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第4話 後悔のないように。

 今まで自分の体に小さな棘が刺さっている感覚があった。

本当に棘がどこかに刺さっている訳ではなく、存在自体に違和感を感じていたのだ。


その棘が今取れたような気分だ。


僕が今、絶体絶命のピンチであることは理解している。

オオトカゲが目の前にいて、レイが僕を守ってくれていることも。


だけど僕の心は清々しい気持ちでいっぱいだった。

同時に混乱もある。前世の記憶と今の記憶が混濁して混ざり切らない。



 僕は確かにあの時トラックに轢かれて死んだ。

死んだことを覚えているというのもおかしな話ではあるが、その後、何かに弾かれたように感じたのも覚えている。


今世は、リナとして剣と魔法の世界を18年間生きてきた。

貧しい村にいた時から幼馴染のレイと、冒険者を始めて2年でCランクパーティーにまで駆け上がった。


これだけの記憶が夢なんてことはないだろう。


夢ではないことはわかっている。

夢ではないことはわかっているが、一応頬をつねってみた。


「いたい……」


やっぱり夢ではない。


 夢ではないことを認識して、やっと現実に目を配る余裕ができた。


目の前の現実に目を向けると、先ほどまで慎重だったオオトカゲが狂ったように突進してくるのが見える。

レイが僕を守ように立っている。鍛えられた大きな背中だ。


「リナ!!しっかりしてくれ……!!」


レイはそう言って、背中に背負っていた盾を持ち、前に掲げた。

しかし、突進してくる巨体を抑え切れるはずもなく、レイは盾ごと僕の横まで吹き飛ばされる。


「レイ!!」


僕は咄嗟にレイに声をかけてしまう。


オオトカゲは盾にぶつかり怯んだのか、一度動きを止めギロリと大きな目で睨んでくる。

松明も消えかかり、オオトカゲの瞳が深く怪しげに光っている。


「……大丈夫だ。動けるようなら、光魔法を使ってくれ…」


レイはそう言うと、体を起こし盾と剣を拾った。


「わかった……。 ακαριιο」


僕もオオトカゲを視界に入れながら、立ち上がる。

光魔法の呪文を詠唱すると、小さな光が空中に現れた。

初級光呪文の一つで、あたりを小さな光が照らしてくれる。


光の出現に、小さく息を吐く、

前世の記憶を思い出したことで、魔法が使えないかと心配していたが問題なく使えるようだ。


「τσιιυοιουκου」


息を荒くするレイに触れ、治癒魔法をかけた。

お世辞でも出来がいいとは言えない初級治癒魔法ではあるが、少しでも体が軽くなればいいと願う。

レイはゆっくりと頷いて、盾を地面に置いた。守りを捨て攻撃に出るのだろう。


僕も弓と矢をとり、弦を引く。


今世の記憶も経験もなくなっている訳ではないので、弓は問題なく扱えた。


心臓の鼓動と呼吸の隙を狙って、光魔法の灯りを横目に、オオトカゲの目に矢を放った。

矢を放つと共に光もオオトカゲの方に進ませる。


矢は一直線にオオトカゲの目に刺さった。


レイが、放った矢よりも鋭く、オオトカゲに突進する。

姿勢を低くして剣を前に突き出す姿は、レイ自体が剣のようであった。


矢が刺さっている目に、追い討ちをかけるようレイが剣を突き刺した。


鼓膜をつんざくようなオオトカゲの怒声が洞窟内に響き渡る。

目を片方失った痛みでオオトカゲが暴れ出した。

レイは持ち前の脚力ですぐに後ろに飛び退いた。

オオトカゲが身を捩るように体を動かすだけで、洞窟内では危険だ。


「これはやばいなぁ……」


レイがつぶやき、後にいる僕を見る。

レイと目が合う。


「リナ!俺はリナが好きだ!

 生きて出られたら一緒に暮らそう!」


渾身の叫びだった。

自分の人生に悔いを残さないために、自分の心に希望の火を灯すため、レイは叫んだ。



……僕はもう純粋にリナじゃない。

リナの人生に、綿谷右京の人生が混ざった別の人間だ。



だけど、私はレイが好きだった。

だから僕はこう答える。


「……うんっ」


僕が答えると、レイは笑みを浮かべ、オオトカゲと再び対峙する。


「来いよ」


この言葉を皮切りに、オオトカゲがレイへと飛びかかる。

いつもは慎重で臆病なオオトカゲは怒っているのか、剣を構えるレイに臆することなく突進する。

その速度はオオトカゲを切り付けたレイよりも速く、接触するのは一瞬のことだった。


大きな音をたててレイが弾き飛ばされ、洞窟の壁にぶつかった。

レイが地面に落ちる音がまた洞窟にこだまする。


オオトカゲは満足して、グルルとうめいた。


僕ができたのは息を呑むことだけだ。


オオトカゲの顔がゆっくりと僕に向く。

体もでかいのだから牙もでかい。噛まれたら考える間も無く息絶えるだろう。



「今世も早かったな……」



この言葉が、今世で僕が残す最後の言葉になった。










−−−−−弾かれた。

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