第百四十一話
公安警察の本部に行く。
メリッサと合流。
メリッサの親父さんはまだ惑星で療養中だ。
やはり年齢が高いとナノマシンの効果も薄いようだ。
寿命はある程度延ばせても不老不死は無理なんだよね……。
「隊長、出迎えがあるって」
入り口に行くと元気そうな兄ちゃんがいた。
「ヴェロニカ殿下、レオ・カミシロ大尉どの! アマダ警視であります!」
20代後半かな。
うっわ、警察屋さん気使ってるな……。
俺に配慮してほぼ同格の隊長クラス、しかも年齢が比較的近いのに出迎えさせたよ。
俺と同格で年齢が近いってほぼ無理ゲーなのに。
苦労して選抜したんだろうな。
普段苦労してんだろう文官と軍の板挟みで。
なぜか涙が出そうだ。
「こちらへ」
科学捜査ラボって書いてある部屋に案内される。
白衣を着た学者っぽい職員と作業服の職員が出迎えた。
あ、これコスプレ白衣じゃなくてガチのやつだ。
「ラボの責任者のサンジョルノ警視です」
眼鏡で髪が薄いおじさんだ。
「まずは報告書を」
おっちゃんはそう言うと報告書を紙でくれた。
現在、ネットは使えるんだけど行政サービスがかなり停止してる。
紙のやりとりに戻っている。
「男性、年齢は18歳から30歳と推定されます。DNA鑑定でコウタロウ・ナカザト侍従長本人と判明しました。容疑者はコウタロウ・ナカザト侍従長58歳。これも自宅のクシに残った毛髪から本人と判明してます」
「どういうこと?」
「いまのところわかっているのは被害者はコウタロウ・ナカザト士官学校生徒19歳、加害者はコウタロウ・ナカザト侍従長58歳です。おそらくクローンではないかと思われますが……通常、クローンは本人の死後に作るものですから」
わけわからねえ!
頭変になるわ!!!
「被害者の死因は頸部圧迫による骨折。骨折の状況から片手で首をへし折ったと推定されます」
そこまでわかるのか! 科学捜査すげえ!
……やっぱ加害者人間じゃねえじゃん。
「以上から容疑者は戦闘用の義肢、もしくは人型重機によるパワーアシストなどを用いたと推測されます」
「ゾークの可能性は?」
「ゾークの科学的なデータがありませんので。断言できかねます。数十年前ですと戦闘用の改造手術が流行したようですが……この年代ですと違法になって無効化する手術が政府によって強制されたようです」
ますますわからん。
「どちらがクローンでどちらがオリジナルかってわかります?」
「わかりません。あえて言えば歯科治療の痕跡がある方がオリジナルかと。ただオリジナルとコピーの混同が起こらぬようクローンは死後作るものとされてます」
ですよねー。
本来冒頭で死ぬはずだったクレアも死後にクローンが作られた。
俺は作れなくてアウトー!
……いま考えるとジェスターの能力のせいでコピーが作れなかったのではないかと思う。
絶対に増殖しないように調整されたのがジェスターだし。
コピー防止が組み込まれてると思われる。
怖いわー。
一番怖いの人だわ。
なんて余計なこと考えてるとガリッと音がした。
とんでもない音の歯ぎしりだ。
なにかなと思ったら嫁ちゃんが壮絶な顔をしていた。
「ど、どうしたん?」
おなか痛いん?
と余計なことを考えてたらメリッサに脇腹を肘打ちされた。
バレたか。
「婿殿、メリッサ……後宮が借りてるホテルに行くぞ」
「殿下はなにかご存じなので?」
アマダが目を光らせた。
そりゃ気になるよね。
「気になるのならついてこい。ただし知ったからには責任が発生すると思え」
「それはおっかないな……あはははははは」
アマダは【冗談でしょ?】って笑っていた。
だけど俺たちの表情を見て凍り付いた。
後宮には闇しかないのだ。
「本当に危険なんですね?」
「うむ、それでも知りたいのなら来い」
「わかりました。上に報告してもいいんですよね?」
「巻き込まれる人数が増えるだけじゃ。好きにせい」
ラボを出て軍の車で後宮が借りてるホテルへ。
アマダも一緒についてきた。
ホテルの前には軍が規制線を張っていた。
受付をすませて中へ。
中に入るとロリハーレムだけど中身おばちゃんの面々に歓迎される。
「まーまーまー。お婿さん来たの~♪」
「あらあらあら、ヴェロニカちゃんと一緒に~♪」
話が進まない。
なので焦りまくって余裕のない嫁ちゃんが切り出す。
「母上……長老にお目通り願いたい」
嫁ちゃんのお母様が困った顔をする。
「あらあら……レオくんに言って大丈夫なの?」
「ええ、公開するときが来たようです」
「わかったわ。一緒に行きましょうか」
エレベーターで上層階に行く。
最上階のスイートルームに長老はいた。
医師が数人常駐していて、長老と思われる人にはいろいろな管がついていた。
長老は遠目にも嫁ちゃんそっくりの美少女だった。長老? どこが?
いや幼生固定ってそこまで万能じゃねえぞ。
「長老じゃ」
「長老?」
「ああ、皇女ルナによる人体実験はクローンで続けられた。当時は超能力がクローンに引き継がれないことがわからなかったのだ。その生き残りじゃ」
「何百年前の話?」
「ざっと500年前、ルナが死んだあたりの話じゃ」
「500歳? 可能なの?」
「現在の技術では不可能じゃ。クローンのエラーによる特殊な変化と言われておる」
「いや待って、なぜ後宮に?」
嫌な予感しかしない。
「皇女ルナの力とクローンの不死の力を欲した当時の皇帝が妃にした。その息子もその孫もな。わかるか婿殿……これが後宮の近親相姦のはじまりじゃ……」
変態に理由あったの?
「じゃ、じゃあ、お義父さんも……」
麻呂も不死の力を欲して……。
「あれはただの変態じゃ」
ただの変態だった!
つまりだ……最初は意味があった近親相姦とロリコンだったが、そのうちガチの変態になったと。
「一応言っておくが、今代ではロリコンはウォルターだけじゃ」
ウォルターの野郎。やはりロリコンか……。
俺の嫁を狙ってたかと思うと元気なときに一発殴っておけばよかった。
(現状だとかわいそうだから殴るの無理)
そういう意味じゃトマス義兄さんとサイラス義兄さんって奇跡が産んだ聖人じゃ……。
トマス義兄さんはゴツめの巨乳好きだし、サイラス義兄さんは太め好きで尻派だった。
暇なときに猥談振ったら喜んで話してくれた。
欲望に忠実でたいへんよろしい!!!
俺が一人で納得してると警察の星、期待の若手アマダがガクガク震えてた。
「わ、私が知っていいことなんでしょうか……」
「公開せよ」
「むむむむむムリィ!」
「警察ができぬと言うなら、妾が帝位を継いだ後に正式に命令を出してやるが?」
「あががががががが! かしこまりました!!! 来るんじゃなかった!!!」
俺は優しい顔になる。
「ようこそ皇族の世界へ」
「大尉! 一生恨みますからね!!!」
アマダさん……ボクたちズッ友だよ……。
さてと、後宮の闇特大版はわかったとして、侍従長は?
「それで、侍従長の件は?」
「クローンじゃ」
「ほえ?」
「ゾークの工作員はゾーク因子を持つものだけじゃない! 違法クローンが裏切者じゃ!!! なあ、長老! 数十年前に父上が違法クローンの製造を命じたのじゃろ?」
「その通りじゃ」
か細い声が聞こえた。
ああああああああああ!
麻呂の野郎!
ろくなことしねえ!!!
男の人生なんて尻とおっぱいがあればいいだろ!
なんで不老不死なんて欲しがるの!?




