第百二十七話
「裏帳簿なんぞさっさと出せばいいのに」
そうつぶやくと嫁ちゃんが答えた。
「領民虐殺を回避する保険のつもりだったのじゃろ。証拠を集めてたってことは橋本はとっくのとうに家臣からも切られていたのじゃろうな」
「俺も気をつけよう」
「婿殿は軍人じゃ。内政への期待値が低いから大丈夫じゃ」
ひどくね?
俺だってNAISEIできるよ!
信じて!
たぶんできるから!!!
次の日、戦没者追悼式に向かう。
帝国と軍の一大イベントだ。
士官学校の連中は原則的に参加。
子爵領にいるメリッサだけ免除だ。
当初、ウォルターから【帝国貴族全員参加】というアホな提案がされたが、【現在の帝国宇宙港にはそれだけの収容能力がありません!】で却下になった。
軍の施設まで入れてすべての宇宙港総動員しても無理だって。
それに領地攻め込まれた貴族はそれどころじゃねえっての。
まだ戦闘中のとこだって多いんだから!
人の心なさすぎだろが!!!
ほんとウォルターくんって空気の読めない子ね!
こういうとこが忠誠心に影響するんだからね!
そういう意味ではお気持ちの読み合いが常に発生する後宮育ちの嫁ちゃんはこういうのが得意だ。
俺は儀礼用の軍服があるからいいけど、嫁ちゃんはちゃんとそれに合わせた服装にしてるもんね。
式典は帝国所有のイベントスペースがある広い公園で行われた。
ニーナさんとレンは領主の代理出席。領主席に座っているのが見えた。
俺たち夫婦は軍のお偉いさんがたくさんいるあたりである。
やーい。俺だけ場違い。
でもイヤミの一つもなかった。
むしろそこに座るのは当然であるという空気であった。
式典が始まった。
お坊さんが祈りを捧げる。
帝国の宗教は制作陣がめんどうだったのか、仏教に日本にある宗教をちゃんぽんにしたものだ。
スペースオペラ時代の宗教って感じではある。
なんか法衣がゲーミングカラーで光ってるし。
逆に言うと本物の仏教もよく知らんので、それくらいしかツッコミどころがない。
お経をあげ終わるとトマスによるスピーチがはじまる。
なぜかこういうスピーチって頭を素通りするよね。
ぜんぜん入ってこない。
とりあえず【彼らの犠牲によって俺たちは勝利した! 帝国万歳!】っというまとめで間違ってない。
式が終わるとホテルで懇談会。
軍の幹部が集まってるので今後の話をする予定だ。
ウォルターの仲良し会とは違ってガチの会議だ。
ホテルに移動するために会場を出ようとした。
帰り際、ウォルターの横にアレクシアを確認する。
ウォルターとアレクシアはTPOをわきまえない喪服にはとても見えない黒いだけの服を着ていた。
悪目立ちしていた。
ただこれに関しちゃ本人の責任ってよりは周りの連中が止めなかったのが悪い。
文官派閥もまともな人材が残ってないのかもしれない。
その点、軍閥は楽だ。
おしゃれはできないけど軍の儀礼服さえ着用すれば許される。
で、その変な二人を横目で見つつ俺と嫁ちゃんは移動する。
一瞬アレクシアと目が合った。
ぞわっと背筋が凍る。
俺は嫁ちゃんの頭を手で下げて自分は盾になる。
一つはただの弾丸。
軍の銃より弾速が遅い。
ハンドメイドか?
こいつはよけるまでもなく俺たちが座っていたあたりのベニアの床に突き刺さった。
だけどもう一つが問題だった。
音はなかった。
だけど悪意だけはわかった。
この瞬間になって人々が最初の弾丸の音に気づいた。
「婿殿!」
「頭下げてろ!」
次の瞬間、俺になにかが刺さった。
は!
クソが!
それは棘だった。
ゾークの固い殻で作った棘が俺の肩に突き刺さった。
「大尉!!!」
俺の横にいた准将のおっさんが動いた。
さすが軍の偉い人。
俺を引きずり倒し覆い被る。
ドシュッと音がした。
准将の背中に棘が突き刺さっていた。
シークレットサービスは少しだけ遅れた。
准将が俺たちをかばってから遅れてやって来た。
だが嫌な予感がする。
「く、来るな!!!」
俺は声を振り絞った。
だけどその声は届かなかった。
4人いたシークレットサービスの隊員が細切れになった。
俺には攻撃の軌道が見えなかった。
あちこちから悲鳴が上がり、大量の警察がやってくるのが見えた。
どこだ!
どこにいやがる!
アレクシアじゃない!
襲撃者は別にいる!
俺はヒューマさんに言われたとおりシールドを起動した。
それだけじゃ死ぬかもしれない。
なんか良い手はないか!?
そうだ!
俺はスローを周りに発動した。
敵を遅くする超能力だ。
それを防御に使った。
そいつは正解だった。
襲撃者の棘は俺のすぐ近くまで飛んでくると急に遅くなる。
俺はサイコキネシス、念動力で投げ返した。
棘がなにかに突き刺さった。
人型の存在が現われる。
光学迷彩か!
賢者に覚醒してなかったら死んでたぞ!!!
俺は肩に突き刺さってる棘を引っこ抜いてサイコキネシスで投擲する。
命中!
敵の胸に突き刺さった。
俺はシークレットサービスの遺体の方に手をかざした。
「来い!」
シークレットサービスの拳銃が手に収まった。
俺は銃を撃つ。
実弾が襲撃者の頭に命中し、敵は沈黙した。
「嫁ちゃん、無事か!?」
「ああ、無事じゃ……」
やってきた警察が拳銃を構えながら襲撃者に近づく。
「じょ、女性だ! 救急を呼べ!」
警察が叫ぶのが聞こえた。
「准将が負傷しました!」
俺が怒鳴ると警察や軍のおっさんたちに取り囲まれる。
「おい止血するぞスコット! てめえも死ぬんじゃねえ! 死んだら許さねえからな!!!」
偉い人、たぶん少将が怒鳴った。
別のおっさんにも怒鳴られる。
「おい、レオ! 殿下を安全な場所まで逃がせ! ここは俺たちにまかせろ! てめえはこの戦争の切り札だ。死ぬんじゃねえぞ!」
緊急時だ。
荒々しい言葉遣いだ。
でも気にならなかった。
「行くぞ!」
俺は嫁ちゃんの手を引いて外を目指す。
すぐに俺たちを助けにきたピゲットたち近衛隊と合流できた。
ピゲットたちは俺の表情を見て驚愕してた。
鬼の表情をしていたからだ。
さすがに今回だけは許さねえ。
ふざけやがって!!!




