第百十四話
メリッサは里帰り&子爵領に行った兵士の管理業務。
嫁ちゃんは男子の婿入り先と書いて売却先の交渉。
俺は泣きながら海賊領のコロニーで書類を書く日々が続く。
つうかね、兵力一万を超過したあたりから移動だけで死ぬほどアクシデントが起こるようになった。
機器の故障は日常茶飯事。
動かなくなった戦闘機に動かなくなった船。
海賊領のキッチンも壊れまくり、さらにトイレも詰まる。
俺が死にそうになってるとヒューマさんがコーヒーをくれた。
ヒューマしゃん!!!
「ま、一般兵が絡んでこれなら上出来ですよ」
「もしかして……士官学校の連中って優秀……なの?」
当たり前すぎて気がつかなかった。
トイレに紙の書類を流さない優秀さを。
一発でつまるんじゃ!!! ぶち殺すぞ!!!
「グレネードでお手玉したり銃口のぞき込まないだけで優秀中の優秀かと」
「帝国軍ってどんなレベルなのよ!?」
「そりゃ地方惑星の次男三男がメインですからねえ。学校も士官学校に入れないレベルッスよ。そんなんだから俺たち下士官が死ぬほどぶん殴るわけで」
サム兄をアホの子扱いするのやめよ。
世の中の底辺はもっとしゅげえ。
「大尉はがんばられてると思いますよ。その証拠にグレネード遊びの死亡事故が未だにゼロですし」
「はい?」
「エネルギーパックの中身揮発させて吸う遊びで死亡事故起きてませんし」
「はああああああいッ?」
「爆薬食べて入院もありませんしね」
「地獄ッスか?」
「今回の遠征は半分が徴兵です。しかも大学生は免除されてます。なんでほとんどが教育を受けてない18歳くらいのガキです。使える兵士にしろって方が無理ですよ。俺たち下士官にできるのは死ぬほど殴って足手まといにならないようにするくらいですね」
俺は戦争をなめてたらしい。
「俺も最初の戦場はそうでした。嫌な伍長がいましてね。怒鳴るわ殴るわで、照準なくしたときは雨の中見つかるまで部隊全員で探したり……とにかく理不尽の塊みたいな人でしてね。いつか殺してやろうと思ってたんですが……ある日、海賊相手の実戦出たら俺以外全滅ですわ。そしたら伍長のやつ大泣きしやがって。俺たちを死なせたくなくて厳しくしてたんだなって……ま、兵士の下の方はそんなもんですわ」
「ヒューマのアニキと呼ばせてもらってもいいっスか?」
「アニキって言ったら二度と協力しませんよ」
「へーい」
「とりあえず大尉、トイレの一件は俺にまかせてください。ぶちのめしときますんで」
「軍曹、助かります」
「下士官の生き残りがいます。彼らと連携してやりますわ。それと憲兵増やしてください」
「了解ッス。リリィのとこの領民に迷惑かけられないからね」
「いえ違います。ちゃんと取り締まらないと命の保障がねえんです。ここの連中はなめられたら命取るまで終わらせませんから」
「まあ! アグレッシブ!」
大急ぎで要望書を妖精さんに送る。
どうか死人が出ませんように。
「貴族はどうです?」
公爵どもは隔離している。
余計なことするからな。
「おとなしいもんですよ」
嫁ちゃんの暗殺でも企んだら殺すところだ。
計画では公爵会の大半は隠居してもらうことになってる。
皇族を殺しかかったのだから穏当だと思うけどね。
橋本の直接の子飼いは裁判後に処刑で家も断絶である。
これはしかたない。
もうどうにもできないし、俺も救う気がない。
さらにいくつかの公爵家は士官学校男子の実家である。
なら彼らには当主になってもらうしかない。(領民を人質に取りつつ)
なんか化け物みたいな派閥を作ってしまった感があるが責任取りたくねえな。
やだ憂鬱。
するとドーンとコロニーが揺れる。
建設の音だろう。もう慣れっこだ。
「うるさくてすまねえですね」
「建設中だからしかたないよ」
新しいコロニーは外壁はあるけど、中身の建設は年単位でかかる。
公共交通機関作ったり行政ビル作ったり。
学校も病院も作った。
前科持ちの医者や看護師を発掘した。
……いるもんだな。
帝都の会計専門学校のサテライト校も作った。
講義の映像教材で自主学習するやつ。
事務職募集中です。
今ならめっちゃ稼げますよ!
お願い! 来て!!!
というわけでもの凄い建設ラッシュなのである。
今も外で「ぱぱーん!」とトラックが発したクラクションの音がした。
……俺が通った場所ってみんな景気よくなってないか?
俺自身は破壊しか能がないのに。
「遠征の兵士と比べて海賊領ってインテリ多くない?」
「そりゃ今まで生き残った海賊ですから。これもお嬢の親父さんの器の大きさでしょうな」
そりゃそうか。
嫁ちゃんに目をつけられない程度にセーブできてる。
幹部が頭よくないと無理だよね。
うーん……リリィさん家臣込みで伯爵に推薦と。
こんな感じでいい話風に終わろうとしたのよ。
ところがね、これ戦争なのよ。
しかもコミュニケーションとれない相手との。
妖精さんから緊急連絡が入る。
「レオくん! 今すぐ逃げて! 公爵が変身した!」
すぐに監視カメラの映像が送られてくる。
公爵の一人、死刑判決が予定されてる公爵会の幹部の男だ。
「出せ!!! 儂を誰だと思ってる! 公爵会副会長の……」
最初はバカだなと思うが意味はわかった。
だけどだんだんと様子がおかしくなってくる。
「ダセ……ワシ……ハ……ダレ?」
ガンガンと壁に頭を打ち付けた。
兵士が入ってきて取り押さえる。
だけど次の瞬間、公爵が払った手で兵士の体が飛んだ。
兵士は壁にぶつかり意識を失った。
そして公爵は素手で扉を壊して悠然と外に出た。
……おう。
「ぽくお家に帰りゅ」
「大尉待てやコラ!」
ぴえーん。
まだ嫁ちゃんにコスプレしてもらってないよ~。
「メイド、サキュバス、スク水、勝利を知らんのか!?」
「大尉、慌てすぎてなに言ってるかわからねえッス!」
「ど畜生が!!!」
公爵どもさー。
無能なだけじゃなくてこんなおまけまでついてくるの!?
こうしておっさんと変態のコンビが結成されたのであった。




