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word56 「付き合える未来 あるか」③

 折原さんって、けっこう思ったことを素直に言っちゃうタイプだ。メッセージのやり取りからも読み取れたし、会って話してもそう感じる。天真爛漫で、幼くもある。


 それでいて、仕草は大人っぽいというか品がある。今も背筋を伸ばして座っているし、その様子から芯の強さみたいなものを感じる。一見相反する2つの要素だが、彼女は2つを含んだままちゃんと成り立っている。


 不思議、ミステリアス。ギャップ……高低差ありすぎて、どうにかなってしまいそうなほどだ。


 そんな彼女に「話しやすい」と言われた――。男の子と2人でご飯食べに来たことが無いことを聞いちゃった――。


 これはもう告白するしかない――。それ以外ないだろう――。


「このからマヨ丼とかチャーシュー丼もめっちゃおいしいよ。でも、今日はラーメンだよね……だとしたら、この辛い奴も辛党の友達が言うには堪らんらしい」


「え、私も辛いの好きだよ。うわあ、おいしそう。ありだな」


「俺は豚骨ラーメンでチャーハンと餃子が付いたA定食にしよっかな」


 近いうちに告白することを決めると、なんだか体中から力が湧いてきた。


 こんなところで躓いていては告白なんてできる訳ない。より高い壁を見据えたことで今立ちはだかる物が低く見えるようになったのか。分からないけど、初めて経験する謎現象だ。


 食事が上手く喉を通らないだろうからラーメン1杯だけと決めていたのに、気づけばがっつりめの定食を頼んでしまった。


「じゃあ私も同じのにしてみようかな」


「折原さんも定食でいける?」


「食べきれないかもってこと?」


「うん、けっこう量あるよ」


「大丈夫。昨日の夜からすごくお腹空いてたのに、朝も何も食べずに来たから」


「本当に?」


「ラーメンの為にお腹空けといたから。でも、もし食べきれなかったらあげる。だめ?」


 さらっと放たれる殺意の高い攻撃にも、僕は自信満々に任せろという態度を取った。「ふっ」くらいしか声が出なかったので、ほぼ無言で親指を立ててから、呼び鈴を鳴らす。


 店には続々と客が入ってきていた。自分たちが入店してからちょうどラッシュが始まったらしくて、もう半分は席が埋まっただろうか。初めて背もたれに体を預けると、そういうところにも気づけるほど視野が広くなっていた。


 ラーメン屋に飾られがちな、達筆な習字で書かれたメニューは壁にも飾られている。そこにでかでかと書かれたオススメラーメンを今入ってきた客が、席に着くなり注文したので、僕と折原は目を合わせて顔だけで笑った。


「ねえ、これ本当においしいね。とってもギルティ」


「ね。昨日から食べるの我慢して来た甲斐があった」


「私ラーメン食べる用の服も着てきたから」


 テーブルにちゅうもんしていたA定食が運ばれてくると、2人で雑談しながら食べた。


「ああ、黒い服着てきたってこと?」


「そう。これで食べるのに集中できる」


 灰色のコートを着ていた折原は、注文を終えた後にそれを脱いでいた。さっきまでの僕なら直視できない可愛さだけれど、限界突破状態はまだ継続していた。


「昨日映画見たって言ってたじゃん。それについて詳しく話してよ」


「え」


「あれ?言ってなかったっけ?」


「いや、見た見た。怖い奴で。その……宇宙人が地球に侵略してくんのよ」


「ああ、最近流行ってる奴?あれってもう家で見れるの?」


「いや、それじゃなくて……ちょっと古い奴で……題名は何だったっけ」


 困る質問をされたので、僕は持っていた箸から手を放してしまって、なんとなく水を飲んだ。


「あ、そういえば家にパソコンってある?」


 さらに不意打ちを食らった僕の気管に水が入り込む。

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