第百三十五話
「隙ありいいいいいいッ!」
メリッサがダークブレイザーに後ろから斬りかかった。
そういう空気読まないとこ、大好きじゃ!
もちろん俺も参戦する。
卑怯ぉ?
残念だけど、これ絶滅戦争なのよ!
「蚊とんぼが!!!」
ダークブレイザーが裏拳を放つ。
あははははは!
戦闘訓練を受けてないのが丸わかりだ!
そんなもんメリッサが当たるかよ!!!
俺は後ろからダークブレイザーの背中に切りつける。
俺の剣は肉を切り裂きダークブレイザーの本体に傷をつけた。
さすがに一刀両断ってわけにはいかないか!
「レオくん! みんなの退避完了しました! 全力で大丈夫です!」
「死ね! 下等生物め! デスブラスター!!!」
俺はそれを待っていた。
ワンインチパンチを胴体にぶち込む。
拳がボディーを捕らえた。
ダークブレイザーの体がくの字に折れた。
肉が離れ、ダークブレイザーが下を向いたことでデスブラスターの発射軌道がずれる。
デスブラスターが庭園の地下に向けて発射された。
沈黙。
少し遅れて地下からマグマの噴火のように爆発が起こった。
俺の機体も列車への変形機能がないだけでダークブレイザーと同じサイズのはずだった。
なのに機体が浮き宙に放り出された。
「メリッサああああああああああッ!」
爆風に飲み込まれメリッサの機体が見えなくなった。
ダークブレイザーも爆発で宙に放り出されていた。
ビルが倒壊するのが見えた。
もうこの区画の建物は全滅だろう。
粉塵でなにも見えなかった。
ただ俺は落下してるのだけはわかった。
「レオくん! 真下にダークブレイザーがいます!」
その声で無意識に剣を振りかぶった。
殺戮の夜は素直にそれに応じる。
「やるぞ! 殺戮の夜!」
「あくまで邪魔するというのか! レオ・カミシロ!!!」
「うおおおおおおおおおおお!」
剣を肩口に叩き込む。
インチキ薩摩殺法よ!
だけど死ぬほど練習したこの技こそが一番信用できた。
俺は地に足をつけると腰を落とす。
すべての重さが剣に伝わる。
剣は肉ごとダークブレイザーのボディーを引きちぎる。
剣が地に叩きつけられたとき、ダークブレイザーの体は一刀両断されていた。
「な……ん……だ……と……我は……新世界の……女王……」
「アホか。ゾークの洗脳でそう思い込んでるだけなんだよ!」
ケビンがそうだった。
俺を殺そうとする理由なんてなかったのに殺さなきゃって思わされてた。
だいたいさー、何十年もおっさんやってたヤツがさー、いきなり女になって女王になるって思うわけねえだろ。
ゾークの手片で踊らされてただけなんだろう。
哀れだな。
だけどアレクシアにはケビンほどの理性はなかった。
「レオ・カミシロ……せめて貴様の比翼を潰してくれる……」
その言葉に俺はぞっとした。
「嫁ちゃん!!!」
「全力回避!!!」
俺の通信を聞いて嫁ちゃんが回避行動を取った。
敵はなにをするつもりだ?
「拡散デスブラスター」
そんな機能あったの!!!
「スロウ!」
俺はダークブレイザーにスロウのフィールドを張る。
「バカめ! こいつは誘導兵器だ!!!」
俺はダークブレイザーに飛びかかった。
ダークブレイザーを地面に押さえつけて覚悟を決めた。
「デスブラスター!!!」
デスブラスターでこいつを消し飛ばして誘導拡散ビームは俺が受ける!
もうそれしかねえだろ!!!
俺は至近距離からデスブラスターを放つ。
「む、婿殿!!!」
「嫁ちゃん! お前だけは絶対死なせねえ!!!」
デスブラスターが地面をえぐる。
まだ地下施設があったらしい。
もう一度爆発した。
俺たちは宙に放り出される。
「あははははは! 運は我にほほ笑んだようだな!!!」
拡散デスブラスターが発射された。
ほとんどが殺戮の夜にぶち当たり容赦なくボディーを削り取った。
「レオくん! センサーレッド!」
「まだだー!!!」
俺はスロウのフィールドを張る。
俺を通り抜けたデスブラスターを殴る。
腕が爆発する。
もう片方の手でも殴る。
残った腕も爆発した。
一発だけ手の届かない空に逃げてしまった。
ああ、やめろ!
「全ミサイル発射ぁッ!!!」
嫁ちゃんがミサイルを発射した。
勢いが少しでも小さくなればいい。
だけど拡散されたビームは突き進んでいく。
「バリア出力最大!!!」
嫁ちゃんがバリアの出力を最大にする。
だけどそれすらも突き破る空中戦艦を撃ち抜いた。
空中戦艦が墜落していく。
俺は走る、走る、走る。
空中戦艦を受け止め……手がねえけどクッションになって受け止める。
ガリガリとボディーが削れる。
グチャリと音がして殺戮の夜が潰れた。
空中戦艦は殺戮の夜を潰す形で止まった。
「よ、嫁ちゃん……」
「婿殿! 妾は生きてる!!! だから婿殿も……」
「……こちらメリッサ……かろうじて機体が動かせる! ただちに救助に向かう! 二人とも死んだら怒るからな!!!」
さすがメリッサ、そういうとこが好きじゃ……。
さて、その後の話をしよう。
通称ハウンド隊、全員入院!
近衛隊も全員入院!
空中要塞のオペレーションしてたケビンも、ニーナも、レンも、ドックにいた京子までも全員入院した。
警察も軍の兵士も死ぬ寸前多数。
領主軍は死者は少ないながらもそれなりの犠牲を払った。
なぜか集まってたメディアは3割くらいが亡くなった。
これは【俺のパーティーじゃないからジェスターの能力の効果範囲外】だったと分析されてる。
嫁ちゃんも今回ばかりは大怪我して入院。
エッジとアリッサは普通に骨折。
俺とメリッサは集中治療室送りになった。
アレクシアはあのあと半日生きてたらしいけど、さんざん苦しんでから逝った。
歩兵やってた男子も今回ばかりは集中治療室送り多数。
これでもまだマイルドな現実という。
最後にギャグにならなかったあたりにジェスターの能力の限界が垣間見えた。
市民の被害はシャレにならないほどだった。
暴動は各地に広がり、公爵どもを殺せと民衆が暴れ回ってる。
俺たちに非難の矛先が向くかと思ったら、全員死にかかったため同情が集まった。
さらに地方領主も犠牲を出して戦ったので英雄扱いだ。
亡くなった領主もその功績をたたえられた。
「レオくん、軍から少佐に昇進の打診来てますよ」
「無理ッス。少佐って拠点の責任者だよ! 店長どころかエリアマネージャー説まであるからね! 無理ぃッ!!! 能力的に無理!!!」
俺には連日にわたり様々な部署から昇進の打診が来ている。
だが俺は断ってる。
お願いだから大学校卒業してからにして!!!




