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第一話

「うわ……人生終わった」


 俺はつぶやいた。

 ハードコア艦隊RPG【羅刹の銀河(そら)】。

 主人公は宇宙帝国士官になって人類の天敵であるゾークとの戦いに身を投じる。

 プレイヤーは戦略士官になって艦隊を動かしてもいいし、宇宙海兵隊員になってゾークとの永遠に続く戦いを楽しんでもいい。

 超能力者や科学者、もちろん商人や医師や薬剤師、もっと変なのなら宇宙海賊になってもいい。

 プロパガンダを広める歌手や俳優でもいい。

 革命家になって政府転覆を目指してもいいし、超能力者の能力向上のための特殊入れ墨の彫り師になってもいい。

 配管工や農夫になってるプレイヤーだって山ほどいる。

 とにかく永遠に続く戦時体制下での生活を楽しむゲームである。

 当然プレイヤーのストーリーなど皆無。

 NPC周りのシナリオもAIによる自動生成だ。

 その中で固定のイベントは冒頭のゾークとの遭遇くらいだろう。

 ゲーム開始の一年前、帝国士官学校の演習船【いかづち】が植民惑星の古代遺跡から復活したゾークと遭遇する。

 護衛の戦艦ともども撃墜され、軍人と学生1500名はゾークの腹の中。

 そのいかづちの艦長代理というか実習での艦長役が俺ことレオ・カミシロである。

 絶賛経営悪化中の侯爵家の生まれで権力を笠に着て生徒会長になったクズ寄りの無能だ。

 生徒会長なので演習でも艦長になっている。

 それだけならまあいいだろう。

 席を温めるだけの人材も世の中には必要だ……。

 余計なことをするアグレッシブな無能よりは被害が少ないだろう。

 なあに家柄が仕事してくれるさ。

 ところがレオは運が悪かった。

 平時ならボケッとしてれば終わる演習だった。

 だけどこのときは演習船が揺れまくってた。

 問い合わせの一つもして偵察ができれば時間が稼げて何人かは逃げられたかもしれない。

 だけどボケッとしてて異変はスルーされた。

 ゾークのアンカーが艦に撃ち込まれた揺れだったのよ。これ。

 で、もっと運が悪いことに護衛している戦艦しらなみのクルーも無能だった。

 こっちは学生のレオに比べて救いがたい。

 調べもせずに実習を続行。その結果が全滅だ。

 以上、アーカイブにて一行で語られる事件である。

 要するに俺は【誰だこいつレベルのモブ】なわけだ。

 なにをしても歴史に与える影響も小さいだろう。

 で、ついさきほどだ。

 艦が揺れたときに食べようとした豆腐の角に頭をぶつけた。

 そしたら思い出したのだ。

 俺、【誰だこいつレベルのモブ】になってるんじゃね? って。

 もう手遅れ気味のタイミングで。

 だから俺の変態気味の脳味噌をフル稼動させて考えた。

 今ブリッジにはサブヒロインの眼鏡っ娘、クレアがいる。

 眼鏡っ娘だ。

 眼鏡っ娘副艦長だ。

 もう一度言おう。

 眼鏡っ娘だ。

 眼鏡っ娘パイセンとしてプレイヤーの前に現われる。

 彼女はここで一度むしゃーされるが脳のバックアップが無事に回収されクローンとして再生される。

 自己の同一性に悩む彼女の復讐シナリオは涙を誘う……。

 レオとは違って。

 レオは空気!

 眼鏡っ娘万歳!!!

 ってそんな暇ねえ!!!


「クレア、異常検知システム起動するぞ」


 ぽちっとな。

 あとは副艦長役のクレアが了解ボタンを押せばシステムが作動する。


「ですがマニュアルでは戦艦しらなみに了解を取ることに……」


「いいから! 別に怒られるほどのことじゃないから!」


「了解しました。あとで報告しますからね」


 はい、副艦長の承認ポチっとな。

 異常検知が開始される。

 アンカーの警報だ。

 アンカー、要するに鎖だ。

 海賊がやる手段の一つだ。

 海賊なら電磁式でアンカーを辿って戦闘員が乗り込んでくる。

 だけど相手はゾーク。

 光で追跡用の光を撃ち込む光子アンカーなんていうSF技術ではない。

 やつらのは物理的な糸だ。

 やたら丈夫で実弾兵器をぶち当てるか、専用の兵器で焼いて切るしかない。

 専用の光学兵器はまだ開発されてないし、この船に実弾兵器は搭載されてない。

 今は無理だね。終わった。

 するとすぐに警報が表示される。


「レオ、異常検知しました……何者かがアンカーを撃ちこんでる!?」


「宇宙海賊かもな。カメラお願い」


 実際はゾークなのは知っていたが適当なことを言ってみる。


「カメラオンライン……なにあれ……」


 巨大なヤドカリのような生物が映る。

 ゾーク、甲殻類型の宇宙生物だ。

 宇宙戦艦サイズから、人と同じサイズまで。

 蟹とクモの間みたいな形をしている。

 宇宙空間を飛ぶ大きなゾークに小さなゾークが乗っているという風邪ひいたときの悪夢に出てくる怪物みたいな存在だ。

 外骨格の殻がクソ硬くて、艦に搭載されてる光学兵器じゃ穴が空かない。

 質量のある実弾兵器ならがんばれば割ることもできるんだが。

 なお身には毒があって食べると死ぬ。

 高温で焼いて処理せねば農業すらできなくなる。

 人類に対する嫌がらせみたいな存在だ。

 ……それを封印した先史文明凄えな。

 銀河各地の古代文明遺跡に封印されていたが、惑星サンクチュアリの開発により復活。

 数多ある遺跡から人類への侵攻を開始する。

 目的も生態も不明。

 というか開発陣しか知らない。

 とにかく今日が侵攻初日である。


「クレア。実習打ち切りを本部に通達。ただちに実習生は脱出ポッドで近くの軍事基地に避難」


「ですが教官の許可が……」


「取る前に死ぬよ」


「……え?」


「なんでもない。護衛艦にも通達して」


「は、はい! ……繋がらない!!!」


 全滅まであと30分くらいかな。

 そこからこの艦が全滅するまで15分ってところか。

 実習生全員が避難するのに必要な時間が約一時間。

 どう考えても足らねえな。

 俺だけ逃げるか?

 できるわけねえじゃん。

 俺たちの行動は脳内チップで把握される。

 実習の艦長役だとしても敵前逃亡は死刑。

 家ごとお取り潰しである。

 逃げられても宇宙海賊になるしかない。

 しかも最悪惑星破壊爆弾で母星ごと住民抹殺まである。

 侯爵なんてまともにプレイしてればもらえる実績だ。

 プレイヤーだけでも数十万はいたはずだ。

 処刑(垢BAN)されても誰も気づかないレベルである。

 毎日BOTとチート行為違反で数百人は処刑されてたと思う。

 逃げられねえのよ。


「全員脱出。さっさと承認して。みんな死ぬよ」


「は、はい!!!」


 警報音が鳴り響く。


「クレアも脱出して。俺は残るから」


「え?」


「しょうがないじゃん。俺が残って戦闘ドローンをオペレートせんと」


 警備用の戦闘ドローンはハッキング防止のため1分毎に上級職員の生体認証が必要……という余計な仕様だ。

 乗っ取られたらたまらんからな。

 この場合、護衛艦に乗船してる教官ども。それに俺、それに他数人の成績優秀者だ。

 要するに艦長、副艦長、主計長、警備主任みたいな上級職から一人は犠牲になれということである。


 艦長の俺はここで死ぬ。

 殿をしなければ死刑だ。

 普通さあ、チートとかチートとかチートあるじゃん?

 責任者出てこい! 殴るから!!!

 俺は拳銃型光線兵器を取る。

 実弾兵器の方が効果的なんだけどな。

 できれば実弾の機関銃が欲しいけど搭載されてない。

 事件後の船なら標準配置されてる装備なのだが……。

 今は誰もゾークの存在を知らんからしかたないか。


「カメラ、俺の戦闘を撮影して。戦闘データを帝国クラウドにアップロード。ICチップ情報のバックアップも」


 脳内のICチップから情報を受け継いだクローンを作れるが、今起きてる俺が死ぬのは変わらない。

 だけどどうせ食われるならゾークどもに最大の損害を出させてくれるわ!!!


「クレア」


「なに?」


 焦ってるのかクレアの敬語がなくなった。


「みんなの無線回線開けといて。戦闘のブロードキャストするから」


「りょ、了解。どうするの?」


「どうするって、どうせ死ぬんだし。最後くらい演説の一つもさせてくれよ」


【俺の屍を超えていけ!】ってやつ。

 男の子なら憧れるよね。

 ギ●ン様の演説、

 あと電柱の上でフハハハしながらアドバイスとかも。

 もちろん俺の生き様を記録する以外にも軍法会議用の証拠としての用途もあるけどね。


「うんわかった。撮影開始三秒前。さん、にい、いち、はい」


 クレアの合図で撮影が開始される。


「実習生徒諸君、艦長役のレオだ。今我々は所属不明の勢力の攻撃を受けている。護衛の戦艦との通信も途絶した。そこで実習マニュアルに従い脱出することにした。ただちに脱出ポッドに入り、近くの軍事基地に避難してくれ。戦おうとするな。我らじゃ護衛戦艦クルーの邪魔になるだけだ。私は警備ロボを率いて殿を引き受ける……」


 何を言おうとしたか忘れた。

 さんざん脳内シミュレーションしてたのだが。


「諸君らには生還してもらい。私の仇を取ってもらいたい。なにせ次に会うときはクローンだからな! HAHAHAHA!」


 すすり泣きが聞こえた。

 ジョークのつもりだったが盛大にすべったようだ。

 声の方を見たらクレアが泣いていた。

 空気が重い。お通夜状態だ。


「クレア、気にすんなって!」


 どうせ死ぬんだしな。

 敵の強大さを見せつけるだけの演出のために。

 なんかイラッとしたぞ。

 俺はナイフを見る。

 アウトドア実習用の金属製。

 ビームブレードよりはマシだ。

 あとグレネード。

 爆発は役に立つはずだ。

 銃は拳銃型光線兵器。

 護身用ではあるが出力は普通のライフルと変わらない。

 単に形状的に命中率が悪いだけだ。

 海兵隊のフルフェイスのヘルメットを被って、ヘルメット搭載のゴーグルを降ろす。

 戦闘用のグローブをつけて終了。

 ま、この辺の兵器使うようになったら「あと何秒生きられる?」って段階だけどね。

 ブリッジにあるのは俺たち成績優秀者も工兵の実習もやる予定だったからだ。

 振り返るとまだクレアがいた。


「さっさと避難してくれ」


「ご武運を」


「帰ったらデートしてくれ。じゃあの!」


 と元気よく部屋の外に出る。

 実習生に支給されたハンドヘルド端末から警備ドローンを起動。

 小さなラジコンカーに砲台がついているドローンが艦内を走り回る姿がディスプレイに表示された。

 さーて実況はじまるよ~。

 マイクをカメラをオンラインっと。

 さーてやるかの。

 実況を。

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― 新着の感想 ―
うんこれは良いつかみだ 楽しみに読ませていただきます。
書籍化おめでとうございます(いまさら) 久し振りに見返してたけど、 >超能力者の能力向上のための特殊入れ墨の彫り師 このネタっていつか回収されるのかな・・・
あれ?特務さんを讃えるスレはどこ?w
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