第百四十四話
地下組織……つうか中の人が代替わりするとはいえ悪非道の輩は皇室なので正義の組織のような気がする。
俺は嫁ちゃんが悪の首領になったので悪の側でがんばるしかない。
その正義の味方だってうさんくさい。
ゾークの工作組織を疑われてる。
違和感が仕事してない。
そもそも意思疎通できない相手とどうやって連絡取ってるんだ?
あ、そうかケビン連れて行って聞けばいいのか。
というわけで女子寮で野菜調理&お菓子製造係として君臨してたケビンを連れて行こうとする。
「やーめーてー!!!」
「ケビンちゃんがいないと女子力が! 女子力が枯渇するううううううッ!!!」
「ケビンちゃんを奪わないでえええええええええ! お菓子いいいいいいい!」
なぜか女子たちに泣きつかれる。
体育会系女子たちは食事に量と質が必要なのだ。
つまり料理できるやつは正義と。
「うははははははー! ケビンはもらっていくぜー!!!」
少しあおってやろうと悪役ぶってみたら女子どもが逆に真顔になった。
「隊長だし、しかたないね」
「そうだね隊長だし」
「身内に甘い隊長が呼び出すんだから緊急事態だろうしね」
なんだろうかこの異様な信頼感。
うっすら嫌われてたときの方が期待されてないだけやりやすい。
「隊長、ちゃんと返してね!」
「ちょっとみんな!」
ケビンが抗議するがもう遅い。
貴様は俺と来るんだよー!!!
なぜかいつもより清楚にふるまうレンも合流して車に乗る。
なんだろうか。
レンがギターケースみたいなの抱えてる。
「あ、組み立てますね」
はい、ライフル。
実弾の大口径のやつ。
500年前の大戦時のみたいにアホみたいな高威力の対物ライフルじゃないけど、装甲車も壊せるやつ。
家の壁や冷蔵庫くらいなら貫通するだろう。
暗殺任務だったらサーモグラフィースコープつけて壁ごとターゲット撃つやつ。
歩兵に持たせると絶対事故って死人出るから軍内部の免許取らないと持たせてもらえないやつ。
「レンさんや。そいつはスナイパーと免許が別では?」
「免許取りました。旦那様。ほめてください♪」
頭なでなで。
嫁の一人が攻撃力全振りになっていく……。
そしておっぱいと女子力にパラメーター全振りする元男。
レオくん、もう考えるのやめたよ。
あ、そうだそうだ。
ケビンに聞かなきゃ。
「なあなあ、ケビン、ゾークが地下組織と接触するとして、具体的にはどうやって意思疎通するん?」
「説明が難しいよ。いくつも大きなノードがあってさ、そこが中央の意思を伝えるんだ。大きなノードは惑星を束ねる主要ノードに伝えて、そこから蜘蛛の巣状に作られたネットワークで人型ゾークに指令が入るんだ」
「どうやって人型が理解できるように指令を出すの? ゾークの思考なんて理解できないだろ?」
「え……その……なんかニュアンス? なんとなくわかるっていうか……いや違う。ネットワークの指令を私たちでも理解できるように翻訳してる存在が……いる?」
なんで最初の侵攻が本来俺が殺されるタイミングだったのか?
その謎が解けるかもしれない。
軍の防弾車が待ち合わせ場所に到着した。
護衛と一緒に外に出るとアマダとメリッサがいた。
最近、メリッサは公安で仕事してるみたいなんだよね。
「ちょりーっす隊長。先日付で軍から少尉、公安からは警部補に任命された。メリッサでーす」
「いきなりの出世に拙者も困惑!!!」
「いやさー、隊長と殿下との調整役が必要だから軍と公安兼任だって。軍の方が上級庁だから対外的には軍情報部少尉かな。大学校出たらすぐ少佐だって。親の七光りって怖いよねー。高等部卒業したらすぐ産休取るつもりなのに」
「気がはやすぎる!!!」
「あはははははー!」
ゲラ笑いである。
この空気だよ!
このゆるい空気こそが俺たちを生還させたような気がする。
ゆるいんだけどメリッサの連れてきた公安は見事に悪役面だった。
「レオ大尉に敬礼!」
リーゼントのおっさんが敬礼すると他の隊員も敬礼した。
俺も軍式の敬礼。
で、休め。
で、ひたすら嫌そうな顔をするアマダが連れてきたのは警察の特殊部隊の面々。
飲酒したときにエンカウントしたら逃げるコマンドしかなくなるだろう。
とにかく怖いのよ。顔が。
「レオ大尉に敬礼!」
少佐に内定してるアマダが指揮権を俺になすりつけやがった。
うん、悪い顔してる。
10個下の未成年にこれよ!
アマダさん! ちょっと大人げなくない!?
「アマダさん……未成年に全力で来ましたね……」
「俺は、大尉を士官学校のガキだと思うのをやめました」
「それほめ言葉ッスか?」
「ええ、よく生きてやがりましたね」
「あはは。よく言われます」
ただ生き残ったってだけなんだけどね。
スキルが高いわけじゃない。
超能力頼りではある。
それなのに今日は嫁ちゃんがいないので近衛隊もいない。
保護者がいないので今日は俺が指揮官。
我ながら不安しかない。
「状況は?」
「地下組織のアジトを発見。偵察をしていたところ捜査員が人質に取られました。警察は特殊部隊を派遣。ゾークがいる可能性を考慮して軍にハウンド隊を要請いたしました」
思ったより状況が悪い。
「敵の組織は?」
「反皇室派のテロリスト【夜明けの会】です。約50年前に帝都での爆破テロで10名の死傷者を出しました。当時の捜査で主要幹部は極刑に。以後、逃亡犯をかくまいながら潜伏していたようです」
反皇室運動自体は存在しないほうがおかしいと思う。
俺だって、嫁ちゃんだって、いつか麻呂をぶち殺そうと本気で思ってたわけだし。
「50年前の組織か……オリジナルの構成員はもうほとんど死んでますよね?」
「ええ、なのに資金が流入してるんです」
「うっわ……」
胡散臭いにもほどがある。
「じゃあ10時00分、突入します。ゾークかもしれないから気合入れろ!!!」
「押忍!!!」
俺たちよりも体育会系度が高いかもしれない。
破砕鎚を持った数人の警官がドアに突撃する。
電柱みたいなのを数人で持ってドアにぶつける。
金具がひしゃげてドアが倒れた。
「問答無用で無力化!!!」
拡声器を持ったアマダが偉そうに指示を出した。
よかった。
俺があの役じゃなくて。
アマダも本気で意地悪する気はない。
そりゃね、士官学校のアホアホ学生に本気でまかせるはずないだろ。
友だちやパイセン、実質嫁のお父さんたちだから奇跡的に指揮できただけでさ。
よしアマダにまかせようっと。
警棒と盾を持った警官がなだれ込む。
「パーソナルシールド展開!!!」
さらにパーソナルシールドも展開する。
やっぱりヒューマさんの戦闘法は帝国標準の正しいもののようだ。
超優秀。
っていうかヒューマさん、もしかすると特殊部隊出身かも。
テロ組織のメンバーがプラズマライフルで応戦する。
その轟音がして周囲がいきなりえぐれた。
あ、これ知ってる。
……うちのレンさんだ。
レンから通信が入る。
「旦那様。さっさと終わらせてデートしましょうね」
【じゃきんッ!】と薬莢が飛んだ。
本気の殺意を受け取ったテロリストの男たちがその場にへたり込んだ。
よし! 俺の出番はないな!
高みの見物だ!
はっはっは!!!




