word22 「黒いマウス 機能」①
僕には姉がいる――。
現在は高校3年生で違う高校に通っている姉だ。僕が高校2年生なので1学年しか差がないとなるとちょっとだけ珍しいかもしれないが、1年9カ月差生まれの1歳年上。姉が遅生まれで僕は早生まれ、年齢関係はそんな感じ……。
当たり前だけど生まれた時から同じ家に住んでいて、普通に成長を共にして、普通に同じ食卓を囲んで、同じ環境で生きてきた。自室の位置も隣である。仲もまあ普通くらいだと思う。話すときはよく話すし、話さないときは話さない……。
性格はあらゆるところに目を瞑って無理やり一言で言えば、「おっとり」……そんな感じの姉だ。
とある平凡な男子高校生に姉がいても誰1人驚くことはないだろう。まして、その姉の実の弟である僕が姉を見ても驚くことなんてない。
けれど僕は今、姉の存在に驚いていた――。
姉がいるのが自分の部屋の中だったからだ。高校から帰宅して自室に入ると何故か姉の後ろ姿があった――。
「え…?何やってんの…?」
見つけた時、第一声で僕はそう言った。
「ああ。あんたいつの間にか帰ってきてたんだ。何やってんのって見て分かんない?」
「分かる。俺の部屋の収納を漁ってる」
「正解。あんたの部屋の収納を漁ってるの」
僕が部屋に入った時から収納が開いていて、そこを漁る姉の周りには物が散らかっていた。さらに収納から物を取り出していく姉は、ちゃんと僕の質問に答えていないのにお構いなしであった。
「いや、それはそうなんだけどそういう問題じゃなくて。何か探し物?」
「そうだね……。ちょっとどこにあるか分からないものがあって」
「ヘー。服?姉ちゃんのはここには無いんじゃないかな」
「服じゃない」
「じゃあ何?」
「ちょっとね……」
僕の部屋の収納には僕の物だけでなく、家族の季節ものの衣服やあまり使わない工具、掃除道具等が入っているスペースがあった。だから、たまに僕以外の人が収納を開けることがある。
入っている所が分かるものを持っていくだけなら何も問題はない、でもこうやって色々探されるとまずい理由が僕にはあった。
「言ってくれたら俺が探すよ。大体中にある物把握できてるし」
「いや、いいよ」
「俺が困るんだって。部屋散らかし過ぎだし」
「ちゃんと見つけたら片付けるって」
「うーんと……そういう問題じゃなくって……。とりあえず何探してるかだけ言ってよ。そこに無いものじゃいくら探しても見つからないし」
「――ここにあるのはもう確定してるよ」
その時、姉は声色を冷たく鋭くした。そうされたものだから僕もひやりとした。
「え?」
「ほんと、とんでもないものがあんたの部屋の収納にあったもんだね……」
あ……終わったかも……。
「ちょっと前から何かおかしいと思ってたんだよ。あんたが部屋に入るときやたら楽しそうで、なんか懸賞にハマったりもして、この前は競馬。挙句の果てに隣で耳を澄ましたら微かにキーボードの音が聞こえた日があった……」
不穏な気配は感じていた。まさかとは思ったが既に見つかってしまっていたのか。そんなまさか……。
「これは一体どういうことっ!」
姉が僕の前に何かを突き出したので、僕はもう見る前に仰け反ってしまった。目の前の景色を遮るように目の所へ手を持ってきて、何かを避けるように。
反射的にコントのようなリアクションを取った僕は観念して、ゆっくり目を開ける。しかし姉の手にあったのは思っていたのとは違っていたもので……。
黒くてメタリック……そうなんだけどかなり小さい。姉の掌の上に収まっている。これはパソコンではない……その付属品だ。ねずみの英訳と同じあの……。
「あれ?それ何?」
次にしたリアクションもまた……思っていたのと違うものになった。




