word58 「夢 叶え方」㉑
「好きだ」っていくら真剣な顔をして言っても、冗談だって思われるだろうな……もしかすると、嘘だって笑われるかも……。
少なくとも黒いパソコンの話まですると、信じてくれないだろう。
何でも検索できるパソコンなんて、誰も言葉だけで存在を信じることなんてできない。僕だって、もし自分で持ってなければ何を言ってるんだと笑ってしまう。
そんな妄想みたいな話が現実にある訳がないだろ………なんつって。
でも、本当にあるんだよな――ははは――。
僕は頭の中で笑ってみた。作り笑いだった。
これからある最後の仕上げが終わると、やっぱ黒いパソコンともお別れするのかな。まだちゃんとそう決めた訳じゃないけれど、なんとなく分かってるというか……。
決めるのはたぶん、黒いパソコンを手放すかどうかじゃなくて、どうやって手放すかになる気がするのだ。
僕はたぶん普通じゃなくなっているから。
今まではそれが良いことだとばかり思っていたけど、今回のことで悪い部分もあることが痛いほど分かった。普通の高校生よりも知りすぎている。本来あるべき不安や苦労が失われてしまっている。
今だって、黒いパソコンのことを考えると何だか気持ちが楽になっている、それどころか夢でも見ているように景色全てが作り物にさえ見えてくる。おかしい男なんだと思う……。
「続いては軽音楽部の皆さんです――」
拍手の音と共に演劇部が舞台袖に入ってくるとすぐに、アナウンスが聞こえた。
「さあ、行こうか」
「うん……」
緊張は自分でも意外なほどしていなかった。
演奏には自信があった。昨日は30回は通して弾いたし、動画サイトでこう弾くとかっこいいなんてものを検索して練習したくらいだ。
しかもこれから始まるライブで僕はただの脇役なので目立つことも無い。成功することも確信している。
何よりさっきの妄想で黒いパソコンが味方してくれているような気持ちになった。
「裕実ー!」
「がんばってー」
僕がギターの音を、折原がマイクの音を確認している間に折原の友達からはそんな言葉が飛んできていた。折原は自分の友達には今日ステージに立つことを言っていたみたいだ。
登場したときの拍手は少なかったから本当によく聞こえた。
実行委員の子が運んでくれた椅子に座って客席のほうを見ると、流石にふわりとくるものがあった。
でも先ほどから画面に映った一人称視点の映像を見ているような感覚があって、まだ余裕はある。
「こんにちは。2年の折原です。1曲だけですけど、聞いてください。後の御祭り――」
準備が整い、折原の短い挨拶の後で、僕たちは最後にもう一度目を合わせた。
折原も緊張はしていないようだった。少し膨らむ頬に、これから自分の歌を見せつける喜びが詰まっているように見えた。
頭の中で1、2、3、4と数えてから――弦をはじき、ギターの演奏を始めた――。
「ああ、のし付けて返してやるわ 言葉も気持ちも そこのけそこのけ、私が通る」
がなるような声で始まった歌い出し――瞬間的に、客席が沸いた――。




