第十三話
メリッサの機体にゾークの爪が突き刺さった。
メリッサの機体が音を立てて倒れた。
とっさに男子が助けようとするが他のゾークに邪魔される。
メリッサは手で這って逃げようとするがその背中にゾークの爪が突き刺さった。
メリッサはもがくが動けない。
「来たぞ!!! ガキども!!!」
近衛のおっさんたちが到着した。
練習機で戦鎚を振り回す。
だが多勢に無勢。
メリッサの所までたどり着けない。
「メリッサを助けろ!!!」
歩兵班も銃で支援する。
クレアと俺はようやく機体に乗り込んだ。
「婿殿! スナイパーライフルがその辺に転がってるはずじゃ!」
ガレージの壁にライフルがかけてあった。
誰も使えなかったんですね!!!
スナイパーって専門職ですもんね!
入隊してからがっつり訓練するやつですもんね!!!
「婿殿なら使いこなせるはずだ」
嫁の期待はうれしい……だけど……。
嫁ぇ! これスナイパーじゃねえ!
対物ライフルや!!!
でも道具を選んでる余裕はない。
俺は外に出ると二脚のバイポッドを立ててうつ伏せになる。
「クレア! 照準は!?」
「こっちで補正できる! メインカメラに切り替えて……補正プログラムをコンソールから直接……」
やはり砲手の方で補正できるようだ。
俺はメインカメラでメリッサの機体に爪を立ててるゾークを狙う。
「補正完了! 撃って!」
クレアの合図と同時に引き金を引く。
ゾークの胴体が吹き飛んだ。
奥のゾークまでも粉々になる。
メリッサの機体もヒビが入ったがもう動かないから……いいか?
……なんだこの威力。
「婿殿! それは古い基地にあった銃じゃ! 現在の法律だと条約で禁止されてるやつじゃぞ! どうだ!」
えぐい威力じゃい!!!
こんなものバカスカ使ってた500年前の人類って、どんだけバーサーカーだったんだよ!
「なんだ今のは!? 機体が停止したぞ!」
メリッサから通信が入る。
「ごめーん。ライフル撃ったらこうなっちゃった」
「ふざけんな! ここは俺が格好良く散るところだろ!」
「るっせ、俺はお約束は、絶対に、回避してくれるわ!」
俺は突撃した。
頼むぜジェスター。
すべてを黒歴史に。
笑いごとで終わらせてくれ。
ゾークが見えた。
俺は飛び上がりその顔に肘を落とす。
硬い!
新種か!?
ゾークが俺に向かって爪を振りかざす。
俺は徒手の授業どおり、肩越しに攻撃を見ながら通り過ぎる爪の下をくぐる。
隙ができた!
ナックルでぶん殴る。
そのまま回転しながら地面に手をつき、蹴りを放つ。
ガツッと音がしてゾークがノックバックした。
俺はそのままチェーンソーを取り出し斬りかかる。
やはり硬い!!!
回転刃が跳ね上がった。
「クソ! 斬れない!」
「婿殿使え!!!」
近衛のおっさんの人型重機が何かを投げてきた。
それはスレッジハンマーだった。
「オラアアアアアアアアアァッ!!!」
俺はそれをキャッチするとゾークにぶちかました。
バンッと衝撃アシスト用の火薬が爆ぜた。
火薬のにおいが運転席にまで漂ってくる。
だが火薬の煙を裂いて爪が接近して来るのが見えた。
「うおおおおおおおおおおお!」
クレアが砲台を撃つ。
敵を引きつけた攻撃だった。
だというのに相手は引かなかった。
俺の頭の中に走馬灯が……って気が早いだろが!!!
「クレア! 舌噛むなよ!!!」
俺は爪をつかんだ。
だが押し返したりしない。
俺は後ろに倒れた。
ただゾークの体に足をくっつけていた。
そのまま足でゾークを持ち上げ、後ろに投げ飛ばす。
巴投げ……のような何かだ。
決まるとは思わなかった。
俺はそのままでんぐり返しして起き上がる。
なお、この動きだけですでに吐きそうだ。
ぐらぐらする頭を振り絞って飛び上がる。
狙いはゾーク。
「死ねええええええええ!!!」
両足でのストンピングがゾークを踏み潰した。
ぶちぶちと甲羅が割れる音がした。
「もういっちょ!」
「おええええええええええええッ!!!」
クレアが吐いた。
ごめんね!!!
ぐちゃっと湿った音がした。
ゾークは潰れていた。
近くにいたゾークどもがそれを見て距離を取る。
「死にてえやつからかかって来いや!!!」
俺が怒鳴るとゾークどもが地中に潜る。
勝った……のか……。
俺は安堵した。
安堵してしまった。
次の瞬間、喉に胃の中のものがせり上がってきた。
「うげえええええええええええええええッ!!!」
マーライオン。
そしてさらに次の瞬間、俺に薬の副作用が襲いかかる。
「ま!!!」
意識が暗転していく。
「む、婿殿!!! 生きてるか!?」
「おいレオ! 生きてるか!!! 顔が紫になってる!!!」
「まずい! 吐瀉物がつまってる!!!」
「どういう意味!?」
「ゲロつまらせて息ができなくなってる! 吐かせろ!!!」
何度が叩かれた。
さらに背中から抱えられる。
体の中からぶしゃーっと音がした。
「よし出たぞ!!!」
げぶ!!!
ここで完全に意識がぶっちぎれた。
気がついたら医務室にいた。
嫁が心配そうに見ていた。
「クレアは?」
「婿殿よりは軽傷じゃ!!! 婿殿!!! 禁止薬物を使ったな!?」
「これでも学年首席なもので。いざってときに使うことになってんのよ」
「死んだらどうするのじゃ!!! 妾を未亡人にするつもりか!!!」
嫁がべしべし叩いてきた。
「……ごめん」
「……次はないぞ!」
「えっと……次やったら?」
「熱した針金を婿殿の玉に突き刺して……」
「怖い! やめてー!!!」
聞いただけなのに本日一番痛いのは気のせいだろうか?
「お、来たな」
「お、おう。生きてるか?」
メリッサがやってきた。
松葉杖をついていた。
「これか? ライフルのせいじゃねえぞ。練習機の足折れたときに座席にぶつけたら骨折れちまってよ。ドローンで修復してるけど明日まで杖使えってさ」
「おとなしく休んでろって」
「ばーか。そりゃレオも同じだろ。おう、それで、姫さん。俺に何か用があるって」
「うむ」
嫁がシャキーンと出したのはメイク道具だった。
「いやな。婿殿の好みに疑問があってのー。ちょっと顔いじらせろ」
「嫁ちゃん嫁ちゃん、メイクなんてできるの?」
「婿殿は妾をなんだと思ってる。妾は宇宙一のいい女じゃぞ」
そう言いながら手早くメイクしていく。
「ふむ……やはり……」
完成したのはモデル級の美女だった。
「お、おう……俺……化けたな……」
自分で言うのヤメや!
「これで確信した。婿殿……お主はとんでもない女好きじゃ!!!」
「な、なんだってー!!! でも嫁ちゃんだいじにするって心に決めてるしー!!!」
「あのな婿殿はな。首都星の大学進学したら、いきなりきれいになって気がついたら結婚してて僕の方が先に好きだったのにーってなるタイプの美女が好きなのじゃ」
「なにその具体的な地獄!!!」
「うわあああああーん! 婿殿がNTR専用ヤンキーだったのじゃー!!!」
「今までの人生の中で最大の名誉毀損!?」
「おーよしよし。レオはひどいやつだなー」
「メリッサまで!!!」
ひどい!!!
さてその後の話をしよう。
ゾークの撤退と共に通信が回復。
救助もすぐに来てくれた。
俺の戦闘からのゲロ吐き&救助映像は銀河各地に……というか銀河最大の動画共有サイトにアップロードされていた。
嫁による奮起の演説と共に。
要するに「学生が命賭けて戦ってるんだ! お前らも武装蜂起しやがれ!!!」ってやつだ。
当然、俺の姿はありとあらゆる政治利用をされ倒したわけである。
ゲロ映像とともに……。
黒歴史ゲット。