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番外編(最後)  「親ガチャ 僕の両親」⑥

 角を曲がって、夜道に足をそっと乗せた。アスファルトの感触を確かめるように踏み込み、どこへ行こうという訳でもなくどこか遠くへ、無心で足を動かす。そうすると僕は闇へ溶け込んで、自分だけの世界に入れた。


 そこから僕は考え事と一緒に、もういいやと思うまで歩き続けた。


 ファミレスで見た集団を頭に浮かべて、あの人たちにも子供は大体親と同じレベル理論を当てはめると……そんな考え事だった。もし先ほど見たあの人たちの親もあんな感じなのなら僕はやっぱり……。


 途中で誰かとすれ違ったときは、その人の親のことを想像してみたりもした。容姿を見ただけで親の事なんて分かるはずもないので凄く勝手な想像だが、姿勢よく歩いている人は過保護に育てられてそうだと想像して、ファミレスで見たような夜に出歩く金髪の若者は放任されてそうだと想像した。


 そうしてまた僕の親と比較して、どんな親が当たりなのか、当たりの親とは何かを考えた――。


「さあ、ここだよみゆうちゃん」


「うわ、おっきいマンション。素敵。住みたい」


 聞いたような名前で呼ばれる女の子とも遭遇した。ここらでは背が高く綺麗な体をしたマンションの中へ、太ったおじさんと入るタイミングだった。顔は暗くてよく見えなかったけど、そんな暗闇でも光るほど化粧が濃かった。


 僕は驚かなかった。いつもの鼓動のまま見て、親の顔が見てみたいと思った。親の顔が見てみたいと言えば悪い意味で使われることが多いけど、純粋な好奇心であんな子の親はどんな顔をしているのだろうと気になった。


 冷えていた体が温まってくるほどの距離を歩いた。町内を大きく一周して、小学生や中学生だった頃の通学路を懐かしんでみたりもした。小さかった頃の記憶と共に、大きかった背中も思い出の中でちらついた。でも僕はまだ歩くことをやめなかった。


 静かになっていく世界の中をペースを落とさずに進んだ。自分の足音がよく響いて、心地良くなった。熱くなってきた足裏も、足を止めるまでは全く気にならなかった。


 もうそろそろいいか、そう思ったのは20時を回った時だった。スマホで時刻を確認すると「20:04」という文字が眩しく見えた。けれど帰ることにした理由は時間よりも、疲れたというところが大きかった。


 結局考えはまとまらなかった。謝るか、謝らないかは答えが出ぬまま。でもこれだけ遅く帰れば、僕の気持ちは親には十分伝わったはず。あちらからきっと何か言ってくるはず。


 成り行きに任せることにした僕は家の前まで来ても止まらず、玄関の扉まで一直線でドアノブに手を掛けた。怖くはなかった……そのはずなのに冷えたドアノブを握った時には、夢の中から急に引き戻されるような感覚があった。


「…………」


 いつもは言うただいまを、僕は言わなかった。無言のまま靴を脱ぎ、リビングを経由せずに2階の自分の部屋へ向かおうとする。


「おかえりー」


 けれど玄関の明かりが点いて、母がリビングの扉から現れた。棒読みのような声色だった。

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