word58 「夢 叶え方」②
男は黙って告白……。やると決めた僕はそれから「告白する」という言葉を頭の中で唱え続けた。
そうすることで黒いパソコンに頼ろうとする弱い自分を遠ざけることができた。
ベッドの上で座禅を組み、瞑想した。自宅を出発する時間になるまでずっと勝ち続けて、僕は黒いパソコンを使うことなく、待ち合わせの場所に向かって家を出た。
道の途中でもずっと折原に告白するところをシュミレーションした。もしも今日のデート中にどこかで良いムードになったら「好きです、付き合ってください」と、このシンプルな言葉を彼女に言うんだ――。
いつもよりも体が軽くて、自分の鼓動を強く感じる。今回の作戦はやはり成功だった。告白するという高い目標を掲げれば、道中の時間を上手く過ごすことはお茶の子さいさいだと錯覚できた。
だから寒空の下、駅前で、行き交う人々の中から折原の姿を見つけても僕は、自信を持っていられた。
ジャケットのポケットの中から右手を出して、小さく手を振る。僕の手を湿らせていた汗はたったそれだけで消えるほどだった。
「あ、折原さん。おはよう」
「おはようー。また早いね。待った?」
「いや全然」
今日の折原もやはり想像を超えてくるかわいさだった。まるでおとぎの国から現実にやってきた姫様のように見える。でもしっかり目を見て最初の挨拶ができた。
確信した。やはり今日はいける。
「寒いね。めっちゃ寒くない?」
「寒い。今日の朝寒くて震えてたもん。でもちょっと太陽出てきてくれて良かったね」
「うん。でもさみぃー。早く行こ」
口元に手を持ってきて身を縮めるという、女の子らしい寒いときのポーズをする折原。彼女が少し走ったので、僕も追いついてラーメン屋に向かって歩き出した。
今日の折原はすらっとした青いコートを着ていた。女性のファッションのことはよく分からないが、オシャレに見える。もっと都会の街を歩いていても通用しそうな雰囲気があった。実際そうなのだけど、歌とかギターがめっちゃ上手そうな感じだ。
そんな彼女に負けないように僕も背筋を伸ばして歩いた。一応僕の方が10cmは背が高いので、傍から見て不釣り合いではないと思いたい。1人で歩いている人とすれ違う時は特に背筋を伸ばした。
「もう近いよね?」
「うん。たぶん次の角曲がったところかな」
ストリートビューで予習済みだった僕は地図アプリを使わなくても確かな道のりが分かった。
「あったあった。うわあ何かもう看板が辛そう」
折原が前方に見えてきた赤い看板を指差して言った。看板には店の名前と共に2つの唐辛子が描かれている。
「ははっ、何それ。でも言いたいことは分かる。何かシンプルに唐辛子の絵だけってのが味で勝負してる感じがあるね」
「あ、これもあった。私これ食べるから」
看板を指差していた折原の手が、今度は入り口の横の張り紙を指差した。
「1日30食限定……しびれる鬼辛……ジョロキア入り……」
「そう!めっちゃおいしそうじゃない?一緒にこれにする?」
「いや、俺は普通の激辛でいいかな」
「ええ。私男の人が辛いの食べてるところ好きだから食べてほしいな」
「本当に?え、じゃあ……どうしよ、でもなあ……」
ボケてるのかというほど赤色しか見えないラーメンの写真を前に僕は唾を飲んだ。折原以外からの頼みなら即却下なのだけど……どうしよう。




