表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/217

word34 「軽音楽部 部員一覧」③

 外に出ると思ったよりも気温が低くて、学校に行く時よりも軽装だった僕は肩を上げて歩くことになった。さらに辺りはみるみるうちに暗くなっていって、初めての場所に1人で行くのが不安になってくる……。


 やっぱり今度にしようかな……。


 本気でそう思ったのは目的地の楽器屋のアメリカンな看板がも見えてきた時だった。


 初めて行く店で買ったことがないものを買う。しかもギターなんて高い物を買うのであれば、事前に黒いパソコンにどういうものを買ったらいいか聞いてみるなんてことも考えた。それか、詳しいだろう親友に同伴を頼むとか。


 でも、僕は1人で行って1人で選びたかった。ギター初心者用のサイトにも書いてあったけど、お気に入りなものを自分で選ぶのって大切なことだ。きっと買ってからの練習のモチベや楽しさが変わってくると思う。


「いらっしゃいませー」


 今更後戻りもできないと意を決して入店すると、近くにあったレジのほうから挨拶が届く。見ると、大柄で腹の出た店主らしき男がギターを磨いていた。集中している様子でこちらにはあまり興味を示さない。


 僕は周囲を見回して目的のコーナーを探す。小さな店だったのですぐにその文字は見つかった。「2F ギターフロア」と矢印と共に書かれている。


 店内にほとんど客はいない。木製楽器の木の匂いだろうか。独特な良い匂いがする。


 その匂いの中をすり抜けて階段を上ると、少し圧倒される景色があった。


 見るところ見るところ全ての場所に所せましとギターが並んでいる。まるで美術館のような配置で、ただ並んでいるだけでなく、天井から吊り下げられているものや真ん中に立てれらているもの。ショーケースに入れらているものまであった。


 赤、白、黄色に塗られたり忙しくデコレーションされているギター達もあれば……ショーケースの中のものは宝石みたいに輝いている。あとは、キャラクターが描かれたものなんかも……。


「おお……」


 早足で軽く一周した僕は誰もいなかったので思わず声が漏れた。小さな店とはいえ2階はまるまるギター用。とんでもない種類、選択肢がある。


 形も普通のものだけではない。エレキギターはどんな形でも成り立つものだから、丸いものや三角形に近いやつだってある。そして中央で目立っているギターはギザギザで尖りに尖っていて、思わず心の中でうわあ殴ったら人殺せそうやんとツッコんでしまった。


 そんな凶器に近づいてみると、22万円という値札が見えて、僕はより圧倒させられる。


 まあ買えてもこれは買わないかな。奇抜なものではなくていい。


 僕は次に値段とデザインをじっくり見ながらフロアを回った。どんなやつが欲しいとかはここに来るまで考えていなかったので、見て気に入ったものが10万円以下で買えるならそれにしたい。形は普通でかっこいいと感じるもの……。


 ぶっちゃけどれもかっこいい。この前までギターを買おうなんて思いもしなかった僕が見ても感動する。ださく見えるものがない。この中から1つ選ぶって難しい。


 売られている品とは違って静かだった店内のBGM。ギターじゃなくてピアノの音だった。落ち着くBGMの中で僕はあれでもないこれでもないとウロウロしながら悩んだ。


 しかし、ちゃんとはっきり答えは見つかった。これしかないなと思えるものがあった。


 一見したところでは目立つギター達に埋もれてしまっていた……。けど見つけてじっくり向き合うと一際スタイリッシュな……心を鷲掴みにする黒いボディ。


 1度見ると、他に目移りはしなかった。ボディの部分は真っ黒で、ネックの部分は木が見えている。ヘッドの部分はまた黒色、なによりその黒色の質感が僕のハートを射抜いた。上品で高級さを感じる黒だ。


「お兄ちゃん何か気に入ったの見つかりました?」


「え」


 黒いギターを見入っていると、気付かぬうちに僕だけだったはずの2階フロアに人がいた。さっきカウンターにいた太った店主だった。


「じっと見とるもんやから、ええのあったんかなって。持ってみます?」


 店主はやけに優しい笑顔で僕に話しかけてきた。


「どれ?」


「えっと、これです。でも持ってみなくていいです。これ買います」


「へー。これね」


 指を差すときに見た値札には「93,800円」という文字があった。払えるけれど、想定したいものよりはちょっと高額。それでも迷いはない。


「はい」


「ジャクソンギターか。お目が高いですね」


「じゃくそん?」


「お兄ちゃんギターは初めてですか?」


「はい」


「初めてならこういうのもおすすめだけど――」


 それから、ギター好きそうな店主の話に10分間くらい付き合わされた。店主は他のを見せてくれたり特徴を楽しそうに語った。


 もう決めてしまっていた僕にとっては迷惑だったけれど、初めてのギター購入に必要な付属品もパパっと集めてくれた。


 僕は何が何やら分からなくて、説明されることに適当に相槌を打っているだけだった。ぱっと見怖そうだったけれど笑うと優しそうだったので全て任せてしまった。ピックだとかチューナーだとかは店主のおすすめに甘えて、初心者ギター入門と書かれた冊子もタダでもらった。


「ちょっと値段はおまけして、合計で10万5000円になります」


 ギター本体とケース、その他諸々込みでお会計はそんな高額なものになった。


「お兄ちゃん。ギターは背負って帰る?」


「はい。そうします――」


 店を出た僕の背中と片腕には大きな荷物があった。外に出るとまたもや寒さで肩が上がって、同時に頬も上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ