第百四十三話
謎の力を得たけど用途と使用方法がわからない。
超能力あるあるだと思う。
強力な力だけどユニークスキルすぎて誰も使い方がわからないのである。
手かざしヒーリングは得意じゃないけどもともとできるし。
自動回復は今日もせっせとそばかすや顔のシミを治してくれてる。
とりあえず放置プレーで行くことが決まった。
それよりも長老の死をどう扱うのか?
それが問題だった。
当然のことだが、アマダは警察上層部にぶん投げた。
俺でも同じ事をするだろう。
警察の上層部は恐慌を起こした。
あたりまえだわ!
皇帝を送検できるはずねえだろ!
警察はすぐに検事局と裁判所と協議……つまり泣きついたわけである。
検事局も裁判所もこんなの扱えるわけがない。
内務省やら侍従長不在の宮廷庁と協議を重ねた。
内務省はミラクルな一手を提案した。
「もう宮廷庁が全部悪いことにしちゃいましょう。それが一番です」
もちろん我らが嫁ちゃんはこう言い放った。
「どうやら貴様ら命が惜しくないようじゃの?」
警察屋さんは嫁ちゃんが悪いなんて口が裂けても言えない。
人気者で、クローンにまで公平で、腐った現状を正そうとしてる。
しかも絶対権力者だ。
さらに言えば嫁ちゃんはむしろ被害者だ。
実の父親に貞操狙われてたとか地獄すぎると言えるだろう。
原作のヒロインの一人ではあるから麻呂のおもちゃになることはなかっただろうけど。
あー、でもウォルターの嫁になってた可能性があったのか。
それはムカつくな……。
で、それはいい。
問題は違法クローンの侍従長の行方だ。
公爵会と比べて俺を舐めプしてなさそうなのが怖い。
ゾークの手先だったら問題だぞ。
そんな中、嫁ちゃんの皇帝就任が確定したことが発表された。
「妾は歴代皇帝の犯した罪を清算し、過去と向き合い諸君らを団結させ、未来には勝利をもたらすことを約束しよう! 帝国に栄光あれ!」
割れんばかりの拍手と賞賛の声が響いた。
未成年の女性だからと批判する声もあったが、ゾークとの戦争では連戦連勝を重ね、公爵会にも勝利した。
彼女を支えるのは最強の戦士と過剰評価される俺だ。
武力に関して文句は言わせない。主に周りが。
実務能力はトマスが下についたのがよかった。
人柄がいいトマス義兄さんはあっというまに文官を自身の仲間に引き込んだ。
邪魔な上が全滅したってのはあるけど、それでも神業だった。
中立と言うよりそれほど権力を持ってなかったため放置されてた警察をも公安が仲間に引き込んでくれた。
メリッサパパの伝手がここで活かされたわけである。
なぜかアマダが俺たちの警備担当として常駐することになった。
「アマダさん……ボクたちズッ友だよ!」
「大尉ぃッ!!! キシャアアアアアアアア!!!」
なんか威嚇されたけどズッ友だ。
アマダ本人が頑なに拒もうがもう遅い。
アマダは警視正への出世が内定してしまったのだ。
たぶん少佐くらい?
警察だって俺や嫁ちゃんと直接やりとりできるルートは欲しいだろう。
もうこの時点でアマダは将来の警察トップを約束されたようなものだ。
生き残ればだけど!!!
さて嫁ちゃんが皇帝になる前にいくつもの儀式が待っている。
古い国家だし、そういうとこクソめんどくせえのよ。
半年くらいかけてやるのかな。
まずは前皇帝の鎮魂の儀式から。
【長年皇帝をやり遂げた! お前は偉い! 乙】という儀式である。
東欧ロリが伝統衣装、和服っぽいなにかを着る。
十二単のパチモンかな?
さすがにゲーミングじゃないけど、微妙に違う感じではある。
わかるね……詳しく指摘できないってことは前世の俺はこの手の儀式に疎かったのだ。
まったくわからん!!!
嫁ちゃんは少しキレてた。
父親の葬式で位牌に抹香を投げつける前の信長の気分だろう。
現時点の嫁ちゃんが抱えるストレスの大半が麻呂のやらかしだもんね。
だが我慢した。
偉いぞ嫁ちゃん。
儀式が終わり嫁ちゃんは後宮の借りたホテルへ。
俺は寮に帰るので別れる。
士官学校の芋ジャージに着替えて食堂で男子どもに混じって冷凍食品を食べる。
帝国市民のみんな!
次期皇帝の婿はみんなと同じもの食ってるぜ!
なんか評判いいんだよね。
俺が士官学校の男子寮にいるって話。
報道されまくって取材も来たけど、本当に同じもの食べてるって知ったらほめられるのよ。
帝国じゃ徴兵あるからか、プロパガンダ抜きで視聴者ウケがいいらしい。
ちゃんと訓練じゃ携行食糧の調理もするし。
「お汁粉できたぞーい」
鍋で煮た缶詰をトングでつまんでトレーに置いていく。
製造元が大量にくれたお汁粉の缶詰を男子どもと食べる。
なぜか撮影もされる。
企業的にはプロモーションも兼ねてるのだろう。
俺たちは食費が浮くので助かってる。
食堂の冷凍食品は自腹なのよ。
「チリコンカンの缶詰できたぞ!」
「ういーっす」
男子が温めた缶詰を持ってきた。
食べ合わせだの合う合わないなんて関係ない。
肉体労働10代男子のブラックホールみたいな胃袋を満たすには量が必要なのだ。
「こっちはミートボールスパゲッティの缶詰煮えたぞー」
みんなで缶詰を持ち寄る。
ここにケビンがいれば「もー、みんな果物も食べなよ~。しかたないなー。作ってあげるよ~」ってなるところだが、ケビンは女子寮行きになった。
ここにはアホしかいない。
茶色い献立はディスティニーである。
ヤングコーンの缶を開けて皿に取りだしマヨネーズをかける。
うむジャスティス。
「カミシロ大尉! どれが美味しいですか?」
リポーターが聞いてくる。
「実は俺、ヤングコーン大好きでしてね。あ、このミートボール美味しい」
「公爵様なのに庶民的なんですね!」
「だって実家、侯爵なんて言ってますけど最近まで農協しかなかった惑星ですよ。いまじゃ優秀な兄がいきなり発展させましたけどね。高級レストランなんて結婚するまで行ったことありませんでしたよ」
「そうですか。なんでも大尉はヴェロニカ様と結婚式を挙げてないとか」
「私にもうちょっと甲斐性があればよかったんですけどね。いまこそ大尉になって多少収入がありますが喪が明けるまではちょっと……いつかは私の稼いだお金で式を挙げたいですね」
なんて適当なことを言っておく。
その場しのぎでテキトーなこと言ってるだけなんだけど、やたら評判がいい。
応援の手紙とかもらえる。
番組が放送するときにはすでに俺が苦労人だってイメージが作られていた。
いやいやコロニー民に比べたら俺なんてお坊ちゃんだぜと。
でさ、このまま平穏でいいと思うじゃん。
アマダにまかせて撤退でいいと思うじゃん。
ところが公爵会やゾーク、それに違法クローンが放してくれない。
ある日のことだった。
地下組織のアジトの情報が入ったのは。




