え、私が竜姫のお気に入りですか?
読み専でしたが初めて投稿してみました。
ユーリアは現在花嫁修業兼花婿探し中の17歳である。
この国では18歳になる成人の儀でのエスコートがすべて婚約者でなくてはならない。
むしろ、婚約者がいないまま18を過ぎてしまい、成人の儀を迎えることは貴族社会ではレッテルを貼られることと同義である。
大事なことなのでもう一度、
よってお城に務めるものの妙齢の女性はほとんどが花婿を探しにきている。と言っても過言ではない。
そして、男性も同じく成人の儀までに婚約者探しをする。
よって見習いとして、まだ婚約者の決まっていない17歳の貴族の男女が城に集まる。
******
ユーリアは城へ、侍女見習いとして昨日入城した。
17歳とあっては
「婚約者はもう決まっているのか?」
という会話からスタートだ。
ユーリアだって、のんびりしてたわけではない。学園では気になる人はいたが、すでに婚約者がいたというだけだ。
侯爵家の次女であるから、特に親も焦ってはいなかったけれど、学園卒業後はさすがに焦って、見習いへ申し込んだ。
もう決まってる友人もいる。ちなみに決まっている場合はもう城へは見習いでこない。必要ないしね。
そしてユーリアの侍女見習いの配属先は王妃宮。男性に会う確率の低い場所である。
人気の王子宮はすでに先に自分より高貴な爵位の方へ、いわゆる婚約者候補の方々が取り巻いているらしい。そっちはそっちで、雌狐の戦いとか大変そうだから別にいいんだけどさ。
小さく溜息をついたユーリアは今日も王妃宮へ向かう。
王妃宮の男性はイケオジなベテラン騎士さんたちばかり。
こんなんで出会いがあるのかしら…。
*****
その日はミスが多かった。
侍女室のインクボトルを床に落とすし、
紅茶のミルクの銘柄を間違えるし、
洗濯物をメイドに渡すのを忘れるし、散々だった。
洗濯物をメイドに渡した帰り道。
普段は通らない道を通った。
18になるまで残り半年になって、ユーリアも焦っていた。
実家へ連絡できないストレスから寝不足も続いている。
――――18歳の成人の儀だけの婚約者っていないのかしら、頼むだけなのに、こんなにもいないのなんて、そもそも王妃宮が出会いがなさすぎるのよね。
そういえば、騎士団の近く通るから王妃宮の警備メンバーから、もしかしたら紹介してもらえるかもしれないゎね。
いや、あったら紹介してもらうゎ!
こっちから頼むのははしたないことかもしれないけれど、会うたびに心配してるのか茶化してるのか毎回聞いてくる騎士団のオジサマ達に
いっそのこと、だったら見つけて!と言ってやるのよ!
勢いよく気合を入れて騎士団の近くを通ったら、
ギィギャァァァ!
甲高い咆哮が聞こえてきた。
何、いまの?
あまりの聞き慣れない音に身体が硬直して動かない。
「こっちへむかってくるぞ!」
そして地響きとともに大きな影が近づいてきた。
あまりの速さと衝撃に動けない。
ドドドドド
突然大暴れしている様子に宿舎の使用人たちの
やめろ!近づくな!竜騎士にしらせろ!早く!
と叫ぶ声が聞こえる。
…なぜこっちに向かってくるの。
早く逃げなきゃ。押し潰されてしまうわ。
鮮やかな緑色の巨体はユーリアめがけて一目散に向かってくる。
「あぶない!!」
誰かが叫んだ。
でも恐怖で足が竦んで動けない。
ピタ
なぜかその巨体は私の前で止まった。
その姿は話には聞いていたが実際に見るのは初めてだった。
竜。
その尾を揺らす地面の砂埃が人々が近づいていけない警戒範囲なのか、ただユーリアの前でじっとしている。
長首をユーリアの顔へ近づけて来たとき、その鼻息がかかるときにはもうユーリアは立っていられなかった。
永きに渡りこの国と竜はつながりがあり、竜も互いに利益ありと契約を結んでいる。
竜王と国王の契約により、現在も竜騎士と竜たちの契約が結ばれている。と聞いていたけど、実際に見るのは初めて。
「無事か!?」
ユーリアに近づいた竜と契約を結んだ竜騎士だろうか、慌てて
竜を睨みつける。
「アメリア、やめてくれ。」
アメリアと呼ばれた竜は静かにユーリアを見つめる。
次に竜騎士を一瞥し、フンと鼻をならした。
「助けていただきありがとうございました」
「いや、君のせいじゃないよ」
さっきまで立てなかったが今は大丈夫そうと力を入れる。
すぐさま礼を言って立ち去るつもりだった。
もう、紹介してなんて気分にもなれない。
今日は本当に散々だわ。
ズズズズズ
ん?
何?何の音?
振り向くと竜がユーリアに付いてきている。ピッタリとよりそうようまるで従者のように。
思わず振り向いた先に竜の藍色の瞳と視線がぶつかった。
じっと見つめ合う。
―「かわいい」
さっきまで怖いと思っていたのに、置いていくなと目で語られているようなその姿に思わず呟いていた。
触れてほしそうにしてたのかわからないけれど、気づいたら手を伸ばしていた。
深い緑色の光る鱗は、冷たい。
つるつるして触りやすい。
手を動かさずにいると頬ずりされた。
ここ好きなのーと触って触ってと言っているようで、思わず笑みが溢れる。
一枚だけ色が変わっている鱗が不思議でそこも触れる。
瞳の色に近い碧色。
「私、ユーリアというの。あなた様は?先程竜騎士が呼ばれてましたが、アメリア様とお呼びしてよろしいのかしら?」
グルルル
喉をならされた。
YESだろうけど、迫力あるなぁ。
自然と口角が上がる。
ただ、触れたことで、焦っていた気持ちが少しだけすーっと落ち着いたの。
「会えて嬉しかったわ。」
グルルル
手を離しても擦り寄ってくる様子が可愛くて鼻息もなんだかくすぐったくて離れたくないなぁとまた撫でる。
また会えたらいいと願いながらアメリア様から離れたの。
そのままあるき出す。
ズズズズズ
ドシンドシン
って、またついてくる。
なんで?
このままだと王妃宮までついてしまうわ。
「あのぅ。大変申し訳ないのですが、竜宿舎まで送っていただけませんか?あなたをとても気に入ってしまったようです。王妃宮には連絡いたしますので。」
アメリア様の竜騎士が困った顔でアメリア様を見ながら声をかけてきた。
「ご挨拶遅れました。わたくし、第2部隊、竜姫アメリアの竜騎士、ゼノスと申します。」
ん?いま、竜姫って言ったわよね?竜王の娘?
「はい。竜王の3番目の娘でございます。」
あ、口にでちゃってたみたい。
「ちょっといまこいつ拗ねてるみたいで。すみません。」
そう言ったゼノスは黒髪の頭をくしゃっと掻いて
竜姫アメリア様と同じ緑色の
瞳で困惑気味に微笑んだ。
その会話が気に入らなかったのか、ゼノスに向かって明らかな不満の鼻息をならす。髪の毛が乱れるほどの強風だ。
「ご挨拶申し遅れました。わたくし、王妃宮侍女見習い、イーリスフォン・トーマス侯爵が娘、ユーリアと申します。」
竜姫アメリアがグルルルと鳴く。ゼノスは
「あ、あ、あの!、ここここコンヤクシャは?」
・・・この人、ズバッと聞いたわね。妙齢の女子に。噛んでるし。
まあ、見習いって言うだけで目的がそれだものね。挨拶がわりに聞くくらいだし。
「…とにかく、竜宿舎はどちらでしょうか?参りましょう。」
さすがに答えるにはギャラリーが多すぎるわ。
竜騎士さんには悪いけど、私にもプライドがあるのよ!
こんなところで、受けるなんて!!一体何の恥ずかしめなのよ!
「よぉ!ゼノス!となりのべっぴんさんは婚約者かな?やっと捕まえたのかぁ。よかったな!!」
「だっだん団長!」
振り向くと口髭をオシャレに整えたスキンヘッドがキラリとひかる団長がやってきた。
ってことはこの人!
婚約者なし!確定ね。
ゼノスいわく、竜騎士は
竜に好かれるのが第一条件ということ。
彼よりも竜の姫に気に入られた私はあれよあれよと婚約しました。
*
了
ありがとうございました。
こちら、男性視点です。良ければどうぞ。
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