第百三十一話
「死ね! 皇族の豚が!!!」
俺たちの車に卵が投げつけられる。
多少ムカつくがこれも織り込み済みである。
あれから嫁ちゃんは後宮の実態を世間に公表した。
頭おかしい麻呂の痴態を一般に公開したのである。
自分が近親相姦で生まれたことまで公開しちゃったのである……。
「自分を卑下するつもりはない。なぜなら妾は宇宙一のいい女じゃからの!!! カーッカッカッカ!!!」
さすがユニバ一のいい女である。
「それに親のことなんぞ妾がコントロールできることではないしの。知らんわそんなこと!!! いま卵投げつけたヤツの顔は撮影したがな!」
実はかなりキレてらっしゃる。
タブー中のタブーを公開した影響はモロに出た。
まずは麻呂をぶち殺したサイラス義兄さんを讃える世論が起こり、謎の皇室排除団体が発生。
レオ・カミシロを新しい皇帝にとかクソみたいなことを言ってやがる。
少佐すら能力的に難しい俺に皇帝なんぞできるとでも?
せめて大学出てからにして!
さらに女性世論は【後宮とヴェロニカ皇女を救え!】が多数派になった。
俺との結婚もなしにしろって意見も一部存在する。
【強制的に離婚させられたら自由意志でそなたと結婚してやる】って言われたので一安心。
影響を受けたのがウォルターだ。
急速に支持が離れている。
だって誰が見たって素直に気持ち悪いもん。
麻呂路線の継承は。
トマス義兄さんと嫁ちゃんの支持率は上がってるが、卵ぶつけるアホはどこにでもいる。
国を倒したいタイプのアホである。
こういうタイプのアホは人類の絶滅まで団結できねえんじゃねえかな?
それやったらゾークに喰われて終わるのにね。
相手、人間に理解できる理由で侵略してきたわけじゃないのに。
どんだけ気にくわなくても戦えてるのは国のシステムじゃい!
しかも同時に俺の排除運動も行われてる。
平和に解決できないのは俺みたいなのがいるせいなんだって!
死ね!!!
前線で使いつぶしてやるから軍に来い!!!
さて……先ほどからイライラしてるので俺たちが不利になってるかというとそんなことはない。
例えば俺の排除運動をしてる団体。
徹底的に洗ってみたらアレクシアの関連組織から支援受けてやんの。
数多くいるスポンサーの一人みたいだが、こうやって工作してるんだなと。
ずいぶん人間を理解してるじゃないか。
……いやこれは人間のしわざだな。
非論理的すぎるもん。
俺たちのイライラと引き替えにこうやって情報が集まってくるわけである。
むかつくわー。
ホントむかつくわー。
後宮の女性たちは俺たちがいるホテルグループの別のホテルに移った。
海沿いの守りやすいところだ。
そこで連日メディアのインタビューを受けている。
メディアは被害者として報道してる。
なぜかそれを救ったのが俺ということになってる。
サイラス義兄さんだと思うけどね。
麻呂殺したのもサイラス義兄さんだし。
俺、なんもしてないし。
俺は嫁ちゃんの代わりにやってくれたと思ってて、大きな借りがあると思ってる。
麻呂の死がプラスに働いて世論の大半は嫁ちゃん支持。
トマスが次点。
麻呂路線最後の継承者ウォルターは人気急落である。
汚物扱いの麻呂が一番人気落としたんだけどね。
宮殿に毎日花火が投げ込まれるレベル。
仮にこの状態でウォルターが皇位継承しても長生きできねえだろとは思う。
ウォルター本人はそんなこと思ってないだろうけど。
問題はアレクシアだ。
こんだけ表面上有利な状況作ってやって動かないはずないですよねー。ニヤニヤ。
普通のアホも間引きできて一石二鳥っと。
欠点はひたすらムカつくことくらいだろう。
ホテルに到着。
俺たちが毎日なにしてるかというと、敵をあおってる。
お外に出て、国の適当な施設に行き、トマスや軍の高官と会って会食。
ただこれだけで敵対勢力がイライラしまくってる。
へいへーい!
売国奴くん見てるー!!!
お前の大切な日常ちゃんにいまからすごいことするから~!
はいダブルピース!
アレクシアもそろそろボロ出すんじゃないかな。
そうそう、妖精さんの件だ。
妖精さんは皇女ルナである事を認め、自分がマザーAIの本体であることを打ち明けた。
お外に出た時点でマザーAIと同期したんだって。
AK●RA状態の体のパーツは研究用の予備があった。
保存状態が良好なため、そこから体を修復中である。
ここから新しい体に乗り換えられるかは研究中である。
世間には皇女ルナがまだ生きてることは伏せてる。
とりあえず身分回復と国葬が執り行った。
新しく皇女ルナを供養する寺院が建立される予定だ。
ほぼほぼ神様扱いである……マザーAIだし実質神なのか……?
「新作ゲームが戦争のために延期……」
当の本人である妖精さんは人の拡張現実でうなだれていた。
楽しみにしてた対戦型戦争FPSが発売延期になったのだ。
「クリエイターは徴兵しないって約束してたじゃないですか!」
「してないよ。みんな志願兵」
「なんて……こと……だ……」
民間の人もちょっと勇敢になりすぎてる感はある。
これがジェスター(賢者)のパッシブスキルか……。
考えていると妖精さんが変な声を出す。
「あれ……? アレクシアに動きがありました」
「うっわー露骨」
ノコノコ出てきやがった。
俺を誘い出すつもりって言われても納得するぞ。
「どこに向かってるの?」
「それが……行き先国立公園ですね……」
「なんでよ……」
「さあ? 意味があるのかも? ……んー。調べたら大昔に橋本家の屋敷があったそうです。相続税の物納で国立公園になったとか。ほら、帝都にある財産には相続税かかりますんで」
手放した理由が生々しい。
それにしてもなに考えてるんだろう?
「まさか地下にリニアブレイザー隠してたりして……」
「ヴェロニカちゃん! 聞いた!?」
「ああ、監視要員を派遣する」
「いやただの冗談」
「レオくんの場合、冗談じゃすまないでしょ!!!」
「いやホント、ただの軽口……」
「婿殿は自分の能力を過小評価しすぎじゃ!!! 全力監視じゃ!」
うわあああああああん!
誰も信じてくれないよ!
マジで冗談なんだって!




