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word59 「黒いパソコン 作り方」②

 この1週間とちょっとの間はずっと、黒いパソコンを手放さなきゃと考えながら生活してきた。


 常に明確な目標を持っていないと、せっかく決心できたあの日の気持ちを忘れて、心が揺らいでしまうかもしれないから、自分で自分に言い聞かせ続けてメンタルをコントロールした。


 具体的な行動としては思い残すことが無いように、黒いパソコンで検索しておきたいことを探して、決めた――。


 まずは折原の夢を叶えるための作業がちゃんと上手くいったのかを確認した。これがちゃんと黒いパソコンが思い描いた計画通りなのかを聞いておきたかった。何度も検索しながら行ってきたけれど、念には念を入れて。


 その答えはイエスだった。「お疲れさまでした。」と簡単な労いの言葉も黒いパソコンからもらった。


 だから次の日からは、検索してみたいことをまとめたノートを広げて、そこにあるいくつもの検索ワードに斜線を引いていく作業をした。


 もう既に検索したワードを赤い線で切っていくのはもちろん……その作業の中でこれは最後に検索しておきたいというワードを探す……。


 というよりは、斜線を引かなかった検索を諦める理由を探した。


 まだ検索したいことが無いかを探すんじゃなくて、もう全部検索しなくて平気だと思えるかを確かめたのだ。だから、全てを切り倒すつもりで作業に望んだ。


 それでも、いくつかはどうしても切れないワードが現れるかと考えていたけれど、最終的には黒いパソコンを使うことなくノートに書かれた全てのワードに斜線が付いた。


 いつか勇気を出してやろうと思っていた僕の未来についての検索だけは斜線を付けるまでに時間がかかったが、それもやめた。


 詳細な未来の検索はやらないで即決定だったけど、ちゃんと僕の将来に人並みの幸せがあるかとか、少なくとも60歳くらいまでは生きていられるかくらいは検索しておいた方がいい気がした。


 そういうものが保証されれば黒いパソコンを手放す意思がより強固になる気がしたし、この先の生活の活力になる気もした……。


 でも、答えがノーだったときに話が変わりすぎると思ってやめた。


 ノーだったら黒いパソコンをもう手放す機会は来ない。聞かなくてもこんな選択ができた僕の将来は明るいし、自分で自分の力を信じたい。


 もし黒いパソコンを手放した次の日に僕が交通事故で死んだとしても、あの世で後悔しないと思う――。


 ――と、そのくらいの覚悟をしたはずなんだけど。


 僕はEnterキーの周りを人差し指でなぞりながら、咳と溜め息の中間みたいな吐息を吹く。


 頬杖をついていた手を崩して、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。スマホを取り出し、慣れた手つきで短いパスコードを入力すると、画像フォルダを開いて……1枚の画像を表示する。


 最も最近撮った写真だった。夕日で赤く染められた山のようにそびえる雲……その周りをとぐろを巻くように飛んでいる龍が映っている。


 小さな画面で見てもひっくり返ってしまうほど迫力があるが、撮影者の僕以外はCGにしか見えない画像だった。


 ノートの検索ワード全てに斜線をつけたもののなにも検索していない訳ではなかった。


 ショッピング検索のポイントを稼ぐ為、前から検索したいことが無かった日にやっていた「今まで 〇〇した回数」という検索をする中で、ノートの中から1つだけ以前に行った検索をしていた。


 それが「ドラゴン 見る方法」。黒いパソコンを手放せばもう2度と見ることはないだろうから今回は撮影法まで検索して……結果がこの画像だった。


 既にホーム画面の壁紙にも設定されていた竜の画像。撮影した日に僕は、これからはこの画像を見る度にやる気を引き出そうと決めていた。


 数日前の考え通り、龍の目を見ていると感動が思い出される。山の上で見た黄金に輝く龍の体、幻のように消えていく儚さ。市民ホールで見たスタンディングオベーションと比べても遜色ない衝撃……。


 僕は竜の画像から力をもらうと目を閉じて、その力を人差し指に集中させた。


 寂しさもある――でもやはり、やらなければ――。


 腕を天井に伸ばし、振り下ろす。「黒いパソコン 作り方」と入力されたパソコンのEnterキーは、今までで最もスタイリッシュに押した。

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