第百二十九話
朝、あれほど痛んだ肩も修復。
襲撃もなく退院である。
痛すぎてニュースを確認してなかったけど、世間では大騒ぎになってるらしい。
嫁ちゃんの下についてる人なら【俺が死にかけるのは通常営業】ってみんな知ってるんだけど、帝国市民は戦闘エアプ勢なので知らなかったようだ。
もうね【帝国は滅びる!!!】とか【帝国軍崩壊の危機か!!!】とか【英雄をむざむざ暗殺させるつもりか! この売国奴!】とか帝国批判を通り越してパニックになってる。
ちょうど避難生活の鬱憤がたまったタイミングだったのか各地で暴動に発展。
これは予想されてた展開だからしかたない。
とりあえず犯罪者は逮捕。
市民との話し合いでなんとか鎮火したいと帝国は思っているそうだ。
斜め上の展開としては宇宙海兵隊のオフィスに従軍希望者が殺到。
人材の底辺は勢いだけでやってきたヤンキー、上流は元下士官が多数応募。
慰霊式での襲撃&俺の暗殺未遂で帝国民の地雷を踏んだ模様。
宗教的タブーだもんね。そりゃ怒るわ。
覚悟ゴリゴリに極めたゾーク絶対殺す勢が大量参戦することになった。
これで下士官不足も解消されるだろう。
病院から出るとマスコミが押し寄せる。
なんじゃこの人の群れ!!!
マスコミは仕事として、暇な物見遊山勢が大量にいやがる!!!
「レオ・カミシロ大尉! なにかコメントを!」
マイクで頬をグリグリされる。
ちょ、らめ! らめええええええ!
近衛隊が引き剥がそうとするけど人が多すぎる。
警察も必死に割って入るが集まった人の数が多すぎる。
将棋倒しが起きても不思議じゃないほど人がいる。
マスコミももはやマイクをどこに向けてるかわかってないようだ。
頬をグリグリしてたマイクが今度は胸に。
乳首ドリルやめい!!!
人混みをかき分けてなんとか車に乗り込む。
俺、犯罪者じゃねえぞ!!!
なにこの仕打ち!!!
「なんでこうなった……」
車内で息を整える。
嫁ちゃんもぜえぜえ息を切らしてた。
「む、婿殿、け、警察の人手が足りぬらしい……」
「かなり死んだって聞くもんね」
警察も人手不足のようだ。
「暇な市民から一時雇いすればいいんじゃないかな?」
もともと徴兵で大学院生を警察に配備するくらい人手は足りてないのだ。
交通整理の人員くらい増やしても問題ないだろう。
「軍に命じておく。たぶん誰か優秀なのがもう計画を進めてる段階だとは思うがな……」
車でホテルに送ってもらう。
こっちは警察がガチガチに固めてたのでスムーズに入れた。
ただ病院からホテルに帰ってくるだけでこの有様である。
ホテルに入ると士官学校のみんなが出迎えてくれた。
男子の一人が声を張り上げた。
「ただ式典出ただけで死にかけた英雄殿に敬礼!」
「喧嘩売ってんのか?」
なお当方に喧嘩を買う気力なし。
体は元気なんだけど、精神が疲弊してる。
精神のマジックポイント的なものがゴリゴリ削れてる。
たぶん常時発動のヒールのせいだと思う。
「だってよお前の場合、心配しても死にゲーかなって勢いで死にかけるじゃん! 命をだいじにしないお前が悪い!」
「ぐぬぬ! 言い返せねえ!」
助けを求めて視線を移動させるがこういうときに頼りになるメリッサはいない。
レンに視線を移す。
「ごめんね」
あ、はい。詰んだ。
嫁ちゃんを見ると【助けてもらおうと思うなよ!】と明らかに怒ってる。
なので話を変えてやりすごそうと思う。
「メリッサは? そろそろ到着してもいいんじゃない?」
「婿殿、メリッサは宇宙港で止められてるとのことじゃ」
遠征の船が詰まってる。
数日かかるかもしれない。
「しょうがないよね……」
帝都襲撃による人材不足でオペレーション能力が低下してるのだ。
本当に俺たちにはどうにもできない。
もはや権力で解決できる範囲ではないのだ。
軍船だからって言っても、つっかえてる船も軍のだしね。
レオ・カミシロの女枠ならワンチャンあるだろうけど、それは絶対にやらないように嫁に言われてる。
どこからでもスキャンダルにできる妖怪みたいなのがメディアには存在するのだ。
昼飯にカツカレー頼んだだけでスキャンダルにした妖怪がいるんだって!
たぶんハンバーグカレー派に違いない。
……お腹すいた。
レストランでハンバーグカレー食べようかな。高いけど。
本当は出てすぐ近くにあるチェーン店のが食べたいんだけど、外に出られないからお預け。きゃいん!
「くーん、くーん、嫁ちゃん、ぼくお腹すいたワン!」
「レストラン行くぞ……」
レストランは営業してて自由に使える。
通常ならレストランだけ利用する外のお客さんもいるんだけど、今回は外への出入り口は封鎖済み。
夜はここでバイキング形式で食事が提供される。
俺たちは飢えた10代が中心なのでホテルも量を確保してくれてる。
さすが一流……。
で、昼間はなんとなく営業。
嫁ちゃんが会合に使うからね。
男子も女子も「最初からいましたよ?」的な雰囲気を出して席に座る。
「皆の衆! 好きなものを頼め! 妾の経費で落としてやる!」
嫁の声が少しヤケになってた。
ニーナさんやレンは俺と同じ席に座る。
俺はハンバーグカレー。
「あのねレオくん、パフェ美味しいよ」
ニーナさん……食べたいんですね。
そういうところ大好きです。
「ハンバーグカレーとパフェ二つ。レンはなにする?」
完全に口がハンバーグカレーになってしまった。
ハンバーグカレーだけは死守する。
「お肉欲しいです!」
「ステーキセットにパフェつけて」
欲望に忠実なのかわいい。
「嫁ちゃんは?」
「小倉あんトーストセットじゃ」
「パフェは?」
ニーナさんの目は【カロリーからの逃亡は許さない】と語っていた。
とてつもない圧だ。
「い、いちごのを頼むのじゃ……」
ニーナさん……恐ろしい子。
このくらいゆるーい生活が続けばいいなと思うのよ。
本気で。
ってまったりした瞬間、声が聞こえてきた。
「レオ・カミシロ万歳!!!」
ふぁ?
「護国の戦士! レオ・カミシロ帰還おめでとうございます!!!」
ほえ?
「帝国の救世主レオ・カミシロの快気を願い万歳三唱!」
「万歳! 万歳! 万歳!」
やめれ!
ダミ声の万歳がここまで聞こえてくる。
「婿殿もすっかり有名人じゃな」
「なにが起きてるの?」
「虎の威を借る……要するに政治利用じゃ。寄付でも集めようとしてるのじゃろ」
「俺にメリットは?」
「ない。迷惑じゃ。抗議しておく」
まだゾークと戦う方が楽な件。




