第百四十七話
そもそもだ。
俺が死ぬ運命を作り出したのは侍従長で、文明とは無縁のエッジの惑星が襲われアレッサが死ぬ原因を作ったのも侍従長。
というか状況から考えてゾークが銀河中のジェスターを殺しまくったのは侍従長の流した情報からだ。
あ、そうか。
相性が悪いのもあるけど……俺、怒ってるのか。
あまり自分のためだけに暴力を振るうタイプじゃねえからわからんかった。
あ、俺、ブチ切れてるわ。
相手を小者って考えて心理的優位感を持つのも戦略だろうけど、俺は侍従長をなめプする気にならない。
小者にしたってやらかしたことが大きすぎる。
こういうエリートをなめてかかったらまずい。
実際、人間やめちゃったわけだし。
にしても節目節目で暗躍してる女性型ゾークって誰だよ!
アレクシアかと思ったら別なの出てくるし!!!
侍従長、コウタロウ・ナカザトは全身を硬化させた。
鎧のようになった姿は変身ヒーローみたいだ……。
俺は自分の手を見る。
……なぜだ。
なぜ俺はああじゃないのだろうか。
戦闘機乗りなのでジャンル違いなのはわかる。
だがジェスター専用機の外装のハンドメイド感。
そして潰れて修理中というか、ほぼ一から組んでる【殺戮の夜】。
俺に関わった機体は常に戦闘の傷跡が刻まれる。
高圧洗浄機でも取りきれなかった粉汚れ、取り替えるしかんかった新しい関節、傷と焼け跡と微妙に色の合ってない塗装。
俺の血で染まった座席。
交換できるところはしたけど、裏側にまだ俺の血が飛び散ったシミがある。
揮発したオイルのにおいがなにをしても取れない。
……なんだろうか。
本当にどうして俺はこうも洗練されてないのだろうか?
わかるか制作陣! リアルで炎のにおいが染みつくの、本当に嫌なんだからね!!!
強力脱臭剤置いたらド●キの店内みたいなにおいになってすぐ捨てたわ!!!
実写版で男性アイドルが耐えられるようじゃないとダメなの!!!
リアルさなんていらねえから!
ホントそういうとこだぞ!!!
クッソ! 汗臭いな俺の戦闘服!(八つ当たり)
泣きそうになったから宇宙空間でもないのにヘルメットのバイザーを下ろした。
剣を抜く。
帝国剣術の剣。
帝国もアホじゃない。
対ゾーク用に強度と切れ味を上げたものだ。
超高速振動で斬れるソニックブレイドとか。
「かかって来い! 帝国軍最強よ!」
侍従長が拳を振りかぶった。
速い! さすが人間をやめた男!
だが……。
俺はひらりとかわす。
侍従長は俺に回し蹴りを放った。
ああん?
俺は斜めに回り込んで剣で斬る。
だけどガードされ距離を取られる。
俺も侍従長も無傷だ。
あーん?
なんだあいつ……戦いやすい。
ものすごく噛み合う。
あ、そうか。
士官学校で教えてる技だ。
オリジナルに成り代わるために身につけたな。
異常なほどの真面目さだ。
「さあ! レオ・カミシロ! 人間のパワーでは勝てぬぞ!」
侍従長がギアを上げてきた。
目に見えないほどの拳の連打を放ってきた。
だがこちらもジェスター!
先読みでかわしていく。
だから俺は……。
渾身のストレートを避けてサイドにまわる。
そのまま手を取ってひねる。
小手返し。
調子にのって体重預けてたな!!!
侍従長はきれいに宙を舞い叩きつけられる。
演武でもこうはならん。
ふははははははは!!!
バカめ!!!
頭の悪い体育会系をなめるなよ!!!
ワンインチパンチと同じだ!
男子が三人集まれば【かっこいい技研究会】が始まるのだ!
要するに侍従長が知らん技を使えばいい。
「コウタロウ・ナカザト。お前は人間をなめすぎだ」
俺は持ったままの腕を捻りあげる。
そのままへし折ってやろうと思ったら、侍従長が俺の体を片手で持ち上げた。
「突き刺してやる!」
侍従長の腕からトゲが生えてきた。
あ、これ死んだ。
と思うじゃん。
俺は持ち上げてる方の腕をだいしゅきホールド。
剣は落としたけど、肩を足で締め付ける。
「ほらよ!!!」
そのまま勢いをつけて回転する。
ボキボキボキボキ。
いい音がした。
そりゃ外骨格はいい考えだけど、柔軟性がなさすぎる。
へし折ってくださいと言ってるようなものだ。
俺は剣を拾って突きつける。
「よ? 人間もなめたもんじゃねえだろ!」
「は! 死ね!」
額が光った。
光線が俺を襲う。
ひゃっふー!!!
死ぬ気でよける!!!
よけた瞬間、盾ごと警官が吹っ飛ばされるのが見えた。
やべ……いまのは危なかった。
「死ね!!!」
体勢を崩したところに抜き手が襲ってきた。
剣を捨てて両手でつかむが指が戦闘服を貫通して腹に突き刺さった。
まだ肉!!! 肉だから!!!
腸を引きずり出されるのはさけられた!
さすがの侍従長も折れた方の手は使わなかった。
俺はつかんでる手に全力で力を入れる。
侍従長はそのまま俺ごと持ち上げる。
「はははははは!!! 私の勝ちだ!!!」
そのまま疲れて手を放した瞬間、手に胴を貫かれてバッドエンド……って思うじゃん。
だから時間稼ぎだ。
「よう、侍従長のおっさん。聞けや。お前さ、いつからコウタロウ・ナカザト唯一のクローンだと思ってた」
「ははッ! ……続けろ」
「お前さんも考えたことくらいあるんだろ? コウタロウ・ナカザトは一人じゃない」
「ほう、証拠はあるのか」
俺は心で舌を出した。
引っかかったな。
そのとき待望の通信が入った。
「レオやるぞ!!! 全員避難!!!」
エッジの通信が合図だった。
ケビンたちが逃げていく。
警察も盾を構えながら逃げる。
軍もすたこらさっさと逃げていく!
公安はすでに退避完了していた。
偉い!!!
俺との付き合い方がわかってきたな!!!
「レオ! 爆破液散布完了してるぞ!!!」
「うっしゃ!!! 超能力発動!!!」
エッジとアリッサの声が聞こえた。
エッジもアリッサも手をかざした。
「地獄の炎!!!」
俺は賢者の力で周囲を燃やす。
あははははははははは!!!
燃えろ!!!
周囲が爆炎に包まれた。




