word39 「記憶 消す」①
黒いパソコンを手に入れてから3か月の時間が過ぎようとしていた。初めは夏の終わりくらいであったけど、季節は冬に変わり……服装も半袖から長袖に変わった。そして、高校生の僕はそろそろ冬休みを迎えることになる……。
最初は使用する時に毎度していた緊張も、黒いパソコンと過ごす日々が長くなるにつれ薄まってしまって、今ではほとんど無くなってしまった。黒いパソコン自体の扱いも雑になり、隠し方も雑になってきている。
時には、黒いパソコンを収納に隠さずに部屋を空けるときもあるほどだ。何かを検索した後に、また収納の奥に戻すのがめんどくさくって、教科書や服を被せるだけで外へ出る。
1度だけ、それすらもせず外へ出たこともあった。何も被せず、黒いパソコンをそのまま机の上におきっぱなしで数時間外出した。あの時、家族の誰かに部屋を見られていたら……このチートアイテムが僕以外に知られてしまう可能性があったのだ。
……でも、それでもまだバレていない。そんなことをしても尚、僕だけのものだった…………。
だから、もう二度と誰かに知られることはないのではないか……。そうやって考えた訳ではないけど、心のどこかでそう思っていた。思ってしまっていたのだ。油断していた――。
――いつも通りの学校生活を終えて、帰ってきた僕は、この日もすぐに黒いパソコンでの検索を使った。
鞄を置いたら、制服を脱ぎもせず収納を開いて、黒いパソコンのキーボードを叩いたのである。
収納を開けてすぐに見える位置にある黒いパソコンは、いくつも積み重なった収納ケースの1つの上にあった。僕はそれを取り出さずにたくさんかけられたコートやジャンパーたちに顔をつっこんで使用する。服ばかりの収納の中は良い匂いが微かに漂う。
検索内容は今日の朝に報じられたちょっとしたニュースの真相についてだった。かなり有名で人気のある若手女優に彼氏ができたとかできていないとか、噂程度のニュース。本当かどうか、本当なら相手の男はどんなだろうということを黒いパソコンに聞いた。
ぶっちゃけ僕はそんなことどうでも良かったのだけど、僕の親友がそのニュースを聞いて今日1日落ち込んでいたものだから、なんとなく気になった。
どうでもいいのに1日1回の検索を使ったのは、他にこれといって検索したいことが無かったからだ。そして、ギターの練習に集中する為にさっさと消費しておきたかったから。黒いパソコンの検索を残していると、何を検索しようかとそればかりに気を取られてしまうことがある。
検索を終えて、大したことのない検索結果を見た僕は、予定通りギターの練習に取り掛かった。
すらすら弾けるようになってきたドレミファソラシドを、本の手本を見ずに何度か弾いて、メインをやり始める。メインとは1曲何か弾けるようになろうという当面の目標のことである。僕は好きなアーティストの曲で簡単そうな曲から1つ決めて、1週間ほど前から始めていた。
もう出だしから、サビ前くらいまでは何とか弾けるようになっていた。まだ、本来のペースでは弾けないけど、半分くらいのスピードならどうにかなる。半分のスピードでも弾きながら聞いている身としては、エモく聞こえて楽しい。
上達のスピードは自分でもまあまあ早いと思う。まだ、ギターを買ってから1ヵ月経っていないくらいだけど練習量でゴリ押ししているから……。
習慣になった帰宅してから夕ご飯までのギターの練習と、休憩でやったソシャゲが気づけば僕を夕方まで運んだ。
ここまで上手くできるようになったらやめようというところまで終わって、スマホで確認した時刻は18時30分。ちょうど良い時間だったので、僕はヘッドホンを外した――。
寒いからと集中したいからという理由で壁を向いて羽織っている布団から出る――。
そして、僕は見た――。その瞬間まで全く気付いていなかった事件を――。
開けていなかったのに開いていた収納の扉、その前には姉がいた。
それだけでなく、黒いパソコンのキーボードに手を置いて、何やら操作をしていたのだ。




