第百三十八話
結局、さらに症状は悪化。
心電図計に各種計器で繋がれて、ナノマシンマシマシ投与&24時間体制での栄養添加になった。
幸いなことに首から下に影響はない。
というか、帝国の技術力なら神経の修復も可能だ。
体全部総取っ替えは技術的に少し難しい程度だろう。
あとは突然死だけが問題である。
骨から漏れちゃいけない系の成分が溶け出して心停止の可能性が……って前もあったな。
ナノマシンに期待したい。怖いから!
ギャグ展開の効果は病院に残って戦った連中にも影響をもたらした。
怪我人が応戦というかなり絶望的な状況だったのに死人は出なかった。
俺と一緒にストレッチャーに乗ってたレンだけ手の骨折が悪化したくらいだろうか。
病院の周りには帝国軍の戦車が並んでいる。
上空ではヘリが飛んでいる。
さらに敷地の外、軍の規制線の外には武装した市民が俺を守っていた。
とうとう市民の堪忍袋の緒が切れたのである。
警察は機能せず……というか積極的に市民に武器を提供した。
市民は暴徒化。
徴兵制度がある帝国の市民は武器の使い方を知っている。
組織だった動きで文官の偉い人の家やら、公爵邸を襲撃。
前からやってた放火なんてもんじゃない規模で大襲撃が発生した。
機動戦士モロトフ(火炎瓶)は旧型だったようだ……。
ガソリン通り越してプラズマグレネードだし。
メディアでもずうっと生放送してる。
あ、そうそう。
メディアは完全に文官の敵に回った。
だって仲間死んでるもん。
そりゃ怒るよねって話だ。
武装した記者が市民軍の戦闘で爆弾投げてるもん……。
俺たちは休暇というか「体治るまでお願いだから働かないで」と涙目で命令された。
フルで給料払われるので異論はない。
男子どもが俺の見舞いにやって来た。
俺は動けない。
「よ、レオ。俺たちさっき退院したわ」
「おめでとー」
「それでよー。そのままここで待機だって」
「どういうことよ?」
「健康診断だってよ。異能による体への影響調査だって」
「俺の超能力か!」
「そういうこと。みんなこっちの病院でお前の監視と健康調査だってよ」
「ういー。ところでよー。ここどこ?」
そういや聞いてなかった。今聞こう。
ここはどこの病院よ?
「帝都大学医学部附属病院。すげえぞ貸し切りだぞ」
「あ、了解ッス」
国立の一番頭のいい大学だったのね。
そりゃ研究者も大量にいるわ。
状態のいい患者は移送されたらしい。
迷惑かけて正直スマンかった。
「殿下だけ皇族病院だって」
皇族用の病院である。
そりゃそうなるだろ。
「本当はお前も皇族病院に移送する予定だったんだけど、ほら……死にそうだったし」
「そういうことね!」
結局、余計に症状悪くなったわけだが。
悪意なんてないんだけどね!
「つうわけで隊長。ゆっくり体治してくれや。俺たちが守ってやるからよ。いざとなったら市民盾にしてお前置いて逃げるからよ!」
「最低の発言やめい!」
「じゃあの!」
男子たちが出て行った。
そんなこと言いながら最後まで戦うんだろうな。あいつら。
こんだけ守る人間がいて俺が動くわけにもいかんな。うん。
メディアでは俺たちの病院襲撃を怒り散らかしてた。
【学生でありながら命をかけて帝都を守った彼らを殺そうとするなど許せない!】
【文官どもを許すな!】
【異種族との絶滅戦争時に帝国の弱体化しようとしやがって! ぶち殺すぞ!!!】
とイキリ散らかしてる。
さらにウォルター派の構成とかにトマスの遠征失敗の原因を詳しく解説してる。
文官と公爵会が裏で繋がってたんだって!
……でもさ、文官と地方領主が繋がらない方が無理ゲーじゃね?
地方から陳情とか軍の要請とかあるだろが……。
軍だって公爵会とまったく繋がりがないわけじゃない。
利害関係がなさすぎてズブズブにならなかっただけだ。
かわいそうなのはアレクシアの正体の報道だろう。
中の人が佐藤ヒロシ60歳であることと、ウォルターの肉体関係まで報道してた。
不敬罪的にアウトじゃね?
【オラオラ! 逮捕できるもんならしてみろボケがああああああああああッ!!! てめらも道連れじゃあああああああッ!!!】
という半ばヤケクソみたいな気迫がメディアから伝わってくる。
ウォルター派が被害を訴えても警察もろくに捜査しない。
被害が出たのは警察も同じなのだ。
むしろウォルターを殺してやりたいと本気で考えてる勢力だと思う。
こうして世論は完全にウォルター終了のお知らせになっていたわけである。
もう知らないっと。
あとはゾークとの戦いが俺たち学生頼りであることが批判されてる。
これは嫁ちゃんも含まれる。
ここぞとばかりに俺のジェスターの能力も公開。
帝国の超能力兵計画の末に産み出されたってとこまで公開。
本来繁殖できない使い捨ての駒だけど生き残って繁殖もしたよってのも。
さすがに絶望をギャグに変える能力というとこは非公開だ。
そんなアホな情報公開できるかよ……。
「あーあ……」
暇すぎてずっとライブ中継を見てたらウォルターの本拠地のビルが映った。
市民がぐるっと取り囲んで、やる気ゼロの警官が警備するポーズをしてる。
市民が火炎瓶を投げ込んでも止めようともしない。
あーあ、こりゃやべえわ。
とうとう市民がプラズマライフルを持ち出した。警察のマーク付きのやつ。
グレネードを投げ込んだら一斉突入。
警官もなぜか市民側で暴動に参加。
あーあ……。
すぐに人型戦闘機がやって来る。
中の人は文官の領地の軍かな?
当然のことだけど警察の人型重機にボコボコにされた。
プラズマライフルの撃ち合いすらない。
本当のボコボコである。
練度が違いすぎる!
そのままコックピットから引きずり出されて市民にボコボコにされる。
角材でぶん殴られてるのが映ってた。
誰も手加減してない。
ゾークへの怒りまでウォルターに向いてる。
しばらく見てたらビルが燃えた。
うっわー……。
皇位継承で争ってた俺たちがどん引きである。
どん引きしてたら嫁ちゃんから緊急通信が入った。
いつものと違って高度暗号化された秘匿回線使用の軍事通信だ。
復号化、人間に理解できる音声データにするのにラグがあるのと音質が悪いのでいつもは使用しないやつだ。
……嫌な予感しかしない。
「婿殿生きてるか」
「心と首が死んでる」
「うむ、余裕ありそうじゃな。手短に言うぞ。ウォルターが我々に投降した。逮捕して宮殿にかくまってる」
「……お、おう。俺にできることは……ないな」
「婿殿はおとなしくいい子にしてくれ。妾はこれからレイモンドと打ち合わせじゃ。ではまたの」
……俺が入院中に世界が動きすぎた件。




