第百十話
戦闘機で発進。
なにが怖いって即日発行された戦闘機の免許証が怖い。
たしかにこんなもん軍でしか乗らないけどさ。
軍を辞めて民間に就職したときも使えるのよ。
戦闘機の免許証。
民間船の護衛から民間船の船長まで。
……民間の方が給料よくないか?
考えるのやめとこ。
ほら、俺の場合、領地からの収入もあるし。
「こちらサイラス、ドローンオペレーターの準備完了」
「了解」
サイラス義兄さんの部隊はドローンオペレーターだ。
ほとんどAIでできるんだけど人間が補助した方が確実だ。
船から出てドローンのパラメーターを確認する。
オールグリーン。
問題なしっと。
ミサイルはたくさん。
作戦地点の映像がカメラに映る。
大量のカニがいた。
「あいつら遠距離武器あったっけ?」
疑問を口にするとカニがなにか撃つのが見えた。
プラズマキャノン!
人間の兵器を学習しやがった!
プラズマが戦闘機に命中。
爆発四散した。
「なんだあの戦闘機? 足が速いのに旋回性能が悪すぎる!」
するとクレアから通信が入る。
「レオ、妖精さんからデータが来た。あの戦闘機……レオの生体データを元に作られたみたい」
あ、嫌な予感。
「どういうこと?」
「えっと、パンフレットだと【ごく一般的な身体能力を持つレオ・カミシロのデータを学生の平均身体能力と定義して再構築した機体】……バカなのかな?」
「おおう……」
ジェスターの無駄に高い反射神経を一般に当てはめるのは……ちょっと……。
ケビンの胸を女子の平均として再定義したようなものである。
なんでそんなことした?
「なんでこんな無茶したんだろう? 政治的な必要性が生じたとか。レオがあまりにも活躍しすぎるから平均って言い張ることで【運がよかっただけ】ってことにしたいのか……どちらにせよ、レオの身体データを参考にしたんじゃ一般兵が操縦できるはずないよ。ビームを目で見てから避けるんだから」
直球で人間扱いされてない……だと。
「だったら一台かっぱらって来れば俺専用機になるってこと?」
「でも操作わからないでしょ?」
「そりゃそうか」
俺にすら必要とされてない。
まさに無駄の極みである。
現場を無視した地獄を見たところで作戦続行。
ゾークから距離をとって照準でロック。
妖精さんのサブシステムとドローンオペレーターがミサイルを撃つ。
カニもたまらずプラズマ砲を撃ってくるが、高速で動いてる的に当たるはずがない。
地味な作戦だが圧倒的に俺たちが有利だ。
ヒューマさんが言うとおり突撃するのがアホだったのだ。
でも仮にこの作戦が掃討戦だったら効率が悪すぎると批判されてただろう。
でも俺たちの目的はトマスの救出。
ついでにサブクエストで一般兵の逃亡も手助けするくらいか。
つまりカニなんて作戦進路上で邪魔なヤツだけどかせばいい。
トマスの船が後退してきた。
説得できたようだ。
安堵してたら妖精さんから通信が来た。
「レオくん、一般兵に撤退命令を出します」
「そんなのできるの?」
「へへーん、見ててください」
次の瞬間、マザーAIから【お知らせ】が来た。
大規模災害の前とかに来るやつ。
帝国民ならとりあえず目を通すやつ。
ここに書いてあることが最優先されるやつ!!!
【全軍撤退。命令に従わぬものへの拘束を許可する】
ああん!
妖精さん、とうとうマザーAIまでハッキングした!
「あ、ハッキングじゃないんで大丈夫ですよ」
「本当に?」
「ええ、だってマザーAIって私の複製ですし。もうかなり前にデータベース統合して管理権限私にありますし」
「はいいいいいいいいいぃ!?」
「つまりレオくんは世界を滅ぼす力を持ったんですよ~。どうします? 一緒に帝国滅ぼします?」
「え、やだ。今月の終わりに予約した新作ゲーム出るし。妖精さんもやるでしょ?」
「でーすーよーねー。レオくんのそういうとこ好き」
うーん。なんか知らないところで世界を救った……かも?
まあいいや。
「婿殿! 艦隊の半分が撤退開始。我らの勝利じゃ! 惑星館花と海賊領に戦力を分散する」
これは無駄に分けてるんじゃない。
単に惑星館花やその周辺、それに海賊領単体じゃこの艦隊を収容できないだけだ。
二つにわけてギリギリかな。
修理やらメンテナンスあるもんね。
「公爵どもは?」
「知らん。自己責任じゃ! 兵だけは助けたいがこちらにも限界がある、置いて行くしかない!」
今度はリリィから通信が入る。
「こちらリリィ艦隊! 兵の収容開始! 本当に残ってる艦隊は救助しなくていいんだな!?」
「かまわん! そんなことしてたら犠牲者が出る! さっさと回収して逃げるのじゃ! そういうの得意じゃろ!」
「そういうのすっげえ得意。野郎ども! 回収したらずらかるよ!!!」
兵が次々回収されていく。
俺たちはゾークを倒してそれをサポートする。
こいつは歴史に残る勝ち戦で負け戦と。
後の歴史で腫れ物扱いされそうな気がする。
最後に知らない人から全チャンネルで通信が入った。
「れ、レオ・カミシロー!!! ゆるさんぞ! この名ばかり侯爵の虫けらめが!!!」
【誰だっけ?】と思ってたら嫁ちゃんが解説してくれる。
「アルフォンス橋本公爵。公爵会会長じゃ」
「公爵会なにそれ?」
「公爵だけが真の貴族であると主張する利権団体じゃ。帝国の金を吸って生きる寄生虫の親玉と言えるじゃろな」
「なんでそんなの放置したの?」
「子分に仕事を振って食わせる能力だけはあったからの。帝国経済の一部を握ってたのは事実じゃ。ま、平時だから存在が許されてた団体じゃな」
「ヴェロニカ!!! この皇帝の慰み者が!!! 後宮生まれの豚が! この橋本家こそが帝国であるぞ!!!」
すると妖精さんの低い声を出す。
「なにが橋本だ……人の脊椎おもちゃにしただけのクズがよ! あたしの友だちになめた口きいてんじゃねえぞ!!!」
え? なに?
やだ怖い!
妖精さんキレるとこんなに怖いの!?
「物狂いか小娘……。どうせヴェロニカの侍女だろう! 聞けヴェロニカ! 貴様が皇帝になることはない! こうなったらウォルターの世を作ってくれる! トマス! 貴様は道連れだ!!!」
「いかん! 橋本のやつ、トマスの船に突撃するつもりだ!」
この期に及んで仲間の足を引っ張る。
本当にクソ無能だな!!!
バカなのかな!?
……バカなのか。
「嫁ちゃん! 俺が行く!」
野郎。
たかが公爵が調子にのりやがって!




