第百三十七話
金具を外して移動開始。
立とうとしたらまたもや押さえつけられて強制的にストレッチャーに載せられる。
頭と首はベルトでガッツリ固定されたままだ。
動かせないから上しか見えない。
だけど周りから士官学校の男子どもの声が聞こえる。
「レオが通るぞ! 道を空けろ!」
男子が俺のストレッチャーが通る道を空けてくれた。
「急げ! おら! 土嚢もっと積み上げろ!!! おし、銃座設置するぞ! 行くぞ! いちにーさんッ!」
声から緊急度合いが高いことがわかる。
さらに車両がバックするときの警告音があちこちで鳴っている。
やべえぞここ!
「レン! レオと救急車に乗れ!」
「はい!」
俺ごとストレッチャーが救急車の後部に収納される。
一緒にレンが乗ってくる。
「旦那様。痛いところはありませんか?」
「うーん人生が痛い」
「大丈夫ですね。今から帝都の別の病院に移送します」
「了解。ウォルターの軍は?」
「すぐそこまで来てます。みんな怪我したんでクーデターのチャンスだと思ったみたいです」
「あとでガッツリ報復されると思うんだけど……」
すぐに地方の領主軍が来る。
そこで皆殺しだと思うんだけど。(裁判なんて受けさせてもらえないと思う)
やつら三日天下をお望みなのだろうか?
「それを理解できる優秀な人が死んじゃったんです」
「あ、なるほど。完全に理解したわ」
もはや帝国も国の体を維持できるかあやしい。
人口統計にも戦争の跡が刻まれたくらいだ。
これから数年は不景気じゃないけど生活の質を落とさなければならなくなりそうだ。
それでも完全無人の工場があるからマシなんだろうけど。
戦争はこりごりだわ。
「出します!」
運転手さんの声が聞こえた。
扉が閉まり救急車が発進する。
さーて、俺は今回なにもできないけど大丈夫かな?
これが訓練じゃないのはレンの様子からもわかる。
「レン、具合はどう?」
「私は空中戦艦撃沈で転倒して手の骨にひび入っただけですから。ナノマシン治療だけでもう回復寸前まできました」
「そっか。それはよかった。みんなはどうしたの? 嫁ちゃんは?」
「非常時ですから、二人きりのときに他の女のことを聞いたことは許してあげます。殿下は先にヘリでご移送されました。メリッサは後から来る予定です」
嫁ちゃんが先なのは当然として、メリッサは後か……。
少し心配だな。
あとレン……けっこう嫉妬してくれるのね。
正直いまゾクゾクしたわ。
「レンさ……実家の公爵家、世間の風当たり強くない? 大丈夫?」
現在、公爵家への世間の風当たりは強い。
公爵家ってだけで帝都の屋敷に放火されたりしてるし。
物騒だよね。
「うちは公爵ってよりレオ・カミシロの嫁の一人の実家で有名なんで特に問題ありません。むしろ一門のものに旦那様の遠戚狙いの婚約申し込みが殺到してるとか」
レンのとこは古い公爵家だし親戚が山ほどいる。
そこに婿入り嫁入りすれば俺の親戚になるのか……。
もしくは【元からレオ・カミシロの側でした】って言えば許されると思ってる公爵会の親戚連中か。
「いいの? 裏切らない?」
「邪魔になったら切るだけですから」
レンはキラキラした笑顔であった。
やだ怖い。
公爵の世界怖い!
俺……公爵やっていけるかな?
走っているとなんだか頭が痛くなる。
「なんだろう? 頭痛い……」
「旦那様……ナノマシンの痛覚遮断使います?」
「いざってときに動けなくなるからやめとこうかな……」
なんて言ったのが悪かった。
運転手が叫んだ!
「後方から不審な車両が接近!」
「おいおいおいおいおーい! マジで殺しに来やがった!!!」
「安心してください旦那様。軍の護衛もいます……」
ちゅっどーん。
ホントにちゅっどーん。
姿は見えないけどなにかが爆発する音が聞こえた。
「旦那様……お待ちください」
ニコッとレンがほほ笑んだ。
あら清楚。
するとストレッチャーベッドの横でジャキッと音がした。
「このクソボケがあああああああああッ!」
車両の後部が開きズドーンっと音がした。
あー……この音、パルスライフルの対物ライフルモードだわ。
「せっかく旦那様と二人きりなのに!!! ぶち殺すぞおおおおおおッ!!!」
ちゅっどーんと爆発する音がする。
はっはっは。
さすが俺の嫁。
キレると怖い。
そういやレンってスナイパーの講習受けてたっけ……。
普段おしとやかなのに……。
「死ね! 死ね! 死ねええええええええええ!」
ドムドムとビームの音がして、少し遅れて爆発音がする。
キルレート高いわー。
「上空からヘリが接近!!!」
「死にさらせええええええ!」
「ま、待て! 向こうの方が射程長……」
救急車が吹っ飛んだ。
俺は吹っ飛ぶ直前にレンを引き寄せいていた。
ストレッチャーが車外に放り出される。
なぜか折りたたまれた車輪つきの足が開いた。
がこんと着地。
首が痛え!
爆発でストッパーが壊れたのか、そのままストレッチャーは斜面を猛スピードで滑っていく。
「ふひょおおおおおおおおおおおおおッ!」
何も見えん!
ここは能力頼りだ。
俺は勘で危険を察知する。
俺のたいへん出来の悪い不謹慎な頭が脳内でユーロビートを再生しやがった。
バカなのかな!
俺は本当にバカなのかな!!!
あ、危険の予感!
「ほうわ! ミサイリュううううううう!!!」
体重移動でミサイルを避ける。
爆発でストレッチャーが浮く。
そこは気合と体重移動でなんとか!!!
ききききききー!
カーブでドリフト!!! ブレーキねえからできねえけど気分だけ!
次の瞬間、直感が危機を察知した。
「はいー!!!!」
攻撃される予感。
俺は体重移動で銃撃をよける!!!
脳内ユーロビートが盛り上がる。
はいカーブ!
カーブ通過!
直線だ!
「旦那様! 援護します!」
レンはストレッチャーの上で片膝をつき銃撃した。
あん♪
その……大事なところにレンの足が! 足が!!!
アホ丸出しで喜ぶ自分がいる。
「旦那様! 坂を下りきったら病院です! それまで我慢してください!」
ドムっとレンが銃を撃った。
反動でストレッチャーが揺れる。
懸命に俺はストレッチャーを制御する。
脳内でサビが演奏される。
バリバリバリッと航空機の音が聞こえる。
「友軍の戦車です。ヘリも見えます! 助かりました旦那様!」
おっと……ここでヤバいことに気づいたわ。
「……どうやって止まろうか?」
「あ……」
友軍のミサイルが見えた。
敵のヘリが撃墜される音がした。
そして俺は……俺たちは飛んだ。
アイキャンフライ!!!
戦車の上を飛び、ロビーのガラスを割り病院に侵入する。
そしてロビーの壁にぶつかり……コケた。
「ぎゃあああああああああああああッ! レオ大尉! みんな今すぐ来て!!!」
ナースの叫び声が聞こえた。
「レン……」
「ふみゃあああああ!」
薄れ行く意識の中、壁を蹴ってから華麗に着地するレンが見えた。
さすがビースト種……。
俺より強い……。げふっ!
脳内ユーロビートが終了した。




