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番外編(最後)  「親ガチャ 僕の両親」⑤

「てかさ、みゆうちゃんの話マジなん?」


「客の男と手あたり次第パパ活してるって話やろ」


「まじまじあいつヤバイよほんま」


「やば。でも前から後輩全員食ったとか自分で言うてたもんな」


「あたしと同じ18歳で既に経験人数100人超えてるらしい」


「ははははは。やばっ――」


 ファミレスという場で最初に始めた雑談がセックスの話で、しかも大声。内容も濃いし、自分達とは別の世界で生きていることがすぐに分かる。


 ただ年齢は自分達と同じくらいのように見える。金色のピアスをしている女が18歳と言っていたし、髪色や服装が違うだけでたぶん全員17~20歳。揃った黒色の服はどれもブランド物っぽい質をしていて、これまた金色の腕時計を巻いている者もいる。


 喧嘩上等のヤンキー集団ではなく、若くして大人の世界に染まっている……そんな感じがする集団だった。


 タバコを吸っていた連中が帰ってくる。


「何?みゆうちゃんの話?」


「うん。お前もみゆうちゃんから誘われたらどうする?」


「いややわあんなん、汚い。じじいが使った穴とか無理。てかほんまに誘われたことあんで俺」


「まじ?」


「でも夜誘われたんやけどさ、昼に他の子とやってなかったらいってたかもしらん」


「ヤバお前。誰でもいいやん」


 集団はまた周囲の声をかき消すほどの声で笑った。今親友と話しても上手くコミュニケーションが取れなさそうなので、僕はしばらく黙って彼らの様子を見る他なかった……。


 たぶん、このままこの集団の近くで過ごしても何もトラブルは起こらないと思う。目が合っただけで喧嘩を吹っかけてくるとかそういうタイプではない。


 そんな印象を受けたのは注文を取りに来た店員への対応は丁寧だったからだ。あらかじめ注文する品と数をまとめて、敬語で伝えた。注文する側なのに数を「お二つ」と間違えて言ったりもしていた。


 ただ、僕は店員が長い注文を復唱している間に親友に言った。


「帰ろっか……」


 このままここで彼らの話を聞き続ける自信が無かった。固めたはずの僕の決意はあっさりと折れてしまった。


「うん……」


 9時までと約束していたのに親友もすぐに頷いた。口を開けて事故現場を見たような顔をしている親友、たぶん僕も同じ顔になっていた――。


「なんか……別の場所行く?」


 会計を済ませて外へ出ると、親友が言った。


「いや、いいわ。帰ろう」


「さらっと奢ってもらっちゃったしどこでも付き合うけどいいの?」


「うん、いいわ……」


「…………」


「…………」


 さっきの集団についての感想を言いたいけど言いにくい。目が合うと2人で苦笑いした。


「あの敵キャラはまだ生きてるでしょ」


「いや流石に死んでない?」


「でもどっかで生きてるのを匂わせる描写があったんだよな」


 気を取り直して漫画の話でもしながら電車に乗った。僕は話しながらもずっと1人になりたいと思っていた。早く1人になって夜の空気の中、考え事に集中したかった。


 時刻は18時30分を過ぎている。もう父も家に帰っている頃だ。電車に乗り合わせた人たちも学生よりスーツ姿の人間が多い。


「ごめん俺ちょっと買うもん思い出したから、コンビニ寄って帰るわ。またな」


 駅に着くと少し強引に親友と別れた。もう少し同じ道だけど、僕たちの家があるほうへ歩き出すとすぐ、僕だけ回れ右して駆け足をした。

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