第百三十三話
人間がゾークに変わっていく。
それは心が絶望に染まるには充分な光景だった。
「か、確保おおおおおおおおぉッ!!!」
この異常な光景に最初に反応したのは警察だった。
恐慌を起こしたのを気合で持ち直した。
いや、単にやけくそだったのかも。
「警察を守れええええええええ!」
軍の少尉だったか中尉だったか忘れたおっさんの怒号で俺たちも我に返った。
ゾークと戦い慣れてる俺まで雰囲気にのまれていた。
「俺たちも行くぞ!!!」
変身してカニになったゾークがいた。
あるものは触手型になり、肉になり、なり損なってその場で絶命した者もかなりの数に及んでいた。
消耗品扱いですらない。
本当に人間を駆除するつもりだ。
変身した男(たぶん女性も)の半分は女性化していた。
ケビンみたいな胸が大きくてスタイルの良い女性に。
女性も体型が変わっていた。
顔も元の素体を美形にしたような顔に。
なんらかの法則があるのか、それとも運なのかはわからない。
人型戦闘機でカニを蹴飛ばす。
「レオくん! 今ので確信しました!」
「なにをよ!?」
「ジェスターの現実改変能力です! 地獄なのは変わらないんです!」
「どういう意味よ!」
触手が飛んできた。
「スロー!!!」
トゲの対処と同じだ。
スローのフィールドを張って遅くなった触手をつかむ。
「オラァ!」
思いっきり引っ張って、バランスを崩した触手型の顔面にヒザ蹴りをぶちかます。
「レオくん! 世界の難易度は変わらないんです! だけどレオくんは仲間が誰も死なない結末を引き寄せられるだけで! 現実改変されて冗談みたいになるのはレオくんの周囲だけなんです!!!」
「はい?」
「最初の襲撃で生き残ったはジェスターの能力に覚醒したから。その後も冗談みたいな展開で生き残ってますけど本当だったら何回も死んでるんです! 私だって本当だったら力を貸しませんでした。リニアブレイザーだってそうです! 本当はゾークが奪ってみんな死ぬはずだったんです! 暗殺後はトマスが死んでウォルターが勝利するはずだったんです!」
たしかに俺がグズグズにしたシナリオの数々だわ。
あー……そうか。
最初だけだわシナリオ知ってて先回りしたの。
やっぱりジェスターは最強じゃねえじゃん!
「今回も運命をねじ曲げた結果、敵が一箇所に固まりました! チャンスです!」
そうなの?
結託してるし待ち構えてるしで不利な気がするんだけど!
でもやるしかない!
「それで、運命をねじ曲げられる俺は何すればいい?」
「アレクシアを倒してください!」
俺はアレクシアが消えたあたりに急ぐ。
チェーンソーでゾークを一刀両断していく。
警察も軍の歩兵も必死だった。
ただ助かったのは女性型ゾークだ。
ケビンと同じく急に体のバランスが変わったせいでコケてた。
警察は女性型を中心に捕縛していく。
戦車がカニに体当たりした。
ここは庭園から一歩出たらすぐに繁華街が広がってる。
こんなところで主砲は使えない。
男子たち、通称ハウンド隊はなれたもの。
実弾兵器でゾークと果敢に戦っていた。
メリッサも近衛隊も必死に戦う。
俺はアレクシアの消えた場所へたどり着いた。
穴の奥は地下に続いている。
「逃げやがったか……」
「レオ! エネルギー反応を確認!」
そのとき突如として地震が起きた。
地鳴りをさせながら庭園が割れていく。
土砂が穴に飲み込まれていく。
俺の中で危険を知らせるセンサーが全力で鳴り響く。
「撤退! 全軍撤退!」
穴から巨人の手が伸びてきた。
黒く染まったボディ……いや違う、無数のゾーク、肉片型のゾークが機体にへばりついていた。
それはゾーク化したリニアブレイザーだった。
「レオ・カミシロ……忌まわしきジェスターよ。貴様の拳は神になった我に届くかな」
届かねえよボケが!
まるっきり機体のサイズが違うじゃねえか!
デスブラスターはある。
でもここじゃ使えない!
敵の手が俺をつかもうとする。
「クレア! 照準頼む!」
「了解!」
「スロウ!」
敵の手のスピードが遅くなる。
俺はその手に向かってチェーンソーで斬りつける。
クレアも砲撃を浴びせる。
主砲は使えない。だから対空用のガトリンガンを撃つ。
「うおおおおおおおおおおお!」
何度も何度も斬りつける。
肉がちぎれていく。
だけど中のフレームには届かない。
「レオ! 質量が違いすぎる!」
「クソ!」
俺は転がって回避。
敵の手が地面を叩いた。
ずうううんっと地面が揺れた。
穴から台がせり出してきた。
黒く染まったリニアブレイザーが外に出てきた。
「おいおい……どうすんだよ……」
俺がつぶやいた瞬間だった。
空から光の槍が飛来した。
それが超高速で飛来するミサイルだと遅れて気づいた。
ミサイルがリニアブレイザーの頭部に着弾する。
「レオ・カミシロ大尉! 領主混成軍が助太刀する!!!」
空を埋め尽くす軍艦。
宇宙港で詰まってた地方領主や軍の船だ。
さらに嫁ちゃんの空中戦艦から飛び降りてくる機体が見えた。
「レオ! 今助ける!」
エッジのカスタム機だ!
それにアリッサのジェスター専用機だ。
アリッサの完成したのか!
「クレア! 市民の避難は?」
「まだみたい!」
「二人とも! 敷地の外の避難が完了してない!」
「了解!」
エッジが剣を抜いてリニアブレイザーに斬りつける。
アリッサもハルバードで斬りつけた。
おう……やはりジェスターは脳筋の呪いがかかってるようだ。
そういやさっきのミサイルは大丈夫なのだろうか?
……もう撃っちゃったししかたないよね!
「レオくん! もう一機近くにあります!」
妖精さんがボイスチャットに割り込んできた。
「なにが!?」
「リニアブレイザーです! 庭園の地下にもう一台!」
「敵?」
「まだ起動してません!」
「なんで皆殺し兵器を地下に置いてるのー!!! 公爵ってバカしかいないの!?」
どいつもこいつも隙あらば政権ひっくり返す準備してやがって!
「隠したんです! 地下を遺跡扱いで譲渡して、遺跡に興味のない帝国が存在を忘れるのを見越して……」
宇宙戦艦のミサイルが一斉に降り注ぐ。
ミサイルがリニアブレイザーに次々と着弾していく。
リニアブレイザーの弱点だった耐久性。
それをゾークは克服していた。
無限に増殖する肉。
肉がすべて爆発を受け止めてしまう。
今まで何人の市民が肉に変えられたのだろう。
外道としか言い様のない所業だった。
「ふははは! 我は無敵! 宇宙最強也!!!」
あんなの反則だろ……。




