第百二十三話
帝都に帰還。
なぜか完全敗北からトマスを救っただけなのに大勝利と報道されていた。
やだ怖い。
なんでもゾークと手を結んだ橋本家のトマス暗殺の陰謀を死地に赴き退け、橋本一派を滅ぼしたらしい。
つまり大勝利!
遠征軍の半分が死んだけど、損害のほとんどは橋本派だから大勝利!
表面を都合のいいようにすくってみるとこうなるのか……。
戦時プロパガンダの極意を見たような気がする。
捕まった橋本派の公爵を護送する車なんてゴミ投げられてたからな……。
一方、俺たちは【護国の英雄部隊ヘルハウンド】だって。
はっはっは。ご冗談を。
やれ【地獄の猟犬】だの【地獄から最強部隊】だの好き放題言われてる。
各社勝手に名前をつけてやがるの。
そこで問題になったのが俺の論功なのである。
トマスと嫁ちゃんは俺に【公爵位と橋本家の領地、少佐への昇進、帝国軍金獅子勲章、その副賞などの授与】を提案した。
それに猛反対したのがウォルターである。
がんばれウォルター!
少佐昇進を阻んでくれ!
少佐になんてなったら俺が死ぬ!!!
ウォルターのおかげで俺の少佐昇進は見送りになった。
橋本家の領地も3割を俺と嫁ちゃんに、もう3割をメリッサの実家に、さらに3割をレンの実家に。
残った分をサイラス義兄さんことシャーアンバー男爵とリリィ、それに大野のおっさんで分けることになった。
ピゲットに分け前欲しいか聞いたら断られたそうである。
橋本家の領地には20個くらいの惑星があったから惑星5つ持ちか……え? 余ったのも引き取れ!? 7個!?
レンの実家だって惑星一個だけなのに!
実家入れたら8個も惑星持ってる大公爵の誕生である。
いや無理ッス。
どう考えても俺に統治できるはずがない。
コネもまかせられる家臣もいない。
方々に泣きつくしかない!
あ……そうか俺たちの派閥に能力を超えた仕事を押しつけて身動きできなくする作戦か!?
そして人材を送るって名目でゆっくり派閥の切り崩し工作をすると。
ウォルター……なぜその有能さを対ゾークに使わない!!!
一周まわってアホなのかな!!!
帝国滅びるぞ!!!
とりあえず嫁ちゃんに泣きつこう!
「お嫁ちゃああああああああああああん!」
「おう婿殿いいところに来たな」
前に泊まったホテルである。
スイートルームに突撃した。
「ウォルターが悪いんだよー!!!」
「わかっておる。切り崩し工作などさせぬ」
「どうやって?」
「マザーAIじゃ。妖精さんが手伝ってくれることになった」
「……どうやって?」
「うむ、あやつが対戦ゲームでチート使ってるやつを特定して遊んでたらな、現役の文官や貴族、その子女どもが多数引っかかっての。そやつらを調べたら別の事件の証拠が芋づる式に出てきたそうじゃ」
「うわーお」
「文官がいなくなっては妾も困るからの。追求しない代わりにウォルターを裏切らない程度のお願いをしたというわけじゃ」
脅迫ですね。
チビリそうです。
「というわけでの、代官には困らなくなったぞ。マザーAIが監視してくれるから裏切ったらすぐに切ればいい」
というわけで式典までだらだら過ごすことになった。
帝都は異常なほどの速度で復興が進んでいる。
これは民間人の人的被害が少なかったのが大きいだろう。
ゾークは雑な分析により軍人や中央官僚を潰せば勝利できると考えたようだ。
民間人は働き蟻みたいなものとでも思ってやがったのか?
というわけで全力復興中のため遊ぶところも少ない。
建設作業員のための飲み屋とえっちなお姉さんのお店は大量にできたんだけど。
学生が遊ぶところはないのである。
なので俺たちの娯楽は少ない。
そこに降りかかるのは外出禁止令。
今や士官学校のメンバーは個人情報が出回るレベルの有名人である。
もはや外出もままならなくなってしまった。
ホテルのスポーツジムで運動してると男子どもがやって来た。
「まーた会ったこともねえ親戚だよ! ご機嫌うかがいだってよ! まったく、【うちの娘はどうでしょうかね?】じゃねえよ!」
士官学校の生徒には面会が殺到してる。
俺も含めて親戚が増えまくってる状態だ。
最初のころは【俺、モテ期きちゃった?】と喜んでた男子も今ではブチ切れてる。
どう考えても政略結婚、しかも嫁ちゃんの紹介の方がはるかに有利な条件であることに気づいてしまったのだ。
だって俺たち男子はみそっかすの次男三男……。
長男のスペアでしかない。
しかも貴族の男子は分家出身が多数。
主家の姫の奴隷状態だった男子も多い。
話を聞くと犯罪スレスレの虐待を受けていた様子がうかがえる。
過剰な女性への憧れも悪魔のような存在を知っているからだろう。
トラウマの原因たる悪魔みたいな女を嫁にと言われて喜ぶやつは少ないだろう。
実際、数人がPTSD的な症状を発症した。
野郎だからと放っておかれたようである。
男子どもが彼女欲しいと叫びながら、うっすら女性嫌いな原因がわかったような気がする。
キミら……以外に繊細だよね?
「あ、大尉! 聞いてくださいよ!」
大野の娘である京子と女子がやって来た。
「どうしたん?」
「知らない親戚がやって来て、【レオ・カミシロの愛人になれ】って言うんですよ! ねー、みんな!」
別の女子もプリプリ怒る。
「ねー! レオくん! 私も言われたんだよ!」
「うちも言われた!」
「もう! どうすればいいと思う!?」
俺に言われても困る。
「嫁ちゃんに言っておくわ」
秘技、嫁ちゃんに丸投げの術。
俺の愛人はともかく余計な口出しをする親戚は邪魔だ。
思いつきで適当なこと言ってるだけならいいんだけど……。
知らずにゾーク側の工作員になってるパターンがあるからな。
公爵会と関係あったら即座に排除で。
スポーツジムで運動すると嫁ちゃんに呼び止められる。
「婿殿ここにいたか。行くぞ」
「え? どこに?」
「ウォルター主催の晩餐会じゃ。つい先ほど招待があった」
「そういうのって余裕を持って招待すんじゃないの?」
「戦争帰りの疲れた姿を笑いものにするつもりなんじゃろ?」
せ、性格悪ッ!!!
俺の中でウォルターは【夏休みになると学校やめてるクラスの嫌われ者説】が濃厚になった。
レオちゃん知ってる!
そういうの逆効果って言うんだよ。




