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word56 「付き合える未来 あるか」④

「ゴホッごほっ。え、パソコン。ゴホッ」


「大丈夫?」


「けほっ……」


 周囲に唾が飛ばないように口を手で目一杯覆って咳をする。


「どうしたの急に?」


「……ううんっ。いや、もう大丈夫。ごめんね。水が気管に入っちゃっただけ」


 喉の痛みよりも嫌に頬が熱くなる。まるで首から上だけがじりじりと炙られてるみたいに。ラーメンから立ち上る湯気が上手いこと顔を隠してくれないかと願った。


 ああ、初デートなのに何やってんだ。そう思ったけれど、目の前の折原は変わらず「おいしい」と言いながらラーメンを啜っていた。だから、後悔するのは後回しにする。


「それでパソコンの話だっけ。俺自分用のパソコンは持ってない」


「そっか」


「何で聞いたの?」


「いやね、ギター上手くなりたそうだからさ、練習に役立ちそうなパソコンのソフト教えてあげようと思って。私も使ってる奴なんだけど」


「あ、そういうことか。でも、ダメだな……いや、ワンチャン買うのもありかも」


 落ち着け落ち着け。やっぱり昨日のメッセージの内容で話してるだけだ。流れが悪くて黒いパソコンを持っているのがバレたかと一瞬思ってしまったけれど、そんな訳はない。


 言ったパソコンを持っていないという言葉は嘘のようで、嘘じゃない。あれはまんまパソコンの形をしているけれど、普通のパソコンとは違うものだから。


「例の競馬で当てたお金ね」


「そう。まだいっぱいある訳じゃないけど。安いやつならたぶん買える」


「いいなあ……。私も競馬やれたらいいのに」


「え、お金が欲しいじゃなくて、競馬がしたいの?」


「そうだよ。だって私もやったら当てられる気するもん」


 言葉の後半で笑いながら言ったので、僕も笑う。


「折原さんはパソコン持ってるんだ」


「うん、ほとんどギター関連でしか使ってないけどね――」


 ちょっとしたアクシデントは折原と話していると、すぐにどうでもよくなった。


 僕たちは豚骨ラーメンのA定食を周りの人たちより長い時間をかけて食べた。僕にとっては、汚い食べ方にならないように注意していたからという部分も大きかった。けれど、それ以上に話が盛り上がった。


 緊張が邪魔するだけで、僕も折原とは話しやすかった。あれこれ考えて気を遣われるより思ったことを言ってくれたほうが、こっちも素直に話せる。学校で話したどんな女子より、もっともっと話していたいと心が欲する。


 僕たちはきっと相性が良い。生まれた時から結ばれる運命にあるのだ――。


「はあ、おいしかった。でもお腹いっぱいで苦しい」


「よく全部食べれたね。俺でもけっこうきついくらいなのに」


「もしかして引いてる?」


「ううん、全然。さすがラーメン女子とは違うなって」


「でしょ。そういう子は残したりしそうだもん」


 お互い餃子とチャーハンの皿まで全て空になって、紙ナプキンで口を拭くような時間帯になった。入り口のほうでは数人席が空くのを待っている客がいる。長居する場所じゃないし、あとはさっさと会計を済ませて退店しなければならない。


 僕は未だに言えていないことをいつ切り出すか迷っていた。長めに口を拭いて、お盆まで拭いたりしながら、外出てからでいいかなんて考える。


 でも、どうせ言うなら早めのほうが……。


「ねえ、この後って――」


「さあ、帰ろうか。家着いたらお昼寝しようっと」


「あ、うん。そうだね」

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