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word58 「夢 叶え方」③

 激辛が得意ではない僕がこんなものを食べたら絶対にやばい。きっと汗と鼻水が噴き出てタオルが1枚じゃ足りないし、水なんて10杯くらいあっても足りやしない。


 折原の頼みであれば死んでというもの以外受け入れられると思っていたし、できるだけ何でもやってあげたい。でもこれはワンチャン死ぬ……。


「冗談だよ。さ、早く入ろ。寒いし」


 僕が激辛ラーメンを食べて死ぬ自分を想像していると、折原が僕の肩を軽く叩いた――。少し心配そうにこちらを見る折原で、僕は我に返る。


「何だ、冗談か。ごめんごめん。行こう――」


 暖簾をくぐると店の内装まで赤かった。先週と同じようなやり取りで店員とやり取りして、僕たちはまた窓際のテーブルに案内された。


 先週と違ったのは僕の気の持ちよう。人数を聞いてきた店員に対して、前よりも堂々と「2人」と言うことができた。


「匂いがすごいね。これだけで汗かいちゃいそう」


 折原が座りながら青いコートを脱いで言った。


「ね。嗅いだことがない匂いだわ。鼻にくるし、俺ヤバイかもしんない。普通のでも食べれるかな……」


 僕も外にいた時より緊張感が増していた。でも原因がこの匂いのせいなのか折原と対面して座ったせいなのかは分からない。


「30食限定だけどまだあるよね、このジョロキアラーメン」


「あるにはあるんじゃない?こんなん食べる人そうそういないだろうし」


「見た感じ今食べてる人もいない感じだもんね」


 折原は興奮しているようで、いつもより目が大きくなっていた。その目でなんだか動物のように左右に首を振る。


「本当にそんなの食べるの?大丈夫?」


「いや、たぶん私でもきついよ」


「え」


「私もこんなに辛いの食べたことないし、たぶん汗とかやばいことになる。食べきれるかも分かんないや」


 折原はまさかの発言をさらりと言って笑った。自分できついと分かっている激辛を食べようとしているのはなぜだ、急に理解できない方向に話を進めた。


 女の人ってたまにそういうところがある。


「折原さんでもきついんかい。なのに食べるの?」


「うん、だってさ……せっかく来たんだし、どうせなら1番辛いの食べたくない?その先が地獄だったとしてもさ」


「うーん……そうなの?」


 正直理解できなかったけど、折原のことを否定したくないので我慢する。


「そう、思い出作りみたいな感じ。もうここには来ないかもしれないし2人で来た記念にってことで、1番辛いの食べた方が記憶に残るでしょ」


 その言葉で僕の目がひとりでに大きくなった。さっきは理解できなかったけど、次に言われた言葉は理解できる。それどころか、胸が苦しくなるほど幸せが溢れ出してきた。


 お、折原さん――。僕とのデートを記憶に残したいの――。


「ねえ、さっき言ってたさ……辛いの食べてる男の人が好きって言うのはほんと?」


「ああ、それは本当だよ」


「本当に本当?」


 折原の言葉で決意を固めた僕は少しテーブルの上に身を乗り出して言った。


「うん、かっこいいと思う」


「じゃあ……俺も食べるわ。ジョロキアラーメン」


「え」


 ジョロキアラーメンを食べたら死ぬだと……でも折原に「かっこいい」と言われるなら別に死んでもよくないか。僕は自分に問うた……うん、構わない。

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