表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/217

word58 「夢 叶え方」⑲

 客席の照明が暗くなって、舞台の幕が上がった――。


 お堅い式典でもあり、お祝いの華やかな式典でもあるので、迷いが感じられる中途半端な拍手がちらほらと起こる……。


 まだ出番ではない僕は、その様子を観客席から眺めていた。出席番号順に並べられた退屈な席で目を細めながら……。


「これより、記念式典を開催致します。私は本日、司会進行を務めさせていただく――――」


 始まってしまったか、という思いだった。


 まだ急いで家に帰って黒いパソコンを使えば何かが変わるかもしれない……直前までそんな考えも微かにあったけれど、こうなったらもう止められない。これで未来は確定してしまった。


 ここからは僕が泣こうが喚こうがどうしようもない。逃げ出したり式をぶっ壊してしまおうなんていう度胸は無いし、最悪僕がいなくたって折原1人でステージに立って、アカペラでも歌うだろう。


「一同、ご起立お願いします…………礼」


 立ち上がり、周りに合わせて頭を下げた。「着席」の指示が聞こえると、周りよりも少し早く座って深く背もたれを使う。


 司会の女の人の声も心地いいし、誰も僕なんか見ない暗がり。ちょうどいいから僕は目を瞑った。


 それから目を閉じたり開けたりしながら、式典前半の挨拶の言葉を聞いた。


 校長やらPTA会長やら市の教育委員会の偉い人の話は、どれも同じような当たり障りのない内容で、とてもじゃないが高校生が聞いていて面白い話ではない。


 きっと僕以外も皆、頭では別のことを考えていたんじゃないかと思う。


 でも、いつもの授業を受けるよりはずっとマシだから、平日が1つ潰れてくれて良かったといったところだろう。同級生連中も大きな市民ホールのエントランスや待合で騒いでいた。


 僕も式典が始まってから時間が経つにつれ、なんだか楽になってきていた。もうどうしようもないという状況から生まれる諦めだろうか。自分を慰める方向に考えが完全にシフトした。


 さっさとやって、さっさと帰ろう。そして帰ってから泣けばいいや。全部終わり、それで全部終わりだ。


 もういい、もういいや――。


 一通り式辞や挨拶が終わると吹奏楽部の演奏が始まった。ステージには立たず、これから祝いのパフォーマンスを始めますという数分のファンファーレだった。


 それが終わると間髪入れずに、和太鼓がなり始める。洋から和のリレー、トップバッターである地域の伝統的な踊りをしている団体の演技である。


 空気を震わせる和太鼓の音でにわかに客席が沸き立ち始める。けれど、僕に彼らの演技を楽しんでいる余裕は無かった。次に演劇部の寸劇があって、その次は僕と折原の番だからだ。


 僕は和太鼓の音に紛れるようにして大ホールから出た。本当は演劇部の寸劇が始まってからでも遅くは無いのだが、座っていたくない気分だった。


 重いドアを閉じると、驚くほど音が小さくなる。背筋を伸ばして深呼吸すると、楽屋には行かず窓がある場所を目指した。


 歩きながらまた頭の中でもういい、もういいや――と唱えた。ホールの中を一周するのかというくらい遠回りしながら、時には座り心地の良いソファに座らせてもらって、終わりを受け入れた自分を肯定した。


 式典中の市民ホール、誰もいないその場所はメンタルを整えるのは中々良い場所だった。夢の世界に入ったようで、落ち着いた。


 明日になればこんな気持ちともお別れできる。これから起こる出来事は何もマイナスじゃない。むしろプラスじゃないか。そうに違いない。


 随分楽になった。これでもう大丈夫。さあやり切ろう……そう思えるようになってから、僕は楽屋に向かった……。


「あ、何してたの?遅いよ」


 でもやっぱり……折原に会って目と目を合わせると、胸の中に好きが現われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 黒いパソコンが主人公の思いを汲めないとは思えないし…結果をあえて伏せて行動させていたと思いたい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ