第百五話
すべてが終わった。
ボスゾークを倒すとゾークどもは撤退。
惑星に平和が戻った。
俺はというと報告書の山の整理に追われていた。
「ボルトスロワーの苦情っと。なになに……光が強すぎてカメラが白飛びする。装甲の表面が溶けた。電磁波でソフトウェアに異常が出た。センサーが死んだっと。……欠陥兵器だな」
妖精さんがグラフと表を作ってくれる。
「それでもビーム系みたいに効果ないよりはマシですね。耐火装甲加工に耐電磁波センサーにカメラの加工っと……はい、注文書作りました。はい署名お願いします」
「ふえぇ、妖精さんいなかったら大尉の仕事なんてできなかったよぉ~」
データ化された書類の山に電子署名をぽんぽん押していく。
「あらら、レオくん。研究所から昇進の推薦状が届いてますよ」
「もう無理ぃッ! 大学校でちゃんと基礎を学ばないと書類仕事無理だよぉ!」
いまでさえ発注書に武器の評価レポート、弾薬管理。
部下のトレーニングにシフト表を作るのが日課だ。
少佐になった日にはこれに建築やら土木やらに福利厚生やら軍人年金やら部下が借りた海兵隊ローンの書類ががががががが……。
(海兵隊ローンの方は家族が住んでる帝都の家が壊れたとかの正当性のあるものばかりだ。政府の補助金は支給まで時間がかかるようである)
昇進なんかしたら基礎知識が追いつかない。
しかもだ、軍の事務員が大量に殉職したため俺へ割り振られた仕事が増えているのだ。
大尉の今だって院生と妖精さんががんばってくれるからギリギリ回せてるだけである。
「おしゃー!!! 書類終わったぞ!!!」
忍法乱れ判子の術で書類を打ち倒した俺はインスタントラーメンを手に取る。
オデはらへった……。メシくう。
「ほら~。まーたそんなもの食べて」
タイミングよく来てくれたのはケビンである。
「ほら食べな」
食堂からご飯を持ってきてくれたようだ。
ハンバーグ定食……ありがてえ。
「どう、仕事終わった?」
「うわあああああああん! 少佐になんかなりたくねええええええええええッ!!!」
「あ、でもピゲットさん、近衛隊隊長に昇進して正式に大佐になるんだって」
「隊長は?」
「准将閣下に昇進。ヴェロニカ隊から中央トップ近くだって。どうやらトマス殿下の遠征うまくいってないみたい。佐とか尉の墓場だって」
「どこ情報!?」
「普通にニュースになってるよ。もうプロパガンダどころじゃなくなったみたい。ゾークに負けたら人類絶滅ってのまでオープンになってる」
「俺たちはどう報じられてる?」
「連戦連勝。護国の勇士だって」
「あほくさ! アルティメットあほくさ!!!」
今回は俺が怪我しなかっただけで子爵領は死屍累々。
テーマパークどころか子爵領の運営にすら支障が出てる。
ヘタすると惑星閉鎖すらありえる被害だ。
前の惑星シャーアンバーなんて惑星閉鎖が決定してしまった。
こんなん勝利したうちに入るかよ。
「メリッサの親父さんは?」
「肋骨が肺に刺さってたから外科的処置が必要だったみたいね。よく動けたよね……。来週には退院できるみたい」
メリッサの親父さんは化け物だと思う。
「メリッサは?」
「お兄さんたちとお父さんのお世話だって。三人ともよく生きてたなって怪我だもんね……」
陸人さんたちメリッサの兄ちゃんズは二人とも骨折多数。
よく生きてるなって感じだったらしい。
陸人さん……普通に話してたよな……化け物かな?
というわけでメリッサは三人の世話を焼いてる。
たまにケビンと海賊の娘なのに癒やし系のニーナさんが手伝いに行ってるみたいだ。
ニーナさん……気遣いの人。
余ったお肉で包み込んでほしい……。
俺たち男子は全力で貴女を応援してます!
「ヴェロニカちゃんに言いつけるよ」
「貴様エスパーか!?」
「男子がなに考えてるかくらいわかるよ……」
そりゃそうか。
男子はエロスと下ネタくらいしか考えてねえもんな。
そこに男子どもがなだれ込んでくる。
「レオ隊長!」
わざわざ【隊長】と呼ぶのだから俺に不利な話だろう。
「なんじゃい」
「金貸してください!」
「死ね!」
「いや聞けよ! くノ一キャバクラだけ営業してるんだよ!」
「対●忍!?」
どうしよう……エロ関係なく見てみたい。
俺はウォレットアプリを出した。
うむ、残高はたくさんある。
「ちょ! レオくん! ヴェロニカちゃんに言いつけるよ!!!」
ケビンに止められるがこの想いは止められない。
だってくノ一だよ!
圧倒的浪漫だろ!?
たとえ期待外れでも何年も話のネタになるだろ?
5万クレジットまでは惜しくない。
「ヴェロニカちゃんに通報しますねー」
「あ、妖精さん裏切ったな!!!」
妖精さんの通報で駆けつけたピゲットに捕まった。
「だって! だって! くノ一見たかったんだもん!!!」
俺はジタバタした。
見たいじゃん! くノ一!!!
「そうだよそうだよ!!! くノ一見たいじゃん!!!」
縛られた男子も足をジタバタさせた。
「のう、婿殿。いい度胸よの? この妾を差し置いてくノ一などに憧れるとは」
あ、キレてる。
この声キレてる。
「で、でも、見たかったんだもん! ただ見たかっただけだもん!!!」
すると嫁ちゃんが俺の耳元でささやく。
「素直に罪を認めたらくノ一コスプレしてやる」
俺はきれいな目になった。
「ごめん。俺が間違ってたよ! 嫁ちゃん最高!!!」
「あ、レオてめ! 裏切ったな!!!」
「うるせええええええええええッ!!! そう、俺は愛の戦士。嫁ちゃんのためならなんでもするぜ!!!」
「このクソ野郎!!! てめえ夜道に気を付けろ!!!」
「へへーい♪ 嫁ちゃん最高! ひゃっほー!!!」
「あのーレオくん。調べたんですが」
「なに妖精さん? どうして申し訳ない感だしてるの?」
「はいこれ」
写真が送られてきた。
そこに映るのは熟女と言うには年輪を重ねたお姉様方。
あまりに干物に近い肌。
なんか紫色の髪……。
おう……。
「平均年齢70代みたいですよ」
「はい解散」
「はーい」
この世のどこにもくノ一はいなかった。
それはつまり冬の日本海。
冷たい風が頬にしみる。
まぶたからあふれ出る泪。
ああ、背中で語る男の生き様。
最後に残ったのは嫁ちゃんのコスプレの約束という希望。
ああ、冬の日本海。
男の海の厳しさよ。




