第1話 記憶の天才
高校2年生の綿谷右京は、記憶の天才だ。
全国模試は2年連続一位。
高校の定期テストでは、もちろん毎回学年一位。
綿谷は規格外な記憶力を持ちながらも、勉強の努力も惜しまず、応用力の必要な教科でも成績優秀だった。
夕暮れ時特有のオレンジ色の光を背にして、綿谷は学校の帰り道でも単語帳をペラペラとめくって勉強をする。
一度読んだものは覚えてしまう綿谷は、すでに20ヶ国語を習得しており、また別の言語を学んでいる。
横断歩道を渡ろうとしたところで丁度信号が赤に変わったため、足をとめ単語帳から顔を離した。
ふと思い出したのが今日の授業中のことだ。
化学の時間に先生が、「死後の世界はあると思うか」と生徒に話を振ってきたのだ。オカルト好きな先生のちょっとした雑談なのだが、綿谷はこの問いが頭から離れなかった。
「死んでみないと分からないよな」
ボソッと考えていたことが口から出てしまったことに気づいて、誰かに聞かれていないかと周囲を見渡した。
横断歩道の向かい側に、5歳くらいの女の子が1人いるだけで、近くに人はいない。
自殺志願者とも勘違いされそうな発言が誰にも聞かれていなかったことにほっとする。
信号が青になったのをみて、止めた足をまた前に出した。
しかし、1歩、足を進めたところで異変に気づく。
信号が赤で止まらなければいけないはずのトラックに、止まる気配がないのだ。それどころかスピードを増して、横断歩道に近づいてくる。
トラックの進む先には女の子がいた。
「おい!!」
人助けなんて全くいいものだとは思っていなかった。
だから、自分でもなぜだか分からない。
なぜかは分からないが、何かに押されたかのように、気付いたら女の子を助けるために走っていた。
遠くから見ていた時は分からなかったが、服に泥がついている幼い女の子。
赤い綺麗なワンピースを汚してまで、走り回って遊んでいたんだろう。
裕福な家庭で何不自由なく育ってきたが、親からの関心はなく、兄弟もいない。心から友達と呼べる人もいない。
失うものの少ない自分の命の使い道はこれであっているはずだ。
きっと、どんなに優秀な自分より、この女の子の方が人生を楽しめる。
女の子を突き飛ばし、トラックの行き先から外す。と、同時に体に強い衝撃が走った。
長いようで短い滞空時間を経て、また強い衝撃に襲われる。
−−−弾かれた。
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