊長が天下取るって考えてるはずだよ。だから皇帝になるために無茶したんだし」
「お、おう……」
いやいやいやいや、俺が上に立つなんて……悪夢だぞ。
「いいんだよ。たとえ局地戦だって戦争上手だったら。帝国民に夢見させてあげようよ」
「そうですよねー。旦那様、天下を取りましょう!」
レンまでやってきて好きなこと言ってる。
「でもさー次期皇帝の婿じゃん。もうそれでよくね?」
するとアマダの野郎が笑顔になる。
「なんとでも言え。レオ、お前はもう止まらない列車に乗ってしまったんだよ」
あははははは。
もうやだ。
嫁ちゃんに言いつけてやろうっと。
ばーか! ばーか!
全身を縛られた侍従長が運ばれて行くのが見えた。
とりあえずミッション完了っと。
あとは知らん!!!




