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word58 「夢 叶え方」⑩

「え……」


「あ……」


 咄嗟に出た声もまた重なった。折原と数分ぶりにしっかり目が合って……僕は時間がゆっくりになったような感覚に陥った。


 あ、これ噂に聞くピンチの時になるやつだ――走馬灯だっけ――でも死にそうではなくって、前にもあったかわいくて逆に恐怖ってやつ――かんわいいな、折原さん――てか、これ恋愛漫画とかで見る展開――。


 一瞬でそんな大量の思考が回って、急速にまた現実へと戻される――。


「あ……何?先に言って」


 声を出すタイミングが被った時のテンプレみたいなセリフが口から出た。


「いや、私は……」


「俺大したことじゃないから後で大丈夫」


「……そう、じゃあ私から言うね」


 経験上こういう時に譲ると、さらに譲り返してくるかと思ったが折原は受け取ったバトンを返さず、握りしめるようにして何かを言おうとした。一度俯いてまた僕の目を見る。


 その時、また時間がゆっくりになる。


 もし折原がしようとしてるのが告白なら、自分から言うよりも相手から言ってもらった方が気持ち的には楽――だけど、まさか本当に告白なのか――だとしたら相思相愛――告白だよね、僕もそういう気分だしそうだよね――。


 折原の唇が開いていく様子すらスロー再生のように見えた。仮に告白だとしたら何と言って思いに応えよう、そんなところまで考え始めた時に、折原の話初めの1文字目が聞こえて、考え事は一瞬で消え去った。


「聞いてほしいことがあるんだけどね……」


「うん……」


「その……悩みなんだけど。聞いてほしい悩みがあるの」


「え、悩み……うん何でも聞くよ」


 思っていたのとは違う出だしで僕は少し冷静さを取り戻す。だけど、まだ可能性を捨てきれない。


「さっきさ、私の歌が世界一上手いみたいなこと言ってくれたじゃん……」


「うん」


「それでその私本当に歌手で世界一というか……プロの歌手になりたいの」


 僕は折原のその夢を知っていた。加えて、やっぱり愛の告白では無かったことで反応に困って、何も言えなくなってしまう。


「…………」


「それで高校生になってからは色々努力はしてみたんだけど……でも全然ダメで、それが悔しくて不安で」


「…………」


「ごめんね。いきなり変なこと言っちゃって。困るよね……あはは」


 僕が何も言わないものだから、折原は暗くなった空気を戻そうと作り笑いをした。


 がっかりしている場合じゃない。無言どころか体の動かし方も忘れていた僕は、見たくない笑顔を見て目覚めた。


「いや、全然困ってなんかないよ。ちょっと驚いただけ……そっか折原さんは歌手になりたいんだ」


「やっぱり変だと思う?」


「凄いと思う。折原さんならきっとなれるし」


「自分で言うのも何だけどさ、私もそう思ってたの。私なら歌手になれるって。けど、いざ目指してみたら、その自信が無くなっていくばかりで、私最近怖いの。凄く……怖い」


 折原は服の裾をぎゅっと掴んで、声が大きくなった。

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