番外編(最後) 「親ガチャ 僕の両親」③
これは一体どういうつもりだと思う……。すぐに自分の中の自分に問う。
まさか僕に悪いことをしてしまったという気持ちがあるのだろうか、謝りたいという気持ちがあるのだろうか、あの母に。
僕への謝罪の思いが現れた結果がこのフライパンで作る簡単からあげと冷凍のささみしそフライだとでも言うのか。2つが同時に入っていたことは記憶にない。
いや単なる偶然だろう……。だって喧嘩したのは昨日の夜なんだ。弁当のメニューは買い物の段階で決まっているはず。元々作る予定だったものが、狙ったようなタイミングで出てきただけ。
ランチバッグの中に何か紙が入っていないか調べる。親子喧嘩した次の日の弁当に「ごめんね」と書いた紙を入れるみたいな展開をドラマで見たことがあったからだ。しかし、底まで見ても特に何も見当たらない。
ほら、やっぱり偶然だ……。
僕は箸を取り出して弁当のおかずを1口、そして2口と食べた。ご飯も一緒に口の中に入れて咀嚼する……偶然、偶然のはず……なのに心なしか、いつもより味がしょっぱく感じるのは僕の心に罪悪感が芽生え始めているからか。
「なあ、今日の放課後空いてる?」
口に入れた物を飲み込むと、僕は親友に言った。
「空いてるけど」
「じゃあさ、ファミレスでも寄って帰らない?あそこのファミレスのたらこスパゲッティが食べたい」
「今飯食べてんのに飯食いに誘うのか。いいけどさ」
「ああ、なんか別の場所でもいいよ。久しぶりにお前んち行くか」
「いや、俺もファミレスがいい――」
心の中でざわつくものはある。でも簡単にそのざわつきに屈したくなかったので、今日はなるべく遅く帰ることに決めた。
午後の授業はあっという間に終わってしまった。いつものことだった。昼休みの終わりにはまだ2時間もあるのかと溜め息を吐いて席に着くのだけど、2時間後にはもう帰れるのかという感覚になる。寝ていい教科が午後にある日なんて、本当に一瞬である。
僕は約束していた通り、親友と一緒に教室を出てファミレスに向かった。高校から最も近いところじゃなくて、電車で1駅移動してすぐの場所にあるファミレスを選んだ。親友にはどうしてもそこのたらこスパゲッティが食べたいと無理を言った。
その気持ちは嘘ではなかった。いつもよりしょっぱく感じるおかずはご飯と相性が良かったが上手く喉を通らなくて、3割ほど残してしまったからだ。
「お前はそれだけで良いの?」
「うん、十分。腹減ってきたら俺も追加でなんか頼もうかな」
注文を終えたテーブルには親友が注文したポテトフライと、たらこスパゲッティになんこつ唐揚げが置かれていた。後者2つは僕が注文したここに来るといつも頼むメニューだ。
「いつもエビフライ定食か、エビフライが付いたオムライス頼んでるじゃん」
「うん、あれめっちゃうまいもん。でもまだ早いわ」
「今日何時までいけんの?」
「別に何時でもいいよ。うちは変わらず門限無しだし」
ポテトをケチャップにつけながら親友が言った。他には誰も誘わなかったので2人きり。昼下がりのファミレスには人が少なかったので、店の一角が2人きりだった。
「お前んちそういうとこがルーズで良いよな。お母さんすげえ優しそうだし」
「それは俺も思う。でもお母さんならお前んちのほうがいいだろ。優しいし美人じゃん」
慣れっこの親友は他のいやらしい顔をする友達と違って、そっけなく母の容姿を褒めた。僕は肯定も否定もせずスルーして話を進める。
「今日みたいに外で夕飯食べて帰ったら、その分お金貰えるんでしょ」
「うん。なんか友達付き合いは大事だから、誘われたときお金がなくて断るのはダメって言われてる」
「それマジで羨ましいわ」
「言うてもお小遣いが多いってわけじゃないし。毎日外食してもお金が増える訳じゃないし、あんまり高いの食べたら怒られるし。競馬でお金持ちのお前のほうが金持ってるよ。奢ってほしいくらい」
「……じゃあさ、今日は俺奢ってやるよ」
「え、マジで」
僕はその時言いたいことを切り出すちょうどいいテクニックを思いついた。
「その代わりさ、今日は限界までここにいよう」




