第百三十四話
反則野郎……今は女でアレクシアか。
とにかくインチキにもほどがある兵器を持ち出してきた。
しかもゾークでの強化版。
惑星領主たちの空からの砲撃が降り注ぐ。
避難が行われてるのにだ。
こっちをなんとかしないと多くの人が死ぬと判断されたのだろう。
もはや某巨大化ヒーローが潰した家屋の被害を追求……なんて段階じゃない。
「ぐはははは! 虫けらどもが!!! これが公爵の血統! これが尊き血の力だ!!!」
アレクシアが叫ぶと胸から漆黒の渦が放出されていく。
「ダークブレイザー! デスブラスター」
空に向けて黒いビームが放出された。
空から援護してくれた領主軍の戦艦が黒いビームに飲み込まれていく。
衝撃で地面がめくりあがり戦車や車両が宙に浮いた。
俺の機体も飛ばされ地面に叩きつけられる。
クッソ! ラスボス戦相当だろが!
「……レオ! 生きてる!」
思いっきり体を打ったせいで一瞬だけ意識が飛んだ。
「……折れてない。戦える」
「骨折してるかしてないかで判断するのやめて!」
クレアに怒られる。
あ、そうか、砲台は縦回転もするから俺よりはダメージ少なくてすんだのか。
よかった。
尻はアザだらけだろうけど。
「クレア、あの野郎ぶち殺したい……」
「気持ちの余裕ができたらね」
ですよね。ええそうですよね!
ここでジャンルを強制的にコメディにしないと人が死ぬんですね!
「妖精さん! なんかいい手ない!?」
「この施設の地下になにかあります! い、いま強制的に起動を……」
「リニアブレイザー?」
レンの実家にも予備のリニアブレイザーがあった。
ここにあってもおかしくはない。
だって俺すら忘れてたけどリニアブレイザーって本当はトンネル工事用の機体だもん!
「IDがないんです! 未登録の機体です!」
「お願い! 起動して!」
俺はリニアブレイザーで立ち上がった。
起動まで時間稼ぎしないと!
起動しても使える機体かわからないけどさ!
俺は嫁ちゃんに通信する。
「嫁ちゃん! 上に向けてデスブラスター撃つ! 避難して!」
「わかった! 全軍退避!!!」
そりゃリニアブレイザーに比べたら後付けのデスブラスターなんて出力が小さい。
でもこれしかないでしょ!
俺は超能力を全開にする。
賢者の全能力を振り絞ってデスブラスターの回路に力を送る。
「うおおおおおおお!!! デスブラスタあああああああッ!!!」
そのとき……俺は失敗を確信した。
だってこのふざけた機体。
成功するときはセリフまで変えてくるもん。
「デスブラスター!」
アレクシアの機体から俺へデスブラスターが発射された。
相殺……できればよかったんだけどね!!!
一瞬で俺のデスブラスターはかき消された。
「スロウ!」
デスブラスター喰らいながら俺はスロウで襲いかかるビームを遅くする。
俺は横に転がって避け……爆発で機体が飛んだ。
そのまま放物線を描きながら庭園の外、飲食店なんかが入ったビルまで飛ばされる。
「スロウ! スロウ! スロウ!!!」
ビルに激突する寸前、スロウが間に合った。
それでも機体がビルにめり込む。
俺がやったのはそれだけじゃなかった。
爆風にさらされた仲間や兵士たちにもスロウをかけて保護する。
「クレア! 生きてるか!?」
「たぶん……肋骨が……折れた。動け……ない……」
俺がめり込んだビルが倒壊して機体が地面に落ちた。
センサーはオールレッド。
もう機体はダメだ。
背中側で爆発が起こった。
漏電かガスに火がついたか。その両方か。
前につんのめって機体が倒れる。
同時にディスプレイになにも映らなくなった。
……爆発オチにしても火力強すぎじゃないの?
いまのでメインカメラまで死んだぞ。
「クレア……脱出できるか?」
「なにするの?」
「自爆」
「叩くよ!」
「足止めだよ! みんなが逃げる時間を稼ぐ!」
「……ばか!」
クレアは怒りながら外に出てくれた。
俺も外に出る。
するとエッジたちがやってきた。
エッジの機体は右手が溶けてなくなっていた。
アリッサの機体が肩を貸している状態だ。
「レオ!」
「クレアを回収して逃げろ! 俺は最後まで残る!」
「俺も戦う!」
「……頼む」
エッジはぐちゃぐちゃっと髪をかきむしった。
「あとでぶん殴ってやるからな! ぜったい帰ってこいよ!」
「ああ。よろしく」
俺は機体を降りて庭園に向かう。
クッソ、敵に回したら反則すぎるだろ!
あの工事車両!!!
「レオくん! 起動成功しました! 急いで出します!」
救世主が来た。
「なるはやで頼む」
俺が死ぬ前にね。
「機体名【殺戮の夜】……人型戦闘機です!」
次の瞬間、それは地面から手を出した。
それを見た瞬間、俺は理解した。
リニアブレイザー、それにジェスター専用機はこいつの試作機だったのだ。
禍々しくも無駄のない黒いボディの巨人。
死神と化した道化師。
ゾークの処刑人。
それが俺の前で頭を垂れていた。
俺は殺戮の夜に乗り込む。
帝国標準通信回線に接続、嫁ちゃんへ通信っと。
「こちらレオ・カミシロ! 【殺戮の夜】起動成功! ダークブレイザーと戦います!」
「む、婿殿! 生きてたか!」
「嫁ちゃん、みんなを頼む」
「わかった! 死ぬなよ! 怒るからな!!!」
「へーい」
俺は息を整えながら歩く。
「レオくん、背中に剣が収納されてます!」
剣を抜く。
日本刀か。
そりゃそうか、公爵家は日系がほとんどだもんな。
俺は帝国式剣術しか知らねえぞ。
メリッサの動きをマネすりゃいいか。
スパーリングは吐くほどやったしな。
庭園にはアレクシアの機体が待っていた。
外部スピーカー最大っと。
「待たせたな」
「来たか。害虫めが」
おめーに害虫扱いされたくねえよバカ。
「対ヨロ」
俺はクイ、クイっと手招きする。
オラ来いよ!
「はっはっは! 貴様を殺し、ゾークに勝利をもたらし我が新しい人類の女王として君臨してくれる!」
「無理だね。お前はここで終わりだ」
第2ラウンドの火蓋が切られた。




