第百話
奥に進み隔壁を上げては下ろしていく。
とにかくバックアタックを阻止したい。
「できました!!!」
突然妖精さんが叫んだ。
「どうしたん? 悩みがあるなら聞こうか?」
「ぶぶー違いますー! この施設の造形プリンターハッキングしてテルミット爆弾作ってたんですー!」
「なんですと!」
要するに発火爆弾である。
「あと自爆ドローンも。自爆ドローンで通気口を走って敵を見つけたら【ドーン!】なのです」
あ、あの……妖精さんが正しいことを言ってる!!!
人のゲームの妨害しかしないアホの子が……。
「なんか失礼なこと考えてませんか」
「うう……よく成長したね……う、ぐす! うわあああああん!」
「泣くな! うぜえです」
怒られたので一区画奥に行くと造形プリンターがある部屋に出た。
実弾の弾薬が置かれている。
作ったはいいけど運べなかったんだな。
男子がフロートボードを出して運ぶ。
で、そこで待ってると組み立てられたドローンが出てきた。
さらにジョブが残ってたので待つ。
テルミットグレネードが出てきた。
「ドローンにはテルミット弾を仕込んでます」
「うん……ああ、うん」
それはわかったんだけど……。
「なぜにくまちゃん?」
「好きだからですがなにか?」
「爆発させるのに!?」
「うっさいです!」
「お、おう」
というわけで戦闘機から降りて通風口のカバーを外しドローンを置く。
ドローンが次々と通風口に入っていく。
「ソナー発動。通風口のマップ作成します」
……妖精さん。
やっぱり普通にしてれば優秀だよな?
型式古いのに。
「画像解析。異物を確認。妖精さん確認して!」
「はい。ドローン接近。三秒後に接触……敵です! 起爆!!!」
ずしんと部屋が揺れ通風口に空気が吸い込まれた。
「敵影ロスト。倒した?」
「ソナー反応なし。別ドローンで目視します……通風口爆発により破損。部屋の上を管で通してたようです。敵はそこから逃走した模様」
「部屋の中に生存者は?」
「生体反応なし! いません!」
「敵逃走経路は?」
「下の通風口のようです。別のドローンで追跡中」
ソナーで作ったマップが送られてきた。
敵が赤。
ドローンが青で表示される。
20機ほどで徐々に追い込んでいく。
「追い込めええええええッ!」
妖精さんが叫んだ。
「おっしゃ! 爆破します!!!」
青いドットが消えていく。
だが赤は健在だ。
「テルミット弾の炎を突破された! レオくん来ます!」
俺も殺気をビンビン感じる。
それは野生動物のような直接的な殺意だった。
俺は盾を構えて待ち受ける。
音が聞こえてくる。
次の瞬間、通風口からなにかが飛び出してくる。
肉だ。
大量の肉が通路から飛び出してきた。
「な、でけえ!」
「そんな! ソナーに映らなかった!」
妖精さんが叫ぶ。
俺とクレアの機体が肉に飲みこまれていく。
とりあえず殴る。
だめだ!
表面が波打つだけだ。
衝撃が吸収されてしまった。
盾で押し込む。
「ろー、ローラーダッシュで……」
ローラーが回転し火花が散る。
俺はノロノロと前に出て押し寄せる肉の塊を壁に押しつける。
「隊長! テルミット弾投げるから離れて!」
俺は盾を押しつけてから離れようとした。
だが肉は俺を離そうとしない。
「撃ちます!」
クレアが砲撃した。
だが肉の表面に傷つけただけで飲み込まれてしまった。
どうする?
どうする?
ピゲットも盾を持って肉を壁に押しつける。
それと同時に剣を突き刺すが剣が飲み込まれる。
「ぬう! なんだこいつは!」
男子たちも一生懸命盾で押さえ込んでいた。
だけどドンドン増える肉に押し戻されていく。
どうする!?
このままじゃ負ける!
どうする俺!?
その瞬間とあるアイデアが脳裏に浮かんだ。
本当にバカバカしいものだ。
超接近状態だ。
肘か? 違う。
頭突きか? 違う。
体当たり……難しい。
押さえ込み、もうやってる!
……あれか。
やはり俺はバカなのだろう。
でもバカなアイデアにすべてをかけることにした。
俺は脱力した。
次の瞬間、最小限の動きで盾ごと殴る。
寸勁。
寸拳。
ワンインチパンチ。
異名多数。
実戦で使えるかどうかはともかく、世界中の武術流派で似た技がある。
デモンストレーションでおなじみのアレ。
関節を改造した専用機の重さと勢いで盾と壁に挟まれた肉が潰れた。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
どこかに発声器があるのか。
肉が悲鳴を上げた。
次に俺は盾で殴り、すかさず体重をかけた肘打ちをお見舞いする。
面攻撃を喰らった肉の一部がさらに潰れる。
「痛い! 痛い! 痛い!!!」
「こいつ……知性がある!!!」
次の瞬間、肉が通風口に吸い込まれていく。
野郎! 逃げるつもりか!!!
「隊長!」
メリッサがテルミット弾を投げた。
くそ!
追うのは無理か!
俺は後方に飛ぶ。
テルミット弾が爆発しあたりが火に包まれた。
「熱い! 熱い! 熱い!!!」
通風口から悲鳴が聞こえる。
まだだいぶ余裕があるじゃねえか!
「隊長! 後ろの区画に避難するよ!」
メリッサがそう言うと機体が持ち上げられる。
俺は男子どもに担がれていた。
ライブで客にダイブしたやつのように。
「ああ! クソ! 逃げられた!!!」
「隊長! いつあんなの憶えたの!?」
メリッサが聞いた。
「必殺カンフー一撃拳! ほら再放送でよくやってる映画! 幼年学校の男子の中でマネするのが流行ってたんだよ! やったらできた!」
宇宙海賊に征服された惑星をカンフーで救うバカ映画。
そんなんでもガキはマネする運命なのだよ。
気功の不思議パワーで撃退したなんて言わない。
純粋な物理攻撃だ。
体当たりを最小限の動きで拳でやったにすぎない。
「映画で見た技を命かかった場面でやる!?」
「やったら助かった!」
「ちょっとピゲット少佐!」
「ええいメリッサ! 婿殿の勘を信じろ! 考えるだけ無駄だ!」
「え、それ普通にひどくね!?」
完全に変態扱いである。