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第十話

 ここからが問題だった。

 今いるのは学校所有の校外校庭。

 学校に通信が繋がらない。

 ヴェロニカの近衛隊の半分が常駐してるから無事だろうけど。

 後の半分と連絡がつかないのが怖いが……。

 輸送艇は無人運転だ。

 明日の終了時間が来るか、学校本部の操作がなければ帰れない。

 近衛隊も輸送艇で来てしまった。

 完全に油断していた。

 せめて近衛隊がフル装備で待機してくれれば……。

 いやもはや結果論だろう。

 学校の敷地内で戦争レベルの装備の方が頭おかしいわけだしな。

 というわけで俺たちは救助が来るか終了時間まで帰れなくなってしまったのだ。

 いや本来なら問題ないはずなのだ。

 隣の惑星だ。

 本部と通信が途絶するはずがないのだ。

 いや近衛隊のポータブル通信装置がある。

 あれなら音質は悪いが首都星に救助を求められるはずだ。


「婿殿ダメだ。近衛隊のポータブル通信装置も使えなかった」


「お、おう……」


 そんなわけがないの連続だ。

 ゴクリと喉が鳴った。


「おい教官! 造形プリンターは使えるか?」


「はい殿下! 使えます!」


「今すぐに婿殿の機体を修理するのじゃ! 近衛隊! 婿殿が見つけた基地に急行して実弾兵器を探してこい! 生徒たちは二手に分かれて手伝え!」


 整備の講座を受講している生徒たちは工場へ。

 他は近衛隊と一緒にバイクで基地へ向かう。

 500年前の機体を直せるのか?

 それが問題のように思えるが、実はなんの問題もない。

 造形プリンターで部品を作ってマシンアセンブラで組み立てればいいだけだ。

 最悪の場合、今の規格に直してしまえばいい。

 図面引ければね。

 さすがにその余裕はないか。


「向こうには人型のドローンがいる。俺も行く」


「本当なら戦闘担当の婿殿には休んでほしいところじゃが……衛生講座を受けてるものは高カロリー栄養剤を用意してくれ! 婿殿とクレアに接種させる! 婿殿!」


 そう言って嫁は俺に何かを投げ渡してきた。

 受け取って見るとアレだ。

 注射器。

 精神に作用して、いい感じに頭をゆるゆるにして死の恐怖を和らげるやつに違いない。

 エロ漫画に出てきそうなアレだ。


「使え」


「まだ速くない?」


「違う! 似てるけど危ない薬じゃないのじゃ! 回復用のナノマシン入りじゃ! 高カロリー栄養剤と併用して休憩すれば疲労が回復する」


「しかたないにゃー」


 プスッと首の太い血管に刺してボタンを押す。

 プシューッと溶液が入ってくる。

 実はこれ、医療グレードだけど民生用だ。

 もっとヤバい薬が校庭の医務室にあるんだよな。

 本当の戦闘用。

 成績優秀者には非常時の使用が許されている。

 ナノマシン山盛りで心臓に負荷がかかるヤツだ。

 嫁には黙っとこ。


「クレアも使え! 婿殿は基地へ! クレアは休め! 複座型の砲手はクレアしかおらん! ほれ婿殿!」


 今度は柔らかいものを投げてきた。

 なんだこりゃ?

 クッション?


「婿殿はサイドカーに乗れ。移動中は仮眠せよ! 皇族の命令である! いいか婿殿、戦闘は自分で思ってるより疲れてるものじゃ。なるべく休憩せよ」


 ヴェロニカは別名【海賊狩りのヴェロニカ】だ。

 ありとあらゆる宙域で海賊を見つけ次第ぶち殺してきた。

 実戦経験、指揮の経験が豊富なのである。

 当然、指揮官は嫁である。

 渡された高カロリーのゼリーを飲む。

 飲み終わったら俺はクッションを抱えてサイドカーの方へ歩いて行く。

 サイドカーつきのバイクにケビンが乗っていた。


「乗って。そしたら必ずシートベルトを着用してね」


「うっす」


 シートベルトをつけてクッションを抱えて仮眠スタンバイ。

 舌を噛まないようにマウスピースも着用。

 ヘルメット被って……っと。


「お休み」


 数十分は休めるわけだ。

 ……。


「レオ……起きて」


 あん?

 やべ! ガチで寝てた!


「悪い。完全に落ちてた」


 よほど疲れてたらしい。

 自覚してなかった。

 嫁って本当に戦闘経験豊富で優秀なんだな。

 末恐ろしい……。

 クッションをサイドカーに置いて基地に入る。

 あのドローンが俺をスキャンする。


「武器庫はあるか?」


 そう言うとドローンは歩き出す。

 500年前の武器庫にご案内である。

 500年前の武器が使い物になるかが問題だが、多少壊れてても造形プリンターでパーツを印刷してマシンアセンブラで組み立てれば修理できるはずだ。

 惜しいのは一から作るのは違法なんだよな。テロ防止の観点で。

 武器庫にはなつかしい武器がそろっていた。

 すべて実弾兵器だ。

 軽機関銃にライフルに迫撃砲。

 ロケットランチャーや手榴弾などの爆弾もある。


「おいおい、嘘だろ。新品同様じゃねえか」


 前に病室に来たツーブロックの男子が驚いたような声を上げた。

 ただし恐ろしく前の。

 実弾兵器自体が放棄されて久しい。

 だからちょうどいいとは言える。

 俺は一人後方識者面をした。


「お、レオ! なんだその顔」


「えっと名前は……?」


「遠藤だ。同じクラスのやつくらい憶えとけ」


「ごめん」


 この社会的スキルの無さよ。

 嫌われ者のぼっちつらい。


「運ぶぞ。手伝え!」


 力仕事ではあるが、無限軌道のついたカートに乗せさえすれば後は楽だ。

 武器を載せてバイクに繋げれば完了。

 他の男子も準備を終える。


「よし帰るぞ! レオは寝ろ!」


「もう寝らんねえよ」


「まー、この子ったら、すっかり話しやすくなっちゃって!」


 うれしい感想だ。でも今は素直に寝られる方が凄いターン。

 そしたら近衛隊のおっさんが来る。


「おうガキども。なんだ婿殿寝てねえのか」


「寝られないんですってこの子」


 気持ち悪いしなを作るな!


「俺にいい考えがある」


「なんすか?」


「おい、婿殿あそこ見ろ」


「なんすか」


 気になるのでそっちに視線を移す。


「ふんッ!」


 それはそれは見事なグーパンだった。

 普通そこは首トンじゃねえの!

 なんで殺意高めのパンチなんよ!!!

 パンチは俺の急所を的確に捉える。

 俺は一発で白目剥いてベロ出してダウン。

 前に倒れたところをおっさんが抱きかかえる。

 そのままサイドカーで運ばれた。

 あとで遠藤に聞いたらビクビク痙攣してたらしい。

 気がついたら校庭の敷地で寝かされてた。

 雑に。練る前のコンクリートの袋が枕だった。

 扱いが酷すぎる件!!!

 俺、これでも皇女殿下の婿なのよ!!!

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― 新着の感想 ―
せめて締め落とす位にしてあげてください… え、それもやばい?ごもっともで
一言いいですか? 気絶は寝たことになりません!!!!(どこかの本で読んだ知識)
[一言] ………そら『俺たちの娘を奪いやがって!』な気持ちがてんこ盛りの親衛隊さん達だからね! 後、首トンは気絶するより先に首の骨がポッキリ逝くか、延髄やられるかの二択らしいので、医学的には推奨されな…
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