第十四話
マーライオン・吐き太郎です。
生きてるのがつらいです。
俺のゲロ吐き動画は銀河を駆け巡った。
俺は英雄として帝国のプロパガンダに使い倒された。
ドローンが撮影したロボで戦う場面も入ってる。
おかげで嫁の人気と発言力が強くなっている。
ヴェロニカ皇女とその配偶者の英雄的活躍で帝国は銀河の秩序を取り戻そうとしている。
そう帝国は宣伝していた。
……だけどそんなわけなかった。
実際は羅刹の銀河のオープニングと同じ運命になりつつあった。
銀河帝国は連戦連敗を重ね、人類の領域は減少の一途であった。
現状では攻略法がわかってるため惑星が滅びるところまではいってないが、それでも帝国は負け続けた。
その原因は単純である。
ハンマー持って突撃する頭のおかしい集団はヴェロニカの近衛隊くらいだし、頑丈なだけが取り柄の旧型機でチェーンソー片手に突撃するバカも俺くらいなのである。
ブレード片手に突撃という同じく頭のおかしい戦術が得意なメリッサの実家は健闘していると報告があった。
要するに、頭の線が二、三本切れてる家だけが完全防衛を果たし、それ以外は惑星の何割かをゾークに支配されているという状態なのである。
俺はやれやれとため息をついた。
なお、ジャズはかかってないし、コーヒーは紙コップ自販機でしかもカフェイン抜きのものだ。
俺は興奮剤の摂取を禁止されているのだ。
軍事法廷クラスの薬物摂取にぶち切れた嫁の命令である。(なお戦闘一時間後にAI簡易裁判で無罪が確定した)
今ではタンポポ茶かカフェインレスコーヒーの二択。
水飲んだ方がマシだな。
皇族の配偶者ってなんだっけ?
さて、俺たちは士官学校の生徒全員を避難させるため近衛隊の駆逐艦と学校の実習船で宇宙にいる。
学校のある人工ステーションはすでに壊滅状態。
教官の半分が殉職した。
あとでクローン処置で復活させられるのだろう。
俺は嫌だねえ。復活するの。
人工ステーションが壊滅したため、まずはどこかの惑星かステーションに避難しなければならない。
なお帝国からの支援や救助は存在しないものとする。
もうこの時点で帝国の内情がわかるというものだ。
一見すると救助がないので詰んだように思える。
ところが食料は合成で作り出せる。
意外になんとかなってしまう。
ただそれには水と炭素と窒素とリンにカリが必要だ。
あと普通に植物や動物を育てた方がコスト的に安価だ。
現状は人工ステーションのリサイクル施設と植物プランターを船でけん引している。
リサイクル施設で排泄物ごとに微生物で分解して肥料を生産、それを使って野菜を作る。
水なんかも浄化してる。
水の浄化は帝国内の惑星で発見された生物で行う。
ここが破壊されると俺たちは約二週間で全滅だ。
幸いモヤシと芋とトマト、それに大豆には困らない。
年単位で漂流すると植物に病気が蔓延して全滅するらしいが、半年は大丈夫だそうだ。
謎の甲殻類もあるので食事には困っていない。
ゾーク見た後だと……どうしても体重減っていくよね。
そんな状況のため俺たちは連日会議している。
お題は「どこの惑星に避難するか」である。
近くの惑星はゾークとの戦闘中。
だいぶ状況が悪いようだ。
物資の補給すらあやしい。
かといって無事なことがわかってるメリッサの実家は遠すぎる。
受け入れてくれそうな惑星があればいいが。
そんなある日のことだった。
「もう善意に頼ろうとするのはやめようと思う」
焼き芋片手に嫁が宣言した。
なにそれ嫌な予感しかしない。
「男爵や子爵家クラスの惑星はどこも戦況が悪い。武器もなく戦闘経験のある人材も少なく……要するに妾たちが助ける側じゃ」
俺たちも物資を補給できるアテがあれば助けられるが。
「どこかに伯爵か侯爵家クラスの惑星があればいいのに……」
伯爵家や侯爵家の惑星は単純に物資が潤沢だ。
経営実態は田舎の農協くらいの規模だが、それでも男爵家や子爵家よりはマシだ。
我が家、カミシロ侯爵家はどうかというと、まず学校のあった人工ステーションから行けない距離ではない。
金は持ってないが物資はある。
戦争は得意じゃないが騎士団という名で軍を持っている。
職業軍人や警察官もそれなりの数いる。
でも都会ではない。
しかも上に立つのは我が父親。
指揮官として無能な俺の父親だ。
俺は一兵士としてなら使い物になるが、嫁いなきゃゴミだしな。
俺はどうやったってヤ●・ウェンリーにはなれんのよ。
ハート●ン軍曹にはなれるけどね。
だって俺、銀●伝の登場人物じゃなくてフ●メタル・ジャケット世界の変な生き物に近い存在だし。
「泣いたり笑ったりできなくしてやる!」
はいお約束のセリフ終わり。
さてそんな俺の親父殿は無能を育てし無能。
無能界のスーパースターだ。
平時であれば、道路脇の花壇に除草剤撒くタイプの中古車販売店の店長ならギリギリいけるだろう。
全能力をパワハラに振ってる男だからな。
だけど軍人としては……やることやらん、責任感なし、すぐ逃げる、とまさしくゴミである。
今ごろ凄まじい被害が出ていることだろう。
かわいそうな市民。
「で、婿殿。妾からの命令じゃ。カミシロ家侵略してこい」
「まッ!!!」
それは【ちょっとコンビニで万引きしてこい】的ないじめか!?
新手のいじめなのか!?
「いやな、記録漁ってたらの。半世紀ほど前に海賊に領地が奪われた星があっての。領主の息子が軍を掌握して父を罷免したそうじゃ!」
「やだなにそれ怖い!!!」
「当時の皇帝陛下はたいへんお慶びになっての。なあメリッサ! そうじゃろ!?」
「おう、うちの家だな」
「お前んちだったのか!!!」
「へへっ。【お前】だなんて。俺を自分の女だと主張してくれちゃって。正直……照れるぜ」
そうじゃねえよ!
その【お前】じゃねえよ!
「なんにせよ。我らには拠点が必要じゃ。手に入れるぞ。カカカカカカ! 婿殿、楽しいなぁ!!!」
「何一つ楽しくねえ!!!」
「なあに婿殿さえいれば……侯爵領の解放者ぶって巨大生物を蹴散らしさえすれば自動的に婿殿が当主になる」
「完全に悪役のムーブなのは気のせいか? なあ俺の気のせいか?」
「婿殿……男なら一度は夢見たことあるじゃろ? この国の頂点に立つ夢を!」
やだこの娘!
どさくさ紛れに銀河征服しようとしてる!!!
もう主人公の登場なんて待ってられない!
俺が止めなきゃ!
じゃあどうすれば……?
ゾークぶち殺しまくって平和を取り戻せば……。
やるか……やるしかない!!!
実家を乗っ取ったら主人公探して俺が鍛えればいい。
そして主人公にバトンタッチするのだ!
そうだ!
俺が電柱とか木の上に立つアドバイス兄貴になればいいのだ!!!
嫁が破滅するのも、俺が破滅するのも嫌だからな!