第百三十九話
ようやく退院の日が来た。
妖精さんすら遊んでくれなくて暇を持て余してた。
ひーまー!!!
通常食になってからは回復スピードにブーストがかかった。
なので冷凍食品を食い尽くす勢いで食べた。
賢者のヒーラー能力の限界に挑戦した形だ。
アホみたいなカロリー摂取したのに退院時には2キロ減ってた。
大丈夫か? 俺の肝臓&腎臓……。
俺に余計なことをさせないためか、その後の展開はニュース以上のことは知らない。
手をギブスで固定したレンと足にギブスを巻いて松葉杖をついたメリッサが出迎えてくれる。
「いやさー、俺たちは先週退院してたんだけどさー、隊長のところは出入り禁止にされちゃってさー。あははははは!」
「旦那様に余計な負担をかけないように厳命されてたんです」
さらに威圧感がビリビリ伝わってくる軍の護衛に囲まれた。
その中の偉い人の階級は少尉っと。
「大尉殿! お迎えに上がりました!!!」
威圧感あるのに目がキラキラしてる。
……まるで憧れのアイドルを見てるかのようだ。
「ありがとうございます」
【ご苦労】なんて言えたらよかったが、相手は年上。
20代の後半かな?
俺の階級は大尉だけどいい子にする。
俺の大尉なんて嫁ちゃんパワーが半分以上だからな。
俺は空気を読める男だぜえええええッ!
そのまま病院の外に出るともの凄い数の市民が待っていた。
「帝国解放の英雄レオ・カミシロ大尉がいま病院を退院されました!」
俺の退院なんてニュースになるのか?
……もしかして帝都破壊されすぎて俺の退院くらいしかニュースがない?
「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」
見も知らぬ市民が万歳三唱をした。
……誰ぇ?
「はいレオ・カミシロ大尉のプロフィールです。カミシロ侯爵家の三男で現在公爵。奥様はヴェロニカ殿下。好きなスポーツは野球。好きなアイドルは……」
好きなスポーツはプロレス。
好きなアイドルは……えっちなビデオのお姉さんしか名前が出てこない……。
「好きなタイプは清楚系」
好きなタイプはアニメの話ができる地味なオタ友だちだろ!
エロコスプレしたらぎこちなくピースサインしてくれる系の。
どちらにせよ取材もせずにテキトーなことを言ってるのは丸わかりだ。
嫁ちゃんの外見だけでロリコン呼ばわりされなくてよかった。
……もしかして清楚系ってそういう意味?
車に乗って移動。
とりあえず意味もなく手を振っておく。
「前と同じホテル?」
メリッサとレンが笑う。
「違うよ。どこだと思う?」
「え……?」
そうして到着したのは宇宙海兵隊統括本部だった。
ガチの軍事基地じゃん!!!
「俺たち守るためにここを貸してくれたんだぜ!」
「でも泊まるところは?」
「あそこ!」
統括本部の敷地に入る。
すると古い建物が見えてくる。
看板は【宇宙海兵隊士官大学校】。
あ、そうか。
士官大学校か!
って大学校は宿泊施設じゃないじゃん!
「まさかの床に寝袋!?」
「違うよ。あっち」
大学校の敷地内に車が入る。
研究棟の奥まで来ると別棟が見えてきた。
「そこには【士官大学校学生寮】の文字が」
「取り壊しの予定だったんだけど、急遽使うことにしたんだわ」
「女子寮は外は古いですけど中はきれいですよ~」
「地方惑星の民宿みたいで楽しいぜ」
「へー」
それなら安心である。
男子寮の前に到着。
「……古くね?」
そこにあったのは昭和の団地。
古いって築40年とかのレベルじゃなく、数百年前とかの歴史的建造物だぞこれ。
「建設当時、歴史的建造物を模倣するのが流行ってたそうですよ」
レンが笑顔で教えてくれる。
やはりキレさえしなければ知のレンさんである。
でもアホの考えた建築物だな。これ。
一階は商店街になっていた。
購買部と食堂、それに銭湯を模した共同浴場だ。
購買部は今はやってない模様。
テキストや学術書は紙の本で出力できるように造形プリンターが置かれていた。
食堂は真新しい冷凍食品の自販機が並んでる。
冷食生活決定。
「つうか、ねえよこんなもん!」
昭和のパチモンにもほどがある。
本物はこんなにきれいじゃないし、団地の商店街はもっとしょぼい。
「たぶん共同浴場作りたかっただけじゃないかな?」
「うわぁ……」
たしかに士官学校には共同浴場がつきものだ。
社会性を身につけるのだ。
一見すると自由が約束されてる刑務所だ。
「ああああああああ……ようやく解放されたはずのシーツ張りとアイロンがけの生活がががががががが!」
ベッドメイキングにアイロンがけ。
シワが一つでもあったら怒鳴られて腕立て伏せ。
嫌がらせみたいなタイミングで行われる点呼。
嗚呼……民間に転職したい……。
「数カ月前までやってたじゃん。なにを今さら……」
「超能力者に体育会系型の社会性を求めるのやめてー!!!」
「旦那様。ご安心を。今はパーソナルシールドの展開が遅いと死ぬほど怒られ……」
「いやああああああああああああああッ!!!」
「あんだよ。うるせえな」
男子がやって来た。
「お、レオじゃねえか! 野郎ども! 大尉が帰ってきたぞ!」
「お、大尉殿! うぇーい、二人ともあとはまかせてくれ。オラ大尉! てめえツラ貸せ!!!」
やって来た男子どもに連れさらわれる。
やーめーてー!!!
そのまま手足を縛られて豚の丸焼きみたいにされて食堂に運ばれる。
「レオ……お前、電気詳しいよな?」
「なによ?」
「ネットがないと死ぬと思わんか?」
「はあ?」
焦って妖精さんを呼び出そうと……ネットが来てないだと!!!
エロ動画すら見れねえじゃねえか!!!
殺すぞ!!!
「そういうことだ。で、ここからが本番だ。ルナ……妖精さんから荷物が来た」
男子どもが俺を解放して土嚢袋を差し出す。
土嚢袋にはバラバラの無線ルーターのパーツが。
「……ほう?」
「武器や食品に混ぜて数回に分けて送られてきた。組み立てられるか?」
「まかせろ」
今日ほど理系でよかったと思った日はないだろう。
つうか、てめえらできねえのかよ!
この脳金どもめ!!!
組み立てていく。
おうお、既存パーツだけでここまでできるのかよ。
勉強になるな。
「半田はねえか。まあいいや。機械修復用のナノマシンの修復モードで代用と」
サクッと組み立ててファームウェアをインストール。
ド安定のシステムが立ち上がる。
さすが妖精さん。
この短期間でここまでちゃんとしたものを作ったか……。すげえ。
衛星通信。事業者名はルナネット。
なるほど、こうやって妖精さんは無料でネット使ってたのか。
「説明書によるとこれを壊れた壁に隠せって、えっと妖精さんによると壁が崩れそうなところが数カ所……」
資料通り最上階に行く。
ふむふむ、【非破壊で調べたものだから壁が壊せなければ次を試してください】ねえ。
最初の部屋は物置だった。
後で壁を補修したような箇所があった。
「ハンマー」
「ん」
ハンマーを振り下ろす。
まずは石膏ボードを破壊。
【かゆうま】
「まったく悪趣味な! はっはっは!!!」
「だよなー。もう妖精さんったら趣味悪いんだから!」
壁が崩れかけてたので破壊。
あんれー?
なんか嫌な予感が……。
さすがに危険はねえだろ。
穴が空いた、ここに勝手にコンセント設置して壁の中に無線ルーターを設置すれば任務完了と。
瓦礫を除去して……。
「レオ……あれなんだと思う?」
それは干からびた……人の……。
「……人間の干物だな」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
そのあと寮生全員で逃げ出して救助を要請。
警察が来る騒ぎになった。
数十年前の殺人事件だって!!!
もうやだこの能力!!!
あとネットだが、めちゃくちゃ怒られたが設置が許可された。




