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番外編(最後)  「親ガチャ 僕の両親」④

「限界まで……。それって何時?」


「さあ、11時とか?ここって24時間営業だよね」


「24時間営業でも高校生は10時になったら帰ってくださいって声かけられるらしいよ。誰かから聞いた。俺も門限無しって言っても、10時までここにいるのは流石にだわ」


「じゃあ9時とか。そのくらいまでいよう」


 どのくらい遅く帰るは決めていなかったけれど、言いながら決めた。中途半端に遅く帰るよりも僕史上最も遅い帰宅時間を更新したほうがいい。その方が母へ僕の怒りが伝わる。


 なるべく自分を追い込む為にも親友と約束をしておく。逃げ道は早いうちに消した。


「9時ならいいけどさ……何で?」


「ん?」


「何で今日は遅くまでいたいの?」


「……別に理由はない。親が帰るの遅くなるって言ってたから俺も遅くまで外にいようかなって。1回どのくらい遅く帰れるか挑戦してみたかったし」


「ふーん。じゃあドリンクバー取ってくるか」


 親へのちょっとした反抗のつもりで始めたことだけど、これからまだ5時間ほどファミレスに居れると思うとワクワクした。その先に待っていることを忘れて僕は親友とスマホを片手に談笑した。


 途中オンラインで対戦できる卓球アプリを、ファミレスのWi-Fiでダウンロードして遊んだ。今どきどこにいてもこの小さなスマホという端末1つで繋がれて、友達と遊ぶコミュニケーションツールにもなる。中1の頃から親に与えられているこれがなければ、僕は生きていけない。


「部活終わる時間になったら誰か誘ってみる?」


「いいね」


「女子誘うか」


「お、いっとく?」


「うん、10人くらい」


「いや……俺らに誘える子なんて1人もいねえだろ……」


「悲しいな……」


 一通り会話が終わると、僕たちはテーブルに教科書とノートを広げて課題を進めた。勉強するかという話になった時は、テスト週間でも無いのにファミレスに来てまで勉強なんてと2人して言ったけれど、他にやることも無いので手持無沙汰になるよりはと始めた。


 学校の先生の真似でもしながらめんどくさい系の課題を、答えを写す形で終わらせる。教科書が2つあったほうが効率の良い作業だ。


「そろそろ俺も何か頼もうかな」


「じゃあ俺も追加でデザート的なもん食べるわ」


「マジで奢ってくれるんよな?だったらちょい高いの攻めたい」


「でもどうせエビフライだろお前は――」


 外が暗くなるにつれて楽しげだった僕の心に暗雲が漂い始めた。まだ青空のほうが割合が多いけれど、なんとなくそわそわする。このまま連絡もせずにここにいると僕の両親はどういうアクションを仕掛けてくるのだろうか。


 いつもより帰宅が遅い息子を怒るのか、心配するのか……。僕の帰宅が遅い理由を察して、向こうから謝ってくるのか。


 バニラアイスを食べ終えて、またスマホを手に取る。口に残る甘さと冷たさを喉の向こうへ運びながら、SNSのアプリを開いた。体が冷えてきたからか、より落ち着かない。次の瞬間早く帰ってくるようにと親からメッセージが届く気がした。


 また僕は昨日の親子喧嘩を思い出す。今そんなこと言わなくていいだろという小言の数々……弁当箱を出さない、トイレットペーパーをちゃんと切らない……じゃあおこづかい減らすだとか弁当自分で作れだとか、親の立場を利用したずるいことも言われたっけ……。


 「よし」と小さく言いながら、ほどけかけた糸を結び直す。やっぱり簡単に折れちゃいけない。僕の気持ちを態度で示し、帰ったらちゃんと親ガチャを黒いパソコンで検索するんだ。


 しかしそう決めた直後、店内へぞろぞろとやんちゃな風貌の集団が入り込んでる。半分は金髪、赤色の髪をした者までいる男女10人くらいの集団は僕と親友が座っているテーブルの近くに腰を下ろした。


「なんか適当に注文しといて。俺らタバコ吸ってくるわ」


「うぃーす」


 揃いも揃って黒い服を着た集団の中から数人が喫煙ブースへ向かう。連中は扉を開ける前から火を点けて煙草を吸った。


 残った集団は第一声から騒がしくて、メニューを見ただけで爆笑している。その笑い声を聞きながら、僕は嫌に刺々しくなった空気を吸った。

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