番外編(最後) 「親ガチャ 僕の両親」①
昨日、僕は母と喧嘩した――。
夕食後に僕が部屋で寝転んでいると、母が部屋に入ってきた。母はほとんどノックもせず、いきなりドアを開けた。そして部屋を見て言った。
「うわ、きたな。どんだけ散らかしとん」
僕はその言葉だけで飛び上がるように腹が立った。言われた言葉もそうであったが、何よりいきなり自室のドアを開けられたことが許せなかった。
僕はズボンを脱いでいたのだ。
「ノックしろや」
投げつけるように言った。
「たまには掃除しなさいよ。ゴミもこんなに溜まっとるし汚いな。何でこんなに片付けられない子に育ったんだろ」
「前もいきなり入ってきたよな。何考えてんの」
「ああ、制服も脱ぎ散らかして」
母は僕の言葉を無視して床に落ちている物を拾い始める。
ズボンを脱いでいたと言っても布団の中だったのでまだセーフだった。でも、ちょっと間違えば大惨事だった。季節が冬じゃなかっただけでアウトだったのだ。だから、母の態度でより怒りが湧いてくる。
母が机に置いていた制服を手に取って、黒いパソコンも入っている収納へ向かった時には思わず大きな声を出してしまった。
「やめろや!」
驚いた母はようやく僕の方を見た。ハーフに間違われたことがある母の大きな瞳が、より大きくなっていた。しかし数秒で、鬼とハーフになったのかという形相に変わった。
「あんた、親に向かって――」
そこからはもう激しく口論になった。久しぶりにそんなことになったので、大体いつもあんたはと日々の小さな不満も合わせて爆発した。
僕もたくさん腹立つことを言われたので、バレないようにそっとズボンを履きながら応戦して、あれやこれやと30分は言い争った。お互いにああ言えばこう言うを繰り返し、最後には父が止めに入るほどに――。
だから、一晩明けた今も一切言葉を交わしていない。
「…………」
食パン1枚だけの朝食を無言で食べながら見た母は、無言で洗い物をしていた。先に家を出た姉と父の分の皿をいつもより力強く音を立てながら洗っている。
朝に2人きりになっても謝る気なんてさらさらないようで、洗い物が終われば僕がまだいるというのに掃除機をかけ始める。僕がここにいないかのように目も合わせない。
僕も構えは同じだった。向こうから謝ってこないと謝ろうなんて思っていない。昨日の口論は僕が全て正しかったし、100パーセント母が悪い。謝られても言葉だけでは納得できないくらいだ。
普段は朝食の皿は洗わないけれど、僕は敢えて洗って机の上も拭いてから家を出た。
通学路を歩きながら、今朝の母の態度に腹を立てた。何だあの掃除してる姿を見せびらかすような態度は。第2ラウンドを望んでいるのなら受けて立ってやれば良かったか。
昨日言われた言葉も思い出す。部屋が汚いだとか何でこんなに片付けられない子に育っただとか。大体育てたのはそっちじゃないのか。考えてみると、片付ける能力ってどう育てるかでかなり変わってくる部類のものな気がするし。
母と父が子供の頃から僕に片付ける習慣を身に付けさせていれば、僕は片付けられる人間に成長できていたのではないか。僕はこまめに「片付けろ」と言われた記憶も無いし、人一倍熱心に掃除する背中も見せられていない。
そうだ、きっとそうだ。僕の片付けられない体質も母のせいだ。
言い聞かせるように結論付けると同時に良いことも思いついた。今日の黒いパソコンの検索は「親ガチャ 両親」にしてやろう。




