第百八話
教本を読みながらオペレーションを確認。
ふむふむ、ドローンでかく乱しながら突撃か。
俺にできるかな?
かといって中の作業は人足りてるからな。
一人納得してると青い顔した嫁とピゲットがやってきた。
「む、婿殿! 艦隊戦の経験がないってのは本当か!?」
「うん、だって艦隊戦は大学校で習うとこだし。俺たちは歴史的な戦術を多少習うくらい? あとシミュレーションはやった」
「最初に会ったとき艦長やってたではないか? 報告書に書いてあったぞ!」
「うん、学生だけで操船できるまでが目標だからね」
嫁がため息をついた。
ピゲットの顔がしわしわになってる。
なに?
なにかまずかったん?
「なんでもできるから艦隊戦の知識もあると思ってた……」
「ないよ。動画見てシミュレーションやっただけ?」
「人型じゃない方の戦闘機の経験は?」
「ないっすね」
「なぜ輸送機は操縦できるのじゃ!!!」
「ほら、輸送機安いじゃん。免許さえ取れば乗り回してもよかったんだよねー。200時間操縦するとベーシック章もらえるし。あれあると時給が100クレジット上がるのよ」
危険物取扱者取得してエネルギースタンドでバイトするのと同じだ。
時給100クレジットと言えども24時間拘束の士官学校では給料にかなり差がつく。
はっはっは。アホどもめ!
元手はかかるがボイラーと電気工事、溶接のブーストの方が大きいのだよ!!!
あとフォークリフトと作業用の人型重機もな!
たった一年で元を取れる計算だ。
「……特訓じゃ」
「え?」
「今から特訓じゃ!!!」
というわけで大学校の学生や院生まで加えて特訓が開始された。
「大学校の学生や院生は当然……できるな?」
嫁ちゃんがずーんと圧力をかけてくる。
あ、パイセンたちみんな顔を逸らした。
「殿下……それがしも感覚が狂っておりましたが、なんでもできる婿殿と級友たちがおかしいだけかと」
「危うく【なんのために大学校通ったのじゃ】と怒鳴るところであった……皆の衆すまぬ。悪いのは婿殿であるな」
「ねえねえ、なんで俺が悪いみたいになってるの?」
「なんでもできるからじゃ」
理不尽の極みである。
移動しながら艦隊戦の練習をすることになった。
大野地方貴族艦隊に海賊艦隊との共同作戦だ。
「普段は海賊を潰すための作戦なのじゃがの。海賊と共同戦線を張るとはな」
嫁が感慨深そうにしてる。
海賊でもリリィたちの悪行は通行料取ってたのと密輸してたくらいだ。
討伐するほどじゃない。
むしろアホをこじらせて強盗から殺人のコンボを決める連中を取り締まってたと言える。
だから実質的に領主軍である。
今まで嫁ちゃんは軍部から圧倒的に支持されてたけど、下級貴族からも支持を集めてる。
下級貴族の厳しい生活を見た嫁ちゃんは【下級貴族惑星のインフラ整備】を訴えてる。
これは子爵以下、伯爵でも半分は支持してる。
そんなわけで俺たちの引率はヒューマ軍曹である。
「ヒューマ先生! お願いします!!!」
元気にご挨拶。
「大尉やめてくれませんかね! マジで!!!」
「だって戦闘機実戦で使ったことないですし」
「素人同然の子どもが人型戦闘機で前線出て生き残ってるのがおかしいだけなんですけどね!!!」
この当たり前力。
最近周囲から失われてる力だ。
「皆さん、こいつはファイター型戦闘機【シャークトルネード】です。100年ほどマイナーチェンジしかしてない枯れた技術を集めた機体です……枯れたってのは工業の世界だとほめ言葉ですからね」
要するにこいつ一台あれば他はいらないってやつだ。
コアの技術はそのままで中の計算機やらOSやらセンサーを更新し続けてる。
「こいつの優れてるとこは圧倒的燃費の良さ、コストの安さ、汎用部品の多さです。要するに多少壊れてもすぐ修理できて、燃料切れで死ぬことが少なく、不具合も少なく……つまり非常に安全な機体です」
「軍曹、はい質問!」
「なんすか大尉」
「トマス殿下の艦隊は最新式持っていったらしいけど」
「カタログスペックだけで選んだんでしょう。現場は地獄ですね。俺なら脱走しますわ」
言いきった。
さすが現場からのたたき上げ。
「はい、前置きが長くなりましたが皆さんにはドローンとこいつで出撃してもらいます。作業的にはドローンオペレーターの補助ですね。地上だとスポッターに近いです。教本には【ドローンとともに突撃】と書いてありますが嘘です。安全圏でスポッターに徹するのが定石です。狙撃手の方じゃなくて補助者の方ね。いいですね。教本のファイルは削除してください」
「いいんすかそれで?」
「あのね、ドローンや戦闘機なんかより士官学校の候補生の命の方が高価なんですよ。金勘定は下士官の仕事じゃねえが、あんたらが生き残ってりゃ反撃のチャンスはあるってのはわかります。泥すすってでも生き残ると約束してください」
「はい!!!」
というわけで戦闘機で発進。
基本は輸送機と同じだ。
みんな上手である。
その中でもクレアは一番上手だ。
なお俺は【操縦できるけどー】レベルである。
他のみんなもそんなに変わらないと思うけどね。
「はい、小惑星にスポッティング」
スポッティングするとドローンがミサイルを撃つ。
なるほどね。
「レオ大尉! 近づきすぎだ!」
ヒューマさんに怒られた。
離脱が難しい。
「射程ギリギリで戦え!」
ついいつもの調子で近づいてしまった。
「いいか絶対にプラズマ砲の射程で戦うな。役に立たねえ」
「了解」
ヒューマのおっちゃんの口調が荒くなった。
うん、緊張がとれたかな。
みんなもドローンの補助に苦戦してるようだ。
「後ろを取られたらEMP閃光弾」
閃光弾っと。
バシュッと後部から閃光が見えた。
「一応解説したが今のセンサーの能力だと後ろに着かれた瞬間に死ぬ」
「意味なくないッスか?」
「だから敵の間合いに入るなと言ってるだろが」
ヒューマさんが宇宙海兵隊で雑に扱われてきたのが目に見えるようだった。
「はい、もう一度スポットしたら戻ってきてください」
よーしなんだか自信がついてきたぞ!!!
……嘘である。




