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word56 「付き合える未来 あるか」⑤

 僕は言いかけた言葉を無かったことにした。


 なんとなくそんな気はしていたが、折原はやはりラーメンを食べただけで今日のデートは終わるつもりだったらしい。そもそもデートって程での案件でも無かったのかも。


 でも、僕もそれで良かった。このまま帰るなら帰るで、今日のところは満足だ。朝の段階では食後のプランも考えていたけど、本当の限界が来ている。折原と絡むことでしか摂取できない栄養は、かなり過剰摂取気味だ。


 内心、ほっとする気持ちもあった。


「お会計……とりあえず俺が払っとくよ」


「え――」


 僕は早足で席から離れた。コートを着ようとしている折原からの返答も待たずに。


 デートを続ける力は残っていないけど、最後にこれだけは頑張りたい。僕は財布を取り出しながら、出口へ向かった。


「お会計お願いします」


「はーい……。えっと、A定食お2つで……2500円になります」


 言われた金額をそのまま僕が払う。ちょうど払えたので千円札2枚と500円玉1枚。


「はい。ちょうどいただきます。ありがとうございましたー」


 遅れてやってきた折原は財布を手に持っていて、店員の言葉を聞くと、開いて閉じて、また開いた――。


「1人1250円だったよね?」


 店を出るとすぐに折原は言った。


「いや、払わなくていいよ。今日は俺の奢り」


「え、いいよいいよ。私奢ってもらう気なんて全然なかったし……1250円ちょうどあるかな……」


「本当に払わなくていいから……その、何というか……」


 少し前かがみになってお金を探していた折原の財布を、手で下げる。


 そうすると、近い距離で折原と目が合ったので僕は目を逸らしてしまった。考えはまとまっていたはずなのに、言葉が出てこない。


「えっと……払いたいんだよ。これは何か借りを作りたいみたいなことじゃなくて、今日楽しかったからさ。今日の楽しかった分を君にありがとうってこと……」


 男のプライドだとかデートの注意に書いてあったからじゃない。身分以上にお金があるからでもない。純粋にこの子の分まで払いたいと思った。


 これも朝の段階のプランとは違っていたのに。高校生で奢るなんて逆に申し訳なくさせてしまうかもと考えたから。それでも、僕は気付けば決めていた。


「…………」


「無理して奢ってるんじゃなくて、むしろ払いたいんだよ……」


「……じゃあ、ありがとう」


「うん」


「また近いうちにどっか食べに行きたい。一緒に」


 それは僕も言おうと思っていたことだけど、折原のほうから言ってくれた。


「いいね。また他のラーメン屋?」


「それがいいかも。今度は私が先にお会計しに行くから」


「本当に気にしなくていいから。って言っても難しいよね……じゃあ、今度は割り勘で――」


 帰る方向は違っていたので、僕たちはラーメン屋の前でそのまま別れた。小さく手を振って。


 外の日差しは店に入る時よりも強くなっていた。そのせいか、空気はより澄んでいる。車や人の通りは多くなっているのに、どこかの山の上のような爽快さを感じる。


 見上げればやっぱり雲が少なかった。気持ちが良いほど広がる青空。そんな空が僕には、虹がかかっているように見えた――。



 その日の夜、日を跨ぐと僕は黒いパソコンを取り出した。既に決まっていて流れるように入力するワードは……。


「付き合える未来 あるか」


 折原との恋に関して、あまりずるい検索はしたくない僕にとってこのくらいなら許せるかというものだった。いつどうやったら付き合えるかは聞けないけど、上手くやれば付き合えるかどうかだけは聞いておきたかった。


 Enterキーを押すときに緊張は邪魔しなかった。初デートに手応えはあったから。次また会う約束までしたし。途中ちょっと咳き込んだりとかっこ悪いところもあったが、付き合える未来が全くないなんてことは無いだろうと胸を張っていた。


「あなたが折原 裕実さんとお付き合いできる未来はあります。」


 結果も予想通りだった。


 それを見ても消えてくれない恥ずかしさと興奮と付き合いながら、僕は今夜もまた眠れない夜を過ごした。

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[良い点] 甘酸っぱい……キュンキュン来る……
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